実力を試しましょう
朝日に引きづられている太陽は本部校舎の会議室に連れてこられた。
「失礼します」
「いらっしゃい」
朝日は太陽を引きづりつつ会議室に入室すると、生徒会長と風紀委員長に苦笑いされた。
太陽は抵抗はしないが、引きずられたままなので声なき抵抗というモノだろうか。朝日は太陽を放り投げる一番後ろの壁に直撃するが反応はない。すると、追加で心美が辰馬を連れてきた。こっちは引き摺っていない。
「朝日さん。はい、お願い」
「承知です」
「え? なに? え、ええ?」
朝日は辰馬も太陽と同じ様に後ろへ投げる。辰馬も壁に直撃し、太陽に着地する。部屋にいた人達は気の毒そうにその様子を見つめるが、二人は自分の席だった場所に戻る。辰馬も太陽も動きはない。
それを、心配したのか生徒会長の巳森吹雪が声を掛ける。
「えーと、朝日さん、心美さん、大丈夫なの、あれは?」
「………問題ないです。話は聞いてる筈ですから。ですよね」
太陽と辰馬はグーサインで応える。無事なようだ、動く事もないが………。
吹雪は頭を切り替え、話を続けることにする。
「では、先程話した通り、八月七日から八月十六日の約十日間にわたって開催される全国高等学校魔法競技会の人員選定について話をさせていただきます。決めなくてはいけない人員については選手、作戦スタッフ、エンジニアスタッフの三種類です」
「選手については事前に選定、指名していた人物で問題ないことは確認済みだ」
『『『はい』』』
吹雪の話を大柄な男子生徒が引き継いだ。何というか、要塞の様な隙の無い人物だ。その言葉は威厳に満ちていて不思議な圧迫感がある。無意識に生徒達も返事をしている。この人は部活動の活動を統括する課外活動委員会の会長――、丑巻 大悟。
「作戦スタッフも揃ったが、エンジニアスタッフに関してはまだ人員不足が深刻だ。そこで、知り合いにMAEに強く、信頼できるスタッフを紹介してもらうことになり、連れてこられたのが、…………その二人だ」
言い淀んだが大柄の男子生徒は言い切った。ここでようやく太陽たちは起き上がる。
「………拉致被害者一号です」「二号です」
敬礼して応えるおふざけの一号と二号。状況は把握したようだった。
「で、自分らがエンジニアスタッフという事ですか?」
「そうらしい。しかし、我々は君達の実力を知らない。推薦だけで君達を引き込むのはリスクが高いのは理解してもらえるだろうか」
「いや、自分達が乗り気みたいに説明されても困るんですが」
「参加すれば、夏休みの課題の幾つか免除される」
「具体的にどうすれば、良いのでしょうか」
太陽は現金に態度を豹変させる。乗り気にはなったし、抵抗は無意味と感じたようだ。
「一先ず、どれ位の腕があるのか見せて欲しい。実験体には、俺と「危険です!」」
「その通りです。MAEは精神と直接リンクするんですから。下手な人間に調製されれば二度と魔法が使えなくされる事にもなりますよ!」
反対の声が大きくなっていく。太陽たちの腕は信頼されていないらしい。仕方が無いし、無理はない。けれども、強制的に連れてこられて、こんな罵声を浴びせられるのは理不尽だろう。
「すいません。その試し俺にやらせてください」
「お、俺もお願いします」
上級生と一年生が声を上げた。太陽には見覚えがある。上級生は初めての巡回の時に取り押さえた奴で同級生は朝日に絡んでいた奴だ。名前は憶えていない、いや、聞いた覚えすらない。しかし、ここで名乗り上げるとは、よっぽどの命知らずか考えなしか。
「………というか、俺達の意見は無視されてる?」
「抵抗は無意味だな。………諦めて、真面目にやるか」
「いや、まだ隙はある」
「ゴリ押しで押しつけられるだけだ」
「………諦めるか」
名も知れぬ二人の勇気に感心しながら、太陽と辰馬は小声で自分達の意思が無視されていることを語ったが、諦めろと片側に申し出られた。
✿ ✿ ✿
取りあえず、既に指名された技術スタッフと見学を希望する選手が開発棟のMAE調整室に移動する。
「えーと、改めて最初に自己紹介からしましょうか」
「そうだな」「分かった」
名前を知らないのでは調整もクソもないので最初に自己紹介を行う。
「一年E5組の月隠太陽です」
「一年E5組の東海辰馬です」
「「宜しくお願いいたします」」
太陽と辰馬の二人はキッチリ深々と頭を下げて挨拶する。先輩と一年生はたじろぎつつも自己紹介を返す。
「一年E1組の荒間幸久です。こちらこそ」
「二年E1組の尾埋陽介だ。こちらこそよろしく頼む」
こちらも深々と挨拶すると、太陽は陽介を担当し、辰馬は幸久を担当する事に決めた。
決めれば早く全員がそれぞれ組んだペアで調整台に入る。
「それでどんな感じに調整すればいいのですか?」
「ここに両人が普段使いしているMAEがある。そしてこっちの試合用のMAEにデータをコピーしてその後調整してもらいたい」
大悟が差しだしてきたのは最新モデルのMAEと試合用に指定されている型落ちのMAEの二つだ。太陽が見るに型落ちの方は三世代くらいは前の奴だろう。
「………いやー、余りに性能が違い過ぎじゃありません?」
「性能が違うと、色々不都合もあるんですがね」
大悟の要望に難しそうに太陽と辰馬は顔を顰める。
MAEの役割は魔法の原本と言えるデータを機械の中にある人工物質――、マギナファイト(別名:霊子石)に電気信号として照射して、電気信号のエネルギー量に合った霊子を装着者から抽出して電気信号を霊子信号に変換。その霊子信号を体内に入力。それが精神内で魔法の構造式に変換される。そこから先の魔法をアドラへ転写するのは装着者である魔導師の仕事だ。
そんなMAEの仕事に重要になってくるのは電気信号の送信速度、霊子信号の体内への入力速度、霊子の抽出速度がハードウェアの性能によって委ねられ、電気信号の内容と霊子信号への変換速度、吸収した霊子の効率等はソフトウェアの性能ひいてはそれを調整する技術者の能力にゆだねられる。
「専門家にしか分からない所もあるのだろうが、やってみてくれないか?」
「「………了解」」
太陽と辰馬の二人は納得いかないという表情で溜息を吐きつつ、返事を返して真面目に取り組むことにする。
「では、尾埋先輩、測定板に手をついて下さい」
「おう、分かった」
陽介が指定された場所に手を付けて、霊子を流し込む。その注入された霊子は測定器の中にある霊子石によってデータ化され、太陽の使用している調整器に転送される。陽介の役目はここで終わり、ここから先は太陽の仕事。
「…………」
太陽は一旦全データを複数のウィンドウに開いて流し見した後に目を閉じて数瞬、思考する。その後、目を開いて手を動かし始める。その手は何時もの様にキーボード操作。計測したデータに合わせて陽介の私用のMAEのデータを試合用の型落ち機器に写し、生体情報、霊子信号から観測されたデータをもとに調整をしていく。
「…………できました」
太陽は陽介に仕上がった型落ちMAEを差し出す。陽介は電源を入れて魔法の原本データを出力する。精神内で入力された霊子信号をいつもと同じ様に処理し、いつもと変わらぬ速度で魔法を発動する。使用したのは振動を減速させて硬化させる魔法、常態化して使用するこの魔法を安定して維持し続けられている。不安定な感じはしないのは、得意魔法であるのも関わっているだろうが、何よりいつものように魔法を発動させられているのが大きいだろう。
「………完全にいつも通りの仕上がりですね。不満に思う所はありません」
「そうか」
専門家ではない大悟は陽介の感想を聞いてもイマイチ、ピンと来てない感じだった。主に選手側からは不信の視線。エンジニアに選ばれている側は技術と能力に驚いている様だった。
「次は東海の調整した方を試してみてくれ」
「はい!」
大悟の迫力ゆえか、幸久は気合の入った返事をして、陽介と同じ様に魔法を発動させる。こっちも同じ様に状態させる魔法でこっちも不安定な気配はなく安定して展開、維持している。
「どうだ?」
「MAEの能力がいつもと同じならこっちの方が使いやすい気がしますね」
「そうか」
判断に困っているという顔の大悟。モニターからの評価としては二人共高評価を貰えているのだろうが、何か決め手に欠ける感じは否めない。
「………皆は二人が調整した結果を見て、どう思う?」
大悟は最終的に周りに判断をゆだねた。多少は賛成に回っているが背中を押してもらえる評価が欲しいと言ったところだ。
それを受けて、選手側の評価は。
「いつもと同じ様に仕上げるだけなら入れる意味もないのではないか?」
「一年生で基礎が出来ている所は評価すべきところだが、これくらいなら他でもできるのでは」
「経験がない訳ではないだろうが、それでも多い訳ではないだろう。ならば、学生では熟練の二年生辺りに任せるのが無難ではないか」
中々辛辣だった。つまるところ、能力はあるだろうが、経験不足からなるミスもあるだろうからそこら辺がネックになると指摘していた。
変わってエンジニアスタッフ側からは。
「短時間で調整を済ませている所が一番評価できるね」
「すべてマニュアルで生体情報を入力しているから、使用者の要望に合わせて設定を決められるのも評価するべき点かな」
「MAEを使用者に使い心地の差を感じさせないのであれば、彼らの技術は高水準にあると考えられる。しかも、高スペックな品から低スペックの品にデータを写すと能力の差によって不具合が多発するがそれも含めて安全に配慮したうえで安定して魔法の発動を補助させているのならとんでもない技量だな」
「少なくとも私たちは真似できません」
高評価が多め、選手側も反論したいが、残念ながら知識、経験はあちらが上なので何も言えなくなった。まぁ、若干言われて認めた部分もある。
そのうえで、大悟が結論を下した。
「では、彼ら二人は我が伊月高の選手団についていくエンジニアスタッフとしての技量があると判断して、月隠太陽、東海辰馬の二人の選手団入りを此処で認めることにする。異論はあるか?」
『『『ありません』』』
こうして若い技術者二名、何をするのかどういった基準の競技会なのか分からずに半強制的に伊月高の選手団として登録されることになった。
競技会の内容については次回に説明します。




