競技会七日目(午後の部)
本戦のサークルレースの予選という事で、にぎわい始める。だが、伊月高の出場選手たちは昨夜のこともあり、何処かピリピリしていた。
「二人共、調整は終わったよ」
「ありがとう」
「ありがとう」
選手の二人は慎重な手つきでMAEを受け取る。その顔は険しく、緊張しているのが見て取れた。
「ねぇ、私達も襲われるのかな」
「そんな事言わないでよ。怖くなっちゃうじゃん」
「でもぉ」
「不安だから、部屋の前に警備の人を配置してもらったじゃん」
「まぁ、怖い気持ちになるのはしょうがないよね。うん」
「でも何で、狙われることになっちゃったんだろう」
「他の高校からの恨みとか?」
「まぁ、例年上位だったしね」
自分達が狙われる理由を考えてあげていく。そうでもして、恐怖を紛らわせないと恐怖でどうにかなりそうだった。
すると、扉の外から鈍い音が聞こえる。エンジニア役の女子生徒が気になって扉を開けようとするが、選手から待ったがかかった。
「まって、開けちゃダメ」
「窓を空けてっ!」
明らかに不審な状況に脱出経路の確保のために窓を開けようとすると、扉がぶち破られる。そこには金属製のアーマーとフルフェイスのヘルメットを装着した不審者が立っていた。
「厉害、这个!」
この場に中国語が分かる人間はいないが不審者が興奮しているのは丸わかりだった。感極まったように自分を包んでいる牛をモチーフにしたようなアーマーとヘルメットを見つめている。
選手は窓を叩き割ってそこから外へ逃げだすが、最後尾の選手は抜け出す直前に足を掴まれて強引に控え室へ戻される。
「緑!」
「逃げて!」
捕まってしまい、逃げられないと悟った選手の一人――、緑は他に逃げるように言う。
不審者は緑の首元を掴むと壁に投げつけて、気絶させた。そのまま窓枠を飛び越えて逃げた選手を追う。魔法を使って逃げる選手に対して出遅れたにも関わらず、それ以上の速度で迫って腕を掴み、そのまま握りつぶす。
「あぁあああ!!」
「うあぁあ!!」
自棄になったのか出場選手の一人が素手で攻撃する。しかし、硬い装甲には少女の力ではいくら強化しても衝撃すら与えられなかった。
「小鱼」
攻撃してきた少女の腕を掴むとその腕をへし折ろうと、力を入れ始める。
「いやっ、いや、いやぁあ!」
腕を掴まれた少女は高い声で恐怖をアピールするが、不審者は手を放そうとせずにいたぶるようにゆっくりと力を込めていく。エンジニアスタッフの少女は腰が抜けて移動もできないらしい。
「ねぇ、何してるの?」
幼女の声が不審者の足元から聞こえてきた。そこには総白髪の幼い少女が経っていた。何時現れたのか分からない幼女に、その場にいるものは一瞬思考が停止した
「朝華ちゃん!」
不審者は選手を持ち上げたまま、朝華を蹴り飛ばす。が、朝華はビクともせずにその場で踏みとどまる。衝撃の余韻すら感じさせない。
「暴力はいけないよ」
朝華は不審者の足を掴む。不審者は振りほどこうとするが、動かせる気配はない。不審者は選手を放し、朝華を足の力で持ち上げて振り払おうとするが、持ち上がりもしない。
不審者は少女の形をした銅像のように感じた。
「お洋服を、汚さないで」
靴裏をお腹に当てられてそこで足を動かしてもぞもぞされた事を不快に思った朝華は、その体格には見合わぬ怪力で不審者の足を掴んで持ち上げると地面にたたきつける。そしてそのまま景気よく不審者をガンガン叩き付け続けると、ジャケットからアーマーの部分が外れて飛んで行ってしまった。
「あっ」
朝華は他人のモノを壊してしまったことに申し訳なさを感じたのか、ショックを受けた顔をしている。しかし、気持ちを切り替えて負傷したお姉さんたちを応急処置しようとする。と言っても、彼女が持っているバックの中には擦り傷用のガーゼと消毒液、絆創膏くらいしかないが。
「パパ様を呼ぶね」
治療は無理だと悟って、信頼できる人を呼ぼうと自前の情報端末で太陽と連絡を取り、警備員と医療班を呼んで貰う事にする。太陽は連絡を受けて対応を取ったが、その前に自分が飛んでやってきて大体のことは済ましてしまった。
✿ ✿ ✿
朝華にぶっ飛ばされてしまった不審者の男は何とか、監視の目を掻い潜って逃げ切り、普通の市街地の屋上に逃げていた。事件発生から三時間位たっているが、スーツの効果かまだ警察の捜査は及んでいない。
「くっ、くそっ! 最新兵器じゃなかったのかよぉ」
「それは本物の最新兵器よ。興味深いデータも取れたし、お土産としては充分ね」
「お、お前、何を………」
悪態を付いていた男だったが、女の発言に酷く困惑した。すると、男の体に激痛が走り始めた。
「うっ! うっぐぅ!! うぁ! ああぁ!」
男の様子は想定通りだったのか女は不思議な機械を男の身体から外してやる。それがマズかったのか男を襲う激痛はより激しさを増していき、男の体をよく見るとひび割れていた。
「なっ、何だよ、これぇ!」
「副作用の様ね」
「おい、助けろぉ、助けよぉおお!!!」
「嫌よ。治療法もないだろうしね。それに目的のモノは回収したからあなたは消えて貰っても構わないし、干支戦の結果ももうどうでもいいモノ」
女は不思議な機械と数枚の金属製のカードを持って市街地に消えていった。背後からは体が崩れ行く男と、三本足の鴉の視線が注がれるのであった。




