競技会六日目(午前の部その2)
午前の部の二つの競技の内の一つはハイ・デュオアスロン。目玉競技の一つである。
全ての選手は競技の準備を整えると琵琶湖周辺へと向かう。太陽も別の競技へ向かう前に調整を済ませて、三人を送り出した。
「じゃ、行ってらっしゃい」
「「「行ってきます」」」
四人は爽やかに分かれていった。
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移動先にはテントが建てられていて、そこが待機所兼宿泊所になっていた。高校ごとに休憩用のテントが建てられているので、伊月高の三人も自分達のテントで休むことにする。
「なんか既に色々準備されていますね」
「まぁ、あの人が付いてこなかったという事はこんな感じだろうと思ったし」
テントには既にブルーシートと、スポドリの入ったジャグが用意されていた。用意したのは太陽である。朝一に作って準備し終わると、空を飛んで朝日等の調整を終わらせて、ロングショットの方へ向かったのである。
「空を飛んで移動とは、スーパーマンみたいですね」
「強い存在だというのは変わんないと思いますよ」
「まぁ、相当タフで強いのは分かるけどね。あの人が選手じゃない方がわけわかんないんだけど」
ストレッチで体を解しつつ、太陽の話題で時間を潰すのだった。
『第一レースの走者はこちらにお集まり下さーい!!』
メガホンで集合がかけられた。という訳で、第一レースの走者である、柿崎 小南が上にかけていた服を脱ぎ捨てて出発した。
「もう、脱ぎ捨てちゃって」
「太陽さんは来てくれるでしょうか?」
「来てほしいの?」
「まぁ、見てては欲しいですね。折角、練習に付き合ってくれていたわけですし」
機械音声が、スタートの準備を合図をする。その直ぐ後に炸裂音が鳴り響き、レースをスタートさせる。
男子のモノとはまた別の迫力を感じさせる出だしとなった。最初はスイムという事で琵琶湖を千メートル移動して、その後はランで五千メートル移動することになる。トライアスロンより、鉄人レースをすることになるが、プラスアルファの能力として魔法が使えるのであんまり問題にはならない。
小南は太陽に飛行魔法は使えないと判断されたので、今回、飛行魔法を使えるMAEは渡されていない。しかし、足場用の魔法の連続発動と重力の軽減による移動力強化で陸上でいるのとそんなに変わらない速度で進み続ける。二分切りで水上を駆け抜けて、ランの方へ移る。他はまだ少し後方で泳ぎを続けている。そこからは足場の魔法を切って、重力軽減の方に注力する。
100%で振り切れるので、水上の時よりも出せる速度は格段に上だった。しっかり、踏み込める分、出せる速度も上がっていった。そのまま他の高校を一気に引きはがしてトップとなった。
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第二レースは伊月高からは我妻琴乃が出場する。こっちは練習後、適性有りと認められて飛行魔法を使う事になった。
という訳で、スタート直後からぶっ飛ばしていった。
「なぁああ!!」
驚愕の声も置いてけぼりにして、序盤から一気に千メートルを渡りきる。もはやスイムとは何なのか尋ねたくなるほどにすがすがしい程、泳いではいない。
大幅に差をつけてランの方へ移る。琴乃はスイムが終わったら飛行魔法は切った。思いのほか消耗が激しい為、連続使用はリスクが高いと太陽に言われていたからだ。体力軽減用に重力中和の魔法を発動して後は練習の成果を出し切る様に走り抜ける。肉体の力と軽減された重力の力で常人を超えた速度でゴールまで駆け抜けていった。
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ここまでで、伊月高の無双が続いてきたので、朝日は周りの視線が痛かった。というより、女子新人戦がずっと伊月高無双が多かったのでその分の不満が向けられる朝日にも向かっているのだろう。容姿への嫉妬も加わっている可能性はあるが。
そんな中で朝日に話し掛ける人が出てきた。
「ごきげんよう」
「あ、どうも。兄がお世話になっています」
懇談会で話し掛けてきた、蓮華塚咲南が試合前に話し掛けてきた。
「何か御用でしょうか?」
「いえ、試合前ですが敵情の視察をと思いまして」
「警戒するのは私だけなんて、随分と他を舐めているのですね」
「い、い~え、私は全員を手強い強敵と思っていますが、一際目立つあなたに先に忠告しておくことがありまして。話し掛けた次第です」
「忠告しておくこと、ですか」
「ええ、先程の選手もお使いになっていた飛行魔法、我が高校も取り入れて、私は実戦でも使える位には練習してきましたの」
「おお、それはすごい」
本当に朝日は驚いていた。飛行魔法の件は太陽から他の高校も使ってくる可能性は聞いていたが。この場でそれを晒してくるような人間がいるとは考えつかなかった。
「でも、それなら試合開始の時に披露するでよかったのでは?」
「いえ、知らせないというのは卑怯な気がしまして。というか、元々私達の我儘で見せてもらっていたわけですし………」
何というか、馬鹿正直なのだなと朝日は察した。でも、まっすぐに生きている彼女の事を少しだけ羨ましく思った。
「では、私もなるべく正々堂々と勝負しましょう」
「なるべく、なのですね」
「勝負には駆け引きも重要ですから」
号令がかかったのでそこで話は中断してスタート位置に向かう。
『オンユアマーク』
『セット』
『―――♪♪♪』
一斉に走り出した、いや、二人の選手だけは文字通り、飛び出した。練習したというのは嘘ではなさそうで咲南は朝日と負けず劣らずのスピードで水上を飛んでいく。
しかし、欠点である燃費の悪さが現れ始めてきた。朝日は練習期間を飛行魔法の体力強化に当ててきた。しかし、咲南は最近使い始めたのだ。最初から全力ダッシュし続けて持つわけがない。それに地力の違いが顕著に表れる。かなりの高出力で吹っ飛ばしてはいるので既にランの方へは移っているが、朝日に消耗の様子は見られなかった。無理についていこうとするから、咲南は途中で急に減速して地面に激突しそうになる。
「よっと」
朝日は黒帯を出して、クッションを作って着地時の衝撃を和らげてやる。けれど、スピードはそのままで突っ切っていきそのまま一着でゴールとなった。




