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学生魔導士の騒動録~その力は誰のために~  作者: Dr.醤油煎餅
第二章
28/115

お察しですね

 七月の最終週月曜日兼伊月高のテスト最終日。そして最終科目が終了し、これで後は終了式を行って帰ることになる。詰めているスケジュールだが、明日から夏休みだと考えれば不満に思う生徒は少ない。

 太陽たちのクラスは学級委員の指導力でよどみなく整列して第三体育館に集まる。第三には魔法専攻科と体育専攻科が一緒に前期終了式を受けることになる。

 形式通りの開式の挨拶がされ、直ぐに校長の話だ。しかし、登壇して喋るわけでは無くて、スクリーン越しに喋っている。三つの体育館で同時に校長の話をする為にはこれしかないのだから、仕方が無い。


「で、あるからして。夏休みは誘惑が多いからこそ、周りとの差をつけていくことをお勧めする」


 それにしても話が長い。大災害前から校長の話が長いのは日本、もしくは世界で共通なのだろう。十五分位たち、ようやく話が終わった。生徒達はその後各専攻の学科主任たちからの有難いお話を貰い、夏休み中の生活習慣についての話、健康の話、勉強の話、有難い話を詰め込まれて、閉式の挨拶がなされてようやく解放された。

 前期終了式は終わっても帰りのLHRに宿題を貰うことになっている。と言っても、厚い宿題の束を渡される事はない。宿題のデータを渡されて、それに入力して夏休み終了前にデータを転送して提出完了になる。因みに通知表と期末のテスト結果は後日まとめて郵送されるか、学校で受け取ることになる。大抵の生徒は部活に入っているので夏休みの最初に全員が学校で回収してしまう。帰宅部は郵送派が多いが、見られるのを怖がっていれば受け取りに行くものも多い。


「はい、宿題のデータは送信したので夏休みも頑張ってね~」


 相も変わらず、安奈先生は気の抜ける口調で話をする。生徒達はそんなほんわかした声から出される注意事項を聞いて心の中にメモをする。


「夏休みはイベントが沢山あるらしいし、お金を稼ぐなり、使うなりは高校生のラインですませられるようにね~」


 要約すると無駄遣いはするなという事だ。まぁ、大事な事ではあるが、安奈先生は大丈夫なのかと大半の生徒は思った。見た目的に安奈先生はガードと財布の紐がゆるそうだからそう思うのは無理はない。


「まぁ、学科主任も厳しいことは言ったけど。この時間が終わったら夏休み。なるべく楽しんで過ごしてね」


 安奈先生は最後にそう締めくくって、今日の日直が号令をかけてLHRは終わり一学期が終了した。


✿  ✿  ✿


 伊月高の夏休みの期間は今日、2098年七月二八日から八月二十八日までである。詰め込んだスケジュールだったが、いつもの授業位の時間帯で終わった。太陽の風紀委員のシフトは月曜、火曜、金曜に入れているので今日はシフトの日である。(夏休み中は校内は教師が、部活内は部長が風紀委員の代わりになる為、シフト通りに入らなくていい)


「おはようございます」


 太陽は行儀良く挨拶するが風紀委員室には誰もいないので、軽く掃除を行い資料、日報の整理を行った後は、レコーダーと腕章を装着後見回りに向かう。その間は同じ曜日に入っている先輩は来なかった。

 太陽は最初は全学科の校舎とその周りを巡回して、グラウンド、体育館の順に見回りのルートを設定している。騒ぎが起こるなら部活が始まって時間が経ってからなので、始まったばかりなら校舎とその周辺を見回る方が都合が良い。もちろん通報があった場合はそこへ向かうが、基本は設定した巡回ルートを通っていく。


「おーい、月隠!」

「はーい」


 準備中だった運動部員に呼ばれて太陽は近づいていく。どうやら準備を手伝って欲しいらしい。


「今日は高跳びが優先的に練習できる日だから、マットを出したいんだが。見ての通り奥の方に行っててな」


 運動部は一部活につき、倉庫が一つ作られている。そして微妙に倉庫には入るが大きめのモノは出しにくいものがある。高跳び用のマットはそのいい例だ。

 太陽は邪魔になっている奴をどかすだけはしてやる。それ以上は陸上部員が手早く運んでいく片付けも彼らだ。どかした時点で太陽は見回りに戻っていく。

 校舎内には文化部が入っていて色々活動している。因みに、芸術専攻科の入っている校舎にほとんどの文化部を揃っていて歩いているだけでも作品が見れたり演奏が聞こえてきたりして楽しい。


「んっ?」


 太陽は飾られている絵の中に目に付くのがあった。

 季節は夏だろうか強い日差しに照らされる貴婦人が描かれている絵画だ。白いワンピースに白い日傘をさしてその髪色も白で統一されている。彼女の存在が異質に見える事はなく、彼女の存在に合わせるようにして周りが描かれているように感じる。貴婦人じゃなくて女帝だな、と太陽は思った。


「私の作品を気に入ったんですか?」

「え?」

「ソレ、私が描いたんです」


 下から声が聞こえてきたので見下ろしたら美少女がいた。絵具がはねてもインクが付かない様にエプロンを着て、癖のある金髪を高めのポニーテールで邪魔にならない様に纏めてある。手には筆を洗う用の水を溜めて置く空ポリタンクを持っていた。身長は大体150㎝付近だろうか。だというのに、エプロンやブラウスを押し上げて存在を主張している立派な双丘が一番目に付く。


「ああ……、知人に雰囲気が似ていてね」

「そうなんですか?」

「まぁ、自分もこんなん何で、親近感があるのかもしれませんが」

「一緒にしないで下さい。この人は特別なんです」


 ぶった切られた。太陽は別に傷ついてはいないが、辛辣な子だと思った。


「モデルがいるんですね」

「………まぁ、います」


 無愛想な子だが、質問には答えてくれる子なようだった。そして少女は少し迷ったあとに言葉を発する。


「………それと、この前はありがとうございました」

「んー? それは、いつの?」


 太陽が風紀委員になってから面倒ごとの解決に奔走しているのでどこかで助けただろうかと頭を悩ませる。


「テロリストの時です」

「ああ、あの時のですか。と言っても、あの時は仕事でしたからね。俺じゃなくても誰でもやったとは思いましたが」

「あの時、助けてくれたのは貴方です。ありがとうございました」


 少女は深々と頭を下げる。太陽は特にお礼を言われる様な事をした記憶はなかったので微妙な顔になる。


「それじゃあ、どういたしまして」

「はい」

「それと、水汲みは代わりにやっておいたよ。はい」

「へ?」


 少女の横に綺麗な水が入ったポリタンクが戻ってきていた。困惑した様子の少女だったが、一言。


「気持ちわる」

「酷くない」

「いつの間に私からポリタンクを持っていったんですか。ちゃんと、……あれ?」

「途中から地面に置いてたよ。水を汲みに行く途中みたいだったし、喋りながら水を入れてた」

「キモい」

「酷い」


 太陽が気を回し過ぎたのか気持ち悪がられてしまった。けど、少女の表情からは若干面倒事が終わったと安堵している表情だった。


「でも、ありがとうです」

「はい」

「っ! ん、うん、じゃあ、失礼します」


 少女がポリタンクを持つとふらつきながら美術部用に開放された教室へ向かう、途中足がもつれ転びそうになっていた。流石に危なそうなので持ってあげる。


「あっ」

「流石に転びそうな人は見てられないから、手伝わせてよ」

「っ!~~///…任せます………」


 少女は長い葛藤の末、渋々太陽が運送する事を認めた。


✿  ✿  ✿


 運送先の教室にポリタンクを運ぶと太陽はさっきの絵の前に戻ってきていた。

 絵の下には画用紙に作品名と作者名が記載されていて、画鋲で止められていた。


〈題名:日傘の貴婦人〉

作者:片喰 キサラ(一年)


(片喰。………魔道士の家系なのかな?)


 思い当たる節はないが、何かあるのかもしれないので深くは言及しない事にする。


 その後、太陽は残りの校舎を見回り、体育館、グラウンドを見回った後に本部校舎に行くと朝日が立っていた。面倒事の予感を感じ、太陽は逃げる。しかし、いきなりすっ転んで止まってしまう。その隙に朝日に首を掴まれる。


「ぐぇっ」


 そのまま本部校舎の中に入れられ、連れて行かれる。


「何の用だよ」


 生徒会は今、夏にある魔法競技会に向けての会議をしている最中の筈だ。太陽に関係することはなかった筈なので、なぜ連行されているんだと、太陽は考える。


「面倒事だな」

「お察しですね」


 軽く笑って太陽を引き摺りながら朝日は会議室に向かう。そこでどんな議論が行われているか、太陽は恐ろしくなってきた。

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