愛娘の授業参観
太陽は林間合宿から戻りまた平穏な日常を過ごしていた。当たり前の事だが、気合の入ったテロリストに狙われる事はない。太陽は風紀委員の仕事をこなしたり、趣味の研究に没頭していたりとそれなりに充実した生活を送っている。
そして五月十七日。今日は日曜日。そして朝華の授業参観日だ。
「午前中も授業みたいだけど。大丈夫か?」
「だいじょーぶ」
太陽に心配されている少女――、朝華は余裕な態度でグーサインを出す。朝華は白い艶のある髪にルビーの様な赤い目のついている洋風の顔立ちだが、流暢に日本語をしゃべっている。彼女は現在小学五年生、少しは周りの目を気にするがまだ少し親に甘えたい年頃だ。今も親代わりの太陽に甘えたそうにしている。
「うん、大丈夫そうだな。はい、お弁当」
「おおう、いつもより重い感じがする」
「今日は晴れ舞台を見せてくれるらしいからな、奮発しておいたぞ」
「本当!」
朝華は笑顔で顔を彩ると急いでランドセルの中に入れる。時代は進んでもランドセルは残っていて小学生のお供だ。
「じゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
玄関から朝華を見送ると、太陽は午前の内に色々家事を済ませるために働き始める。掃除機をかけて埃を吸って、投げ出されている物はかたずけたり、朝食の食器を片付けたりとそこそこに忙しく過ごしている。他の姉妹たちは学校で部活をしたり、バイトに向かったりしているので今は彼一人で家事を全部行っている。姉妹たちの部屋に関しては入らない様にしている。見られたくない物を見てしまっても彼らが気まずいだけだ。
太陽は数十分で家中の片付けられる範囲を片付けると、リビングになってる共有スペースから地下に行き、彼専用に用意された研究室だ。彼はここで魔法の開発に取り組んでいた。今の研究対象は難題の一つ、飛行魔法である。
しかし、ほぼ活用法については目星がついていた。後に繋がる、発見も見つかった。
「魔法の終了条件の設定方法も見つかった。応用の効く技術だし、色々活用しておくか」
太陽が新たに発見した魔法の法則は【終了条件の定義方法】である。何もしなければ、魔法に使われている霊子が切れるまで魔法は発動され続け、魔導師はその魔法に込める霊子の量で魔法の終了時間の設定してきた。終了時間の設定は高度なテクニックの一環として普及しているが、テクニックではなく技術分野の補助を受けて魔法の終了時間を設定するのは太陽が初めてだろう。
魔法の効果時間の設定方法はMAEの方で霊子の吸収量を管理して貰う事で機械的に霊子の吸収量を設定して規則的に魔法を発動させることである。一応、魔法の術式に頼って効果時間を設定できるがそれは変数が多くなり、処理能力の増大してしまうので本末転倒なことになる。
「早めに発表の準備を整えておくか」
太陽はアルバイトしている所の研究員と連絡を取って、今回の成果からできた飛行魔法のデータを今度渡しに行くと連絡した。渡した日に実験を行って無事に実用化できそうなら発表するという運びになった。
「お、良い時間」
時間を確認するとお昼前。太陽は自室に戻ると着替えてしっかりとしたスーツに着替える。リビングに向かうと朝日がいたので声を掛ける。彼女もスーツに着替えていた。
「それじゃ、行くか」
「はい」
スーツで準備を整えた二人は荷物を纏めて早速朝華の通う小学校へ向かう。学校の近所に迷惑をかける訳にはいかないので車ではなく、電車と歩きでだ。
✿ ✿ ✿
朝華の通う小学校にまで太陽と朝日の二人は到着する。周りにも父兄らしき人間はいるが太陽と朝日に比べれば年を重ねている。いや、太陽たちが若すぎるのだ。しかし、風格はどこにも負けてない。魔導師の子供が集まるのでその親も当然魔導師、修羅場をくぐってきている人間もいるから滲み出る風格は一線を画す者達も多い。それに埋もれず風格を滲みださせるのは二人の資質を示しているだろう。
「えーと、朝華の教室は…………」
「四階の5-2の教室ですよ」
朝華の教室を確認すると二人はそこへ向かう。
「はぁ、ビデオ撮影が禁止とは」
「言っても、しょうがないでしょう」
「そうだね。見ればいいだけだろうし」
太陽は気落ちしつつもキチっとした姿勢で、朝華のいる教室に向かう。辿り着くと、今は昼前だというのにそこそこの生徒が着席していた。今はまだ昼休み、校庭で遊ぶ生徒もいるだろうが今日は大半の子はお利口さんに待っていた。朝華も後ろを気にしているものの背筋を伸ばして少し緊張感を持っていた。
「………!」
「…………」
太陽が入室してきたことに朝華が気付き、少し笑顔を向けるとちゃんと前を向く。太陽は苦笑いしつつも後ろ側に並ぶ。
太陽達が入って一、二分経つと、教室に先生が入って来た。今日の見学できる教科は魔法の授業なのだが、ここでいったん説明して演習室へ向かう予定になっている。
先生が入るとさらに教室の空気に緊張感が足される。
「はい、皆さん。今日最後の授業です。普段は見れない良い所を親御さんに沢山アピールしましょうね」
『『はーい』』
元気一杯な娘たちの姿を目にすると、心の中で太陽は笑みをこぼす。一通り実習内容が説明されると、実習室へ移動になる。移動の間はきちんと並んでいる我が子の姿を見守る。交流がないのは子供のいつもの姿が視たいからだろう。
「では、今日は大規模な魔法を使ってみます安全性には気を付けているので今日は派手にやりましょう」
『『はーい』』
先生が声を掛けると生徒達が並び順番に授業用の据え置き型MAEに手を付けて霊子を注入、注入した霊子により励起された術式を取り込み始める。取り込んだ術式を脳内で処理してアドラに投射する。アドラが改変された事により現実世界――イドラが変わり魔法が発動される。
最初の生徒が発動させたのは炎の魔法、爆弾を爆発させたように猛火が立ち上がり術式が対象としていた目標物を包み込む。こっちにまで魔法の余波が来るかと思ったが、高性能耐衝撃耐熱ガラスのお蔭で被害はない。
「おぉ」
無反応は礼儀に反すると思ったので少し声を上げて置く。周りも似たようなもんだ、数人は軽い拍手位は送っている。そんな平凡な授業風景を眺めていたら、朝華の番になった。
朝華も前の生徒達と同じ様に授業用の据え置き型MAEに手を付けて霊子を流し込みMAEから出力された術式を脳内で処理してアドラに叩き付けると、先程までの生徒達とは比べ物にならない程の爆発音と衝撃が響く。今回使っている術式は範囲と熱量をどの位で発生させるのかを術式の処理能力に合わせるように変数化させているので、術式の処理能力が高ければそれだけ高威力の魔法を使える。今、見せた魔法は他よりも一段上だったので、朝華は他の生徒よりも術式処理能力はトップと言える。
そんな高威力の魔法は隔離された一室内を蹂躙しつくしそして酸素が一瞬で無くなって鎮火した。一瞬の出来事だったが力量差を見せつけた結果になった。他の生徒は唖然としていて、親も大半は唖然としているが少数は興味深そうに朝華を見ている。
「………!」
「……………」
朝華は嬉しそうにこちらを向いたので控えめに手を振っておく。朝華は笑顔で終わった生徒達の方へ戻っていく。そこから先生から総評を貰って次の実習に入っていく。
霊子の制御や広域の制御等、先生が言うには普段授業でやっているような実習を見せてくれているらしい。太陽たちにとっては目新しい物ではないが小学生たちは真面目に取り組んでいる。魔法を暴走させる危険性を教えられているからだろう。
「楽しそうでよかったですね」
「ああ、そうだな」
短く語る太陽と朝日。髪色や顔立ちから虐められていたりとかしていなかったか心配だったが杞憂に終わって安心した。
なんだかんだ、時間は進んで授業が終わる。小学生たちは帰りの会をやっている間は、保護者達は校舎一回のエントランス付近に貼られた直近のイベントの写真を買ったりする。太陽も朝華の写真を狙って買い付けに行く。朝華は転入してきたばかりなのでイベントと言えば最初の頃にあった遠足位だったらしいが友達も何人かいるようだ。楽しそうにしている。小学校の先生がカメラ係を務めてくれるらしいので一枚十円で売っている。
「朝華の写っているのを全部買っても結構安いな」
「家計的には大助かりですね」
「元の学校ではこんなの無かったからな」
太陽は五百種類くらいある写真の中から目的の写真を探しとり、申込用紙に番号を書いて次にある面談の時に提出することになっている。タイムスケジュールを見ていると、まだ少し時間があるので朝華を探すと向こうから寄ってきた。
「よっ、約束通り来たぜ」
「うん、私の魔法凄かったでしょ! 見てた?」
「ああ、見てたよ。前よりもすごくなってたな」
「えへへ」
「それより友達と遊んでなくて良いのか? 別に面談の時間になったら呼ぶし遊んでても良いけど」
「友達を紹介したいから来たの!」
「そうか」
朝華が元気に太陽たちの元に来た理由を話すと、太陽の袖を引っ張って連れて行った。
「私の友達のココちゃん!」
「……えっと、よろしくね」
連れていかれた先には気弱そうな少女が母親らしき女性の方へ下がろうとしていた。まぁ、美少女の父親が不気味なマスクマンだったら怖がるだろう。仕方ないので、外面用の秘密兵器。美少女朝日を投入する。
「よろしくね。私は月隠朝日っていうの。よかったら、お姉さんに名前を教えてくれないかな?」
「……大野月、心愛、です。宜しくお願いします」
「はい、よろしくね」
笑顔の朝日に心を許したのか心愛は少し顔をほころばせる。その後は朝日が目線の高さを合わせて心愛と朝華と三人でおしゃべりを始めた。おいて行かれた形になった太陽と心愛の母親の二人は気まずそうな態度ながらも会話をすることにする。
「娘さんがウチの子と仲良くしてくれてありがとうございます」
「いえ、娘の方も今年から友達が出来て表情が明るくなったと思います。多分そちらのお嬢さんのお蔭かと」
「ああ、自分達もこっちに越してきたばっかりですからね。早めに友達を作ってくれたみたいでホッとしています」
「このくらいの子は結構自然に友達を作っていくものですよ。ウチは上の子もいますけど経験上この位の時期はガツガツ行く子がいろいろ友達を作っている印象がありますね」
「そんなものですかね」
太陽は頭を掻いて、経験談を聞く。彼はまだ高校生だし、子育てになれた親でもない。経験者からこの頃の子供の事を聞けるのは小さくない。今までは小さいコミュニティにいたのでここの様な同年代の子供が多くいる開けた場所は色々勝手が違う箇所が多くあり、そう言ったところを先達に聞けるのは非常に助かる。子育ての苦労話に聞き入っているとそろそろ三者面談の時間になった。
「………すいません。そろそろ面談の時間なので抜けさせてもらいますね」
「はい。愚痴を聞いて下さってありがとうございます」
「いえ、自分達はこれで。朝日、朝華行くぞ」
「「はーい」」
✿ ✿ ✿
太陽は二人を連れて面談の場所になっている5-2の教室に入る。そこには机を向かい合わせて待っている朝華の担任の先生が太陽達を待っていた。
「初めまして、月隠朝華の保護者の月隠太陽です。本日はよろしくお願いします」
「はい、本日はよろしくお願いします」
先ずは挨拶から始まり、向かいの席に着く。
「先ずは、月隠さんの成績についてなんですが。転校してきたばっかりですので我々の方でも把握できない所もあるのですが、先日抜き打ちテストを行った時かなりの高得点を取ってましたね」
「そうですか」
担任は一枚プリントを取り出して太陽達に見せてきた。
「本校では生徒達の年度始の学力を把握する為にこうした抜き打ちテストをさせてもらっています。他のお子さんだと、毎年の事なのでその頃に勉強してきて対策しているのですが、月隠さんはそう言った慣習を知らないハンデがあっても他と比べても高得点を取っていましたね」
「事前に知らされるといったことは無いんでしょうか?」
「学校側も一応抜き打ちテストの体裁を取りたいので通達はしておりません。二年生付近でしか求める様な効果はありませんが」
「そうですか」
太陽は朝華の結果を見せて貰う。恰好以外は真面目な高校生の太陽はこの位の問題は少し覗くだけで正答が分かる。朝華の回答を見ているとケアレスミスとかは目立たず、間違った箇所は応用が難しかったところだと思われる。
「……よく出来てるな。分かんなかったところは、人に相談してみような」
「はい」
太陽は朝華の頭を撫でて論評を伝える。朝華は恥ずかしそうにしながらも先生の前で緊張して硬く頷く。
「んんっ。………では次に生活面についてお話しさせていただいても?」
「よろしくお願いします」
太陽と朝華の親密な空気を取り払うために、担任は咳払いをして引き戻して面談を進めていく。
「生活面ですがまだ詳しくは分かりませんが。ここ最近を見ていた限りこちらも特に問題はないですね。具体的にお伝えしますと挨拶はきちんとできますし、約束や規則はしっかりと守ります。あと、けんかの仲裁役を買って出てくれますし、最近では仲のいい友達が出来たようで楽しそうに学校生活を過ごしていると思いますよ」
「容姿の事とかで何かありませんでしたか?」
「そうですねぇ。初めの頃は大切にしようとしてくる女子生徒とちょっかいをかけてくる男子生徒との板挟みであった様ですけど今ではそれらを仲裁して女の子の友達を多く作っていますね」
「はぁ……」
太陽はちょっかい掛けてきた男子生徒の所で気になったが、朝日から視線を向けられたので余計な事はせずに大人しくする。
「今日もお昼はドッチボールとかもしてたもんね」
「はい、しました」
「まぁ、こんな感じで月隠さんは優秀な模範生徒ですね」
「ありがとうございます」
取りあえず、担任の先生からは高評価を貰った。朝華は見えない所でも頑張っているらしい。
「それでは、最後にこれからの学校のからの授業方針をお話しさせていただきます」
そう前置きして担任は複数資料を渡してきた。確認するとスケジュールや授業の大体の内容とかが纏められていた。
「先ず、今日見てもらったような魔法の授業はやはり高校生になってからが本番というのが国の方針なので制御の方法を重点的に教えていますね」
「はい」
「教養的な科目は以下の通りですね。こちらは国の授業ガイドラインに沿って教えていますので逸脱するところはありませんね」
「はい」
「最後に年間スケジュールですが、五年生になると外に出て社会を体感するような行事が増えていきますね」
「はい」
「そう言ったイベント事の後はギャップに衝撃を受ける子も多いので、ご家庭の方でフォローしてもらえるとありがたいです」
「はい、わかりました」
「何か質問などがあれば、受け付けますが」
「いえ、大丈夫そうです。見つけましたら朝華を通して先生に伝えさせてもらいます」
「はい、承知しました」
太陽は今の話を聞いて質問すべきところは見つからなかったので何かあったら聞くことにする。
「それでは、お話はこれで終わりにさせていただきます」
「はい、了解しました」
「本日はありがとうございました」
「こちらこそありがとうございます」
互いに頭を下げて太陽は朝日と朝華を連れて面談の教室から出て行く。その日は三人で一緒に帰路につき、夕食を相談しながらスーパーで買い物をして家に帰り食材を冷蔵庫へしまい、使う分は調理を開始して今日頑張った朝華の好物で食卓を埋めた。




