競技会七日目(午前の部)
伊月高は意気消沈としていた。前日はかなり勝ったとはいえ、その夜に襲撃を受けたのだ。浮かれた気分ではいられなかった。
「どうしたもんか」
「事情聴取は終わったのか?」
「まぁ、俺は捕らえただけってのは監視カメラで分かってた事だしな」
「お前さんはその前に色々やってたじゃねぇか」
その件の質問もあったが、主な用事は果たしたし、あとに予定も詰まっている。警察側の問題で一般生徒の貴重な時間を減らしていくのは惜しいと感じたのだろう。
「明日は分からんが今日の競技と明後日の競技で終わりだな、俺達の役目は」
「そうだな」
「新型の試験は八日目っていったけど九日目で良いよな」
「正式なもんじゃないんだ、ここでやれるならいつでも構わん」
「ならそうしようかね」
太陽と辰馬は競技場前で別れて、太陽は中へ、辰馬は応援席の方へ向かっていった。
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「はいはい、お疲れさん」
「お疲れ」
「お、お疲れ様です」
昨日の出来事は大分隠したがほとんど伝わっているだろう。それ位噂になっていた。その噂を知ってか琴乃は結構緊張していた。
とはいえ、試合と関係ない事で頭を悩ませ続けていても困る。
「今日は予選だけど、二人なら十分優勝も狙えると思う、頑張ろう」
「はい」
「不安はあるだろうけど、外的要因は俺が何とかできる。後は自分で頑張りなさい」
「………はい」
「はーい」
太陽が身の安全の事を保障してくれて琴乃と朝日は少し安心したように顔を緩ませている。
「それに怪我されても困るしな。外の事は俺に任せて競技に集中しな」
「「はい」」
競技が始まるまでに太陽は二人分のMAEの調整を済ませる。その間、二人は控え室でストレッチして怪我をしない様にしていた。
✿ ✿ ✿
伊月高、最初の出番は琴乃だった。長めの髪をポニーテイルにして纏め、体はしっかりと動かして万全の状態へと高めてある。
「ふーっ」
普段は緩い顔立ちではあるが気合を入れた彼女の顔はキリッとしている。
それはさておき、そろそろレースの開始時間が迫っていた。全員が揃うと、アナウンスがかかる。
【選手はスタート位置について下さい】
元々、揃っているが様式美というモノだろう。
『オン、ユア、マーク』
『セット』
『―――♪♪♪』
破裂音と共に、選手が一斉にスタートする。まだ、魔法は使われない。最初のフープに接近するときに全員が使用した。主に使用されているのは重力軽減と運動エネルギーの発生と操作の二つ、大体は自分の脚力にも物を言わせるので重力軽減が使われる。妨害目的で後者が使われることも多いが、大抵はキッチリと操作して移動していくので妨害らしい妨害にはならない。
ここで前に出てきたのは琴乃だ。彼女も重力軽減のお蔭で高く飛び上がる。しかし他と比べて着地後の動きが段違いだった。選手たちも人の子、高い所から降りようとすれば恐怖もある。その為着地までの時間がかかったりする、琴乃はそこら辺をトレーナーによって矯正されていた。着地からの次の行動も実にスムーズに動いている。それだけでなく、彼女は普通の女子高生よりも格段に足が速かった。
「おかしいな」
「そうですね。あそこまで細やかに動きを補助して運動能力を上げられる魔法はありませんし」
「希少な能力だな。ぜひ欲しい所だが」
「まだ、一年生ですしね」
見物に来ていた軍の関係者は揃って唸っていた。エネルギーを操るのが魔法だと言われている。概念を超えて現実を捻じ曲げる概念干渉も、物体の許容上限を超えれば自壊してしまう。
その常識を覆し、ただの女子高生に一流アスリート並みの身体能力を与える方法があるのであれば、それは軍事関係者にとっては見過ごせない事でもあった。
琴乃はその能力に任せて、見事一位で走り切っていった。
✿ ✿ ✿
朝日の方も多少驚かれたが、滞りなく決勝の方へと足を進めることが出来た。
「お疲れ」
「うん」
「ありがとうございます」
「まぁ、俺は特に何もしてないよ。二人なら決勝には行けると思ってたから今日はクールダウンしてもう休みな」
「「はい」」
太陽は二人を練習場にまで送りそこでクールダウンさせる。昨日の夜の襲撃の当事者だったこともあるので、最大限の警戒をしている。そんな警戒を無にする出来事が午後に置きてしあうがそこはまだ彼にも知らない話。




