競技会九日目(午後の部)
琴乃を控え室のソファに寝かせると、彼女を休ませる。今の琴乃は意図しないタイミングで黒帯を発動させたことと、高威力の魔法の発動が重なって、体内の霊子をかなり消耗していた。太陽は彼女の状態を診てそう判断すると、
「休めば回復はするけど、朝華の力を借りた方が早いな」
「じゃあ、呼んできますね」
「関係者以外立ち入り禁止じゃなかったけ?」
「自室に運んだほうがいいかもね」
「そうするか」
太陽は先程と同じ様に抱えて運び出す。向かう先は琴乃と彩の泊まる部屋だ。朝日は朝華の元へ向かってもらった。ぐったりしている琴乃を抱え、道中、彩を見つけると事情を話して部屋に入れて貰った。部屋について琴乃を寝かせて、擦りむいたところを消毒してガーゼを付ける。それが終わると、丁度よく朝華が連れてこられた。
「朝華、この人の事よろしく頼める?」
「うん、任せて」
「じゃあ、任せる」
そう言うと朝華は琴乃の寝ている布団の中に入って一緒に寝始める。
「………何してるの?」
「朝華が引っ付いているとその人に合わせて霊子の波長をその人に合う波形にして提供してくれるんだよ」
「太陽君は出来ないの?」
「俺のは強すぎるからな。入れると我妻さんの方が持たないのよ」
「よくわかんない」
彩は状況を話されてもイマイチ状況を掴み切れていないが、太陽がそれ以上話してくれる事はなかった。何というか、余裕が感じられない。
「とにかく、この子が琴乃を助けてくれるって事でいいんだよね」
「うん。そういう事でいいよ」
「あのままじゃ、二日くらいは昏睡状態でしたけど、これなら数時間で目が覚める筈ですよ」
「ならいいか、な?」
「まぁ、良いんじゃない?」
太陽は琴乃の額に手を当てて熱が無いかを確認する。霊子の消耗が激しいと衰弱して風邪と似たような症状がでたりする。
「俺もできるけど、あんまり彼女の負担になるような事はしたくない」
「病気ではないんでしょ」
「病気じゃないけど今は心身共に疲れている。俺ので無理に回復させることもできるけど、後遺症も考えられるから。こうやってちゃんと休ませれば万全な状態に回復するよ」
「じゃあ、ちゃんと休ませないとか」
「………なんか、買ってくるよ。欲しい物とかあったら連絡してくれ」
太陽は部屋を出ていき、売店へと向かう。
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太陽を見送った朝日と彩は琴乃の傍に座った。互いに沈黙は苦にならない質だが共通の友人がこの状態では普通に気まずい。朝日に関しては身内が原因の大半になっているのだからなおさらである。
「この度は大切なご友人を傷つけてしまい申し訳ありませんでした」
「………いや、謝られても」
沈黙に耐えきれなかった朝日は正直に彩へ謝罪した。突然の謝罪に彩の方は困惑気味だ。
「なんか、耐えられなくて」
「気持ちは分からなくはないけど。……大丈夫なんだよね」
「そこの保証は充分です。兄さんが関わる以上は万が一は全部つぶされます」
「それなら、私から言う事はないよ。それに謝罪は本人に言ってあげて。私が先にそれを受け取るのは不義理だと思うから」
「そう、だね。そうするよ」
「うん」
その後は太陽が返ってくるまで琴乃の横で二人でおしゃべりをした。因みに朝華は琴乃に抱き着いた段階で寝ていた。
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太陽が買い出しを終えて彩たちの部屋に戻ると、琴乃は顔色が正常に戻り、呼吸も安定していた。太陽は買ってきた物を机に並べる。何時目覚めるかもわからないので夕食過ぎた時様に軽食も用意した。
それが終わると彩から太陽へ質問がされた。
「そういや、あの黒い奴を使うのってどんなリスクがあるの?」
「リスクとしては大量の霊子を使う事かな。初心者の内は使用量と自分の実際の霊子量を見誤って、使いすぎで倒れる奴も珍しくはないし」
「今回もそんな感じ?」
「いや、今回はMAEを使ったからこそ起こった事故だな。MAEは魔法に必要な霊子を強制的に吸い出す。加えて吸い出す霊子は質が均等になる様に最初に吸った霊子の質に合わせて吸収する。これは魔法の威力とかを調整するのに役に立つ機能だな。今回は黒帯を飲み込んでしまったことで、その基準の霊子をかなり強引に吸い取った事で霊子の枯渇が起こってしまったんだな。その後にも無理矢理魔法を使ったし。休めば治るけど、こんな事を繰り返すと魔法が使えなくなる可能性もあるな」
「………それは」
「繰り返したらの話だけどな。俺がちゃんと出力の方法とか師事してやれば何とかなる」
「それならよかった」
彩と太陽の会話が終わると、朝日が混じって三人でしばらく会話をする。
「今日の競技の結果でどうなるのかな?」
「昨日は優勝、今日は一位と二位。これなら伊月高の優勝は確定だな」
「そうですね。終わってみると呆気ないというかなんというか」
「考えてみれば夏休み入って二週間かそこらなんだよな」
「……言われてみれば」
「終わったら何しようか」
「妹が受験だからな、勉強みないと」
それぞれ話していると、朝華の目が覚めた。
「んぅ、むぁ、………ぁあ、ふぅ」
可愛い欠伸をすると周囲を見渡す。近くで琴乃が寝ころんでいるのもを発見し、額に手を当てて熱を確認する。異常がない事を確認すると琴乃に毛布を掛けて自分はベッドから降りる。
「お疲れ様」
「うん、ありがとう」
太陽が寝ていた朝華にスポーツドリンクを差し出し、彼女はそれを勢いよく飲む。
「美味しかった。ありがとう」
「こっちも助かったよ。ありがとう。これはお駄賃ね」
「おー、頑張った」
「うん、今後も期待しているよ」
「まだ、夕食まで時間あるけど、どうする?」
「一緒に待ってる」
「そう」
そこからは琴乃が目を覚ますまで四人でお話をしていた。




