競技会四日目(午後の部)
太陽はストレッチや準備運動に付き合い、試合の受付時間十分前には試合の荷物なんかを担いで演習場へ三人を引率していく。
「コールしてきたら、試合の場所も伝えてくれ」
『はーい』
三人を送り出すと椅子をセッティングして、試合前でも快適に過ごせるようにする。どのような種目でも準備には時間がかかる訳で、太陽の方が片付いても夏日たちは長蛇の列衣並んだままだ。少し待つと受付を終わらせてきた夏日達が戻ってくる。夏日たちは既に試合用にユニフォームには着替えていたので試合用のプロテクターを渡されたらしい。それを手早く装着して自分の動きをどの程度阻害するのかを把握する。
「うん、これ位なら、まぁ」
「暑い、兄ぃ、スプレーやって」
「あいよー」
「私もー」
今やってもそこまで意味ないとは思ったが、そこには突っ込まずにストレスを和らげるためにシュシュッとスプレーを吹いて涼しくしてやる。
女子競技なので周りにいる人間は全員女子だ。マネージャー役の付き添いも全員女子なので、一人浮いた太陽は現在、非常に居心地が悪い。なんてことはない、太陽にとっては目の前の妹達のコンディション以上に大切にするべき事案はない。したがって、周りの集中が乱れるのであれば結構。という気持ちでいた。
「あ、はいコレ」
「ああ、試合会場ね、本部の方に伝えておくよ」
「はーい」
抽選の結果、夏日は建物地帯、紅火は森林地帯、火凛は工場地帯という配置になった。三人はエリアに不満を唱えることなく試合までの時間を潰す。そうこうしていると、試合会場まで連れていってくれるバスが到着した。初めは建物地帯なので夏日が乗り込んでいく。
「行ってきます」
「「「行ってらっしゃい」」」
✿ ✿ ✿
バスに揺られて数分して、建物地帯の演習場へ辿り着いた。そこからは事前に指定された場所へ移動して開始の合図が出るまで待機する。
BIIII――――!!!!
ブザーが鳴り。試合開始を告げる。選手たちは行動を開始する。
夏日も瞬時に動き出し、建物を飛び越えて、他の選手を探す。派手に動いたお蔭か、敵が近づいてきた。魔法を使って直線的に高速で接近してきた。しかし、夏日はそれを見切ってカウンターで相手に触れる。そのまま相手の死角を通るように、建物を潜って消えた。
先程まで、派手に動いていたおかげか、他の選手も夏日の方へ集まってきていた。獰猛な笑みをたたえて夏日は住宅街を模した建物群を駆け抜けて他の選手に触れていく。
「張り合いが、ないなぁ」
夏日と試合をしている選手たちは夏日を狙いに行く人間もいるが、死角を取ったとしても見えない壁に阻まれて彼女に触れることは終ぞなく、夏日はポイントにされる事なく試合を終えた。
✿ ✿ ✿
次の試合。紅火の出る森林地帯の番だ。
この場は鬱蒼としていて全体的に暗い、風も吹くので物音は建物地帯より響く為、周囲の確認がやりずらい。厄介なステージである。
BIIII――――!!!!
ブザーが森林地帯に鳴り響き、試合開始を告げる。
「さてと、私は地道に行きますか」
紅火は自分の気配を消し、空気と同化し、認識されない様にして移動する。地面を移動するよりは木々を蹴って音を出さないことを意識して移動していく。すると、大きな衝撃音が鳴り響いた。火を使ったというよりは、空気を振動させて音を作り出したような感じだ。
戦場ではやってはいけないだろうが、此処は競技会いい選択ともいえる。釣り餌と言えば釣り餌だが、はっきりしないこの状況では一番効果的な手かもしれない。必ず一人はいる。加えて、それを狙いに行く選手もいるかもしれないのでそれを狙いに行くのもありだろう。
紅火は直ぐにそう考えて狙いに行く。途中で同じような考え方を持った選手がいたのでそれを順々に取っていく。下を走っているから見つけやすいし、襲いやすい。紅火にとっては良い釣り場所であった。そうして伊月高は二戦目も無失点で通過した。
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三試合目。火凛が出場する工場地帯だ。ココは工場が密集しているような地帯だが何かの政策には使えない。機材はないし、パイプの中も空気が漏れるように作ってあるためまともな工作は出来ない様になっている。しかし、形だけは実際にある工場を元ネタに作ってあるのでそれなりに頑丈である。搬出口が作られてなかったり、出入り不能な密室はあったりするが。
「鉄臭い」
嫌そうな顔をしながらスタート位置で開始を待つ。
BIIII――――!!!!
火凛はブザーの音と同時に空を飛び始めて空中を浮遊し始める。そのまま空中から急降下して襲っていく。さながら戦闘機の様な活躍に会場は沸き上がった。その魔法は開発が難しいとされてきた、飛行の魔法。飛行魔法の最大の問題点は使用し続けることによる、ストレス増大による脳機能の低下である。しかし、試合中飛行し続けられたその魔法は完全に負荷から脱却し、人が空を自由に飛べることを証明した。
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「よく頑張ったなー」
帰ってきた三人を太陽は朗らかな雰囲気で迎い入れ、労った。
太陽は三人に濡れタオルとスポドリを渡して体を休めさせる。
「はぁ~~。極楽、極楽」
「終わった~~」
「兄さん、何か、お菓子を所望します!」
圧倒的な力を見せつけた強者であっても、試合が終われば普通の少女である。のんべんだらりとあどけない姿を見せるのだった。太陽は暫く休ませてやったら、ホテルへと返すのだった。




