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学生魔導士の騒動録~その力は誰のために~  作者: Dr.醤油煎餅
第二章
71/115

競技会七日目(夜の部)

 女は新しく用意していたジュラルミンケースの中に機械とカードを封入したケースを入れる。前に入れていたモノも高性能なケースであったが、こちらも負けず劣らずの性能な奴だ。

 女は屋上から離れ、廃ビルの中へ入っていく。ココには女の本当の主人へと連絡を取る為の秘密通信回線が繋がった連絡機器が用意されていたのだ。因みに一回使ったら逆探知も通信傍受、追跡もできない様に焼き捨てることが出来る。ボヤ騒ぎが起こっても、不良少年がたまり場にしていた事で起こった騒ぎにする工作もバッチリ仕込んである。


「お帰りなさい」


 そんな誰もいない筈の場所に先客がいた。加えて、連絡用の機器はすべて破壊された後だった。


「任務の報告は全て失敗しましたで通ったから、今後の報告の必要はないよ」

「貴女は………」


 女は目の前の白い青年の事を知っていた。この青年は軍が頼りにしていた凄腕の技術者で、機械の本来の持ち主であった。


「良い訳を言う必要はないよ、返してもらえればいいしね」

「なっ……」


 青年――、太陽は既に機械を取り戻し、女の頭を掴んでいた。女は反射的に太陽の手を外そうとするが、ビクともしない。


「この装置の根幹となっている魔法を折角だし、感じさせてあげるよ」


 太陽が力を籠めると女の身体が、どんどん薄くなり始める。


「死体の処理も必要ないから、安心してくれ」

「まっ――」


 数秒しただけで女の痕跡は完全に消えてその場には太陽だけしかいなくなっていた、いつの間にか廃ビルの中身も無くなっていた。

 太陽は空間の隔たりの存在を薄くしてワープゲートを作り、ホテルの自室へと戻ってきた。


「戻ったよ~、って、手紙が」


“会議室にお呼び出しがかかった、見たらすぐに向かえ”


 手紙から感じる不機嫌さを感じ取って、太陽は急いで伊月高が使っている会議室へ向かった。


✿  ✿  ✿


 太陽は会議室の扉をノックして中に確認を取ると、入室の許可が出た。


「失礼します」


 室内に伊月高の首脳陣と辰馬が立って待っていた。


「……本日はどのようなご用件で?」

「先ずは、今日のサークルレースの方の結果は分かって貰えてる?」

「はい、新人戦は決勝進出、本戦の方は敗退でしたね。事件があったのに代わりの選手も認められなかったとか」

「ええ、控えになる選手がいないとかで認められなかったわ。冬華もサークルレースの前に二種目でちゃっているから出場できないって言われちゃったし」

「大会委員会も流石に事態を重く見ているようですね。必死に隠蔽と捜査を続けているそうですが」


 酷く侮蔑したような表情で辰馬が補足を付け加えた。太陽がいない間に襲撃事件の後処理を終えたようだが、軍関係者の不祥事を恐れてか隠蔽を行っているらしい。幸い、死者はいなかったものの、朝華がいなければ貴重な若人に癒えない傷を残すところであった。

 会場警備にあたっていた軍関係者が悪いといえばそうなのだが、責任の押し付け合いが始まっているのだろうと辰馬の表情から太陽は察した。


(そう言えば、朝華があの場にいたのも謎だよな。まぁ、日頃からウロチョロしてるしあんま関係ないんだろうけど)


 実際、朝華は競技場に初めて訪れたので、朝日のレースの観戦が終わるとその周囲を見学していたのだ。太陽はよほど大きな問題が近づいていない限りは朝華を自由にさせている。救われたというべきなのか面倒事に巻き込まれたというべきなのか。まぁ、実際、朝華が気付かなければ後遺症を患う可能性があったのでよかったことなのだろう。親としては子供が危険な事件に巻き込まれていたことに気付けなかったのは忸怩たる思いはあるが。


「明日の競技も選手はいませんし大ピンチですね」

「そのピンチを何とかする為に太陽君、辰馬君にお願いがあります」


 太陽達は表情を崩さず吹雪の次の言葉を待つ。


「二人共、明日のウォー・ファイトに出てくれませんか?」

「なぜ、と聞くのは適当ではないですね。出ても大丈夫なのですか?」

「問題有りません、サークルレースの方は掛け持ちできる選手がいない事を問題視して参加を止めさせてきたので、こっちの競技は何にも参加していない二人なら何とかなると考えました」

「実際、何とかなったと」

「丑巻君のお蔭です」


 エヘンと胸を逸らして鼻を鳴らす吹雪。丑巻の方は表情の変化が乏しい為、何考えているかは分からない。


「太陽君たちの実力は分かっているつもりです。特に太陽君は今大会中に大きい成果も上げていました。なら、それを使わない手はないという事です」

「………はい、承知致しました」


 しかし、太陽には気になる事があった。ウォー・ファイトは四人チームで出場するのがルール。現場に出すのを三人に絞ってもあと一人は必要であった。


「残りのチームメイトは太陽君たちが適当に決めてくれても構いません」


 適当な、と太陽と辰馬は毒づいた。次の日のお昼ごろに始まるから単純に考えて12時間睡眠と食事の時間を考えると約4時間半。


「登録選手以外から選んでも構いませんか?」

「理由を聞きたい」

「出場予定だった彼らは俺の弟を相手に逃げられる様に訓練を積ませていたんです。正直、その積み重ねのない人物をいきなり出すのは厳しいですし、この局面を脱することが出来ないと考えます」

「同感です。最悪、一人犠牲に逃げて旗を取って逃げ続けるを基本コンセプトにしてたので、コイツと訓練させていない人間を試合に出したら潰れる可能性もあります」

「………候補はいるんだったな。我々も説得に加わる、案内してくれ」


 太陽は案内よりも呼び出した方が手間はないと考えて、自分達が泊まっている部屋に候補の二人を呼び出し、先輩方を連れて説得に向かった。


✿  ✿  ✿


「という訳で、石井純二君と新田陽斗君を推薦します」


 太陽は丑巻に二人の事を紹介する。丑巻は二人の事を見て口を開いた。


「急に呼びつけてしまって申し訳ない」

「い、いえ、大丈夫です」

「暇してましたし、予定とかも特になかったですから気にしないで下さい」

「そうか。では、本題に入らせてもらう。昨日の事件については知っているな」

「昨日、……ウォー・ファイトの選手が襲撃された奴ですよね」

「そうだ。その件を受けて大会委員会と掛け合い、代理を出す形でなら出場が認められた。我々は月隠と東海に出場を打診し、受け入れて貰えた。人数が足りないため、二人に推薦を求めたところ、君達が選ばれた」

「いや、……あ~、登録選手じゃなくてもいいんですか?」

「構わない。当校に在籍している生徒ならだれでも構わないと書面でも口頭でも約束を頂いた」

「それなら、まぁ、自分は構わないです」

「僕も大丈夫です」

「ありがとう。君たちの活躍を楽しみにしている」


 そう言って丑巻は部屋を出ていった。丑巻と話していた二人は太陽と辰馬に

詰め寄る。


「一体、どういう事だよ!」

「そうだ。いきなり呼び出されたと思ったら、何であんな死ぬ思いであの人と話しなくちゃいけないんだよ。心臓、止まるかと思ったわ!」

「まぁまぁ、お茶でも淹れたから落ち着いてくれ」

「あぁ、分かった」


 それぞれがベッドと椅子に腰かける。一息つくと辰馬が説明を始め、全部聞き終わると陽斗の方が質問した。


「で、弟が厄介だから勝つためには俺達が必要だと?」

「こいつの弟ならチームメイトを鍛える位はするだろうしな、そう考えたらコイツから黒帯を習ったお前らが出場するのが最適だと考えた」

「なるほどな。出場したらなんかあるのか?」

「一応、正規の出場選手みたいに課題の免除と先輩たちの奢りでなんか喰わせてくれるってよ」

「ほう。試合結果の要望とかは?」

「正直、出場することが目的だからなそこら辺は気にしなくてもいいそうだ」

「なるほどな」


 取りあえず、懸念点は解消されたので。先程よりもだいぶ気を抜いた様子で試合の事を考える四人。


「スーツやアーマーは貸出だとしてもそれ以外のMAEとかは自前じゃダメなんだろ」

「大会の規定に合ってれば使える筈だよ」


 という訳で、太陽は二人のMAEを見せてもらった。どちらもブレスレットタイプであった。


「どっちも使えないな」

「マジか」

「まぁ、調整とか諸々は俺と辰馬で分担すればすぐに終わるよ」

「おう、じゃあ任せた」


 純二と太陽、陽斗と辰馬に分かれて、それぞれMAEの調整を開始することにした。

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