お風呂場の夢
太陽たちは林間学校を満喫していた。石を積み上げて、シートを敷いて簡易的な座席を作る。
中心に焚火を囲み、四方に太陽たちが座る。
「意外といいもんだよね、便利じゃないこの状況も」
「そうだな。不便を楽しむっていうのかな、儘ならない事態を工夫と知恵で切り抜ける。楽しいな」
今は話しながら昼食も同時に取っている。魚も焼いており、カレーは少量にして夜にまた食べる予定だ。途中、陽斗が物足りないというが山菜を調理して食わせる。
「美味いな。流石、太陽だ」
「よせよ、気味が悪い」
太陽は辰馬のお世辞に嫌そうに顔を顰める。他二人は太陽の料理の腕を知っている辰馬との関係性を興味深そうにしていた。
「あれだな、周りの目が痛いな」
「仕方ない。周りを見れば、準備とかまだ済んでなさそうだな」
「趣味じゃなければ、こんなもんだろ。説明書とかあるし、心配もない」
「というか、こんな異様な雰囲気の集団だからな。何も無くても周りの目を引いただろうぜ」
「自分で言うか」
太陽は呆れた様子だ。結構、高身長な三人が集まれば、微妙な景色、というか威圧のある景色だろう。
「なんか、話題とかある?」
「…………ない」
「同じく」
「そうだな、都市伝説でも俺が話そう」
こういうのは理子の役割かと思っていたが、陽斗も中々話せるらしい。
「そうだな、怪人、妖怪、怪異に伝説。うーん、そうだな。俺達の最高位について話そう」
「最高位、…………神話級の人達か」
「いや、国の目が届かない人たちさ」
太陽たち魔導師の最高位に位置する者達は、神話級魔導師と言われる。彼らは一回の魔法で戦略ミサイルと同等、一撃で艦隊を殲滅できる魔法を扱うモノ達だ。そういうモノ達の中で国家で認められている者達を神話級魔導師と言われる。
それ以外は世界滅亡の象徴として扱われることもある。
「滅亡の頁か」
「おう。俺の一押しはその中でも一番の謎。最強、最悪の存在【ぬらりひょん】だな」
「別にそれでもいいと思うけど、俺は考察が進んでない【ドラキュラ】が聞きたいな」
「まぁ、聞け。これは俺が一番信憑性が高いと感じてるモノでな。しかも、新しい説だ」
陽斗が一回前置きを置く。どうやら、新説を持ってきたらしい。
「十二家の隠し子、政府の実験体、etc。色んな説があるから、今更増えてもしょうがないよな」
「聞いてから判断してくれ。俺の推しの説は、十二家の隠し子説の中の一つ。辰牙家の消えた双子説だな」
「…………俺らが丁度生まれた頃だったか? 辰牙の家に生まれた赤ん坊が外国政府に誘拐されて、手を尽くしても足取りすらつかめず。結局、死んだことになってたんだっけ?」
「その時は世界中で、似たようなことが起こっていたらしいからな。犯人もほぼ分かっているけど直接的な証拠もない」
「戦後で一番大きい誘拐騒動だったよね」
話が脱線し始める。陽斗は一つ咳払いした後に、本題に戻す。
「で、説の根拠となる部分なんだが。誘拐された子は俺達と同じぐらいの年代にはなっているって事が一つ。このくらいの年代なら大体三年前でもちゃんと魔法が使える年頃だったはず。才能があれば凄い魔法も使えると考えられる頃だ」
「辰牙家の現当主が初めて大規模使ったのもその頃だったけ?」
「俺達もまだ生まれてないな。当時は大変だったとか、今でも破壊の痕跡は残ってるけど、その破壊の跡に街を作ってるとか」
「元気な国だ」
陽斗は直ぐに話が脱線する聴衆に話題を戻しに行く。
「話を聞いてくれよ。で、根拠二つ目は辰牙家が研究している魔法――、構造処理魔法だ。これは太陽たちの方が知ってるんじゃないのか?」
「確か、構造物の構造に干渉する魔法だったかな。パズルを部品に組み分けるような魔法って方がイメージしやすいかな」
「そう、ソレ」
「確か、三年前の沖縄戦で迫ってきた敵船集団をそれに似たような魔法で一撃で消滅させられたんだっけか。その時に現当主の関与が疑われてたけど、攻撃方法が違う事を指摘してその疑いは晴れたんだよな」
「じゃあ、誰がやったんだと、国防軍には情報開示請求がいっぱい入っている。しかも、3年経った今もしつこい所はしつこいらしいね」
「で、陽斗は二つの根拠から怪しいと思ったのか?」
「そうだな。攫われた赤ん坊が意識せずに故郷を守る、コレは熱い展開だと、俺は思うし。不自然な所は今の所感じられない」
陽斗は支持の理由の半分ほど自分の個人的趣味を反映している事を明かす。都市伝説みたいな話の支持の理由等こんなものだろう。
「太陽はどう思う?」
「別に、日本に敵対的じゃなければそれで良いじゃん」
「冷めてんなぁ」
「熱くなる理由ないし」
友人の熱い主張を太陽は冷めた感じで受け流す。しかし、雰囲気は和やかに昼食は進む。
✿ ✿ ✿
日が沈みかけてきた頃。先生達から号令が入った。
「皆~、そろそろお風呂の時間だよ。準備してね!」
安奈先生の指示に生徒たちは男女に分かれて、二つある風呂場へ向かう。二つの風呂場は一キロ離れており。キャンプ場が大体中間の辺りにあるので、500mはある。しかし、こういう所は魔法科の生徒たちは魔法を駆使して向かう。足場が悪い所もなんのその。
「こういうところは使えるのな」
「まぁ500mの山道を無装備で歩けは辛いだろう」
そんな事を話しながら、魔法無しで動く太陽と重力低減と運動量制御の魔法を使いそれに付いて行く辰馬はお互い木々を飛び移って風呂場へ向かっている。二人は先頭組でまとまって動いている。
全員が数分かけて風呂場に着くと、男性教員が声を出す。よれよれの何となくだらしない雰囲気のある教員、二組の担任――、葦原雄介だ。ある魔法の分野でそこそこ優秀な論文を納めているが、素行不良と判断されて、半ば業界を追放気味の人物である。
「はい、えー、望遠鏡とか、双眼鏡とか持っている生徒がいますが、取り締まるのはめんどい。サッサと風呂入って寝ろ、以上だ」
「適当な…………」
葦原先生の適当な号令がかかると、男子生徒は風呂場の脱衣所で衣服を全て脱いで風呂場に入る。流石に温泉ではなく人工的な浴場だった。しかし、露天風呂になっている。水道が通っているのでお湯も普通に使える。約五十人が一気に浴場を使うので少し並ぶことになる。流石に裸同然の格好で過ごすのはためらいもあったが、案外手早く列は進んでいく。
「ふぅ、スッキリ」
「顔は隠したままなんだな」
今、太陽は黒帯で顔を覆っている。大きめの布の様な黒帯で顔を隠し、見えない様になっている。前が見えないのではないかと周りの同級生は思ったが、特にコケたり迷うことなく足は進んでいるので補助は必要なさそうだと考えた。
「…………」
しかし、隠されれば暴きたくなるのが人の本性であり。何人かは太陽の素顔を拝もうと挑戦するが、夢は叶わず太陽に捕まって全身を洗われる。
「お婿に行けない…………」
「あんな所を」
「結構、汚れてた」
「汚されちゃった……」
数名の男子生徒は顔を俯かせ、勇気の代償を支払わされていた。
「ん?」
太陽は隠した顔で何かに気付いた。隅の方で何人かの男子たちが何かやっているのが見えた。彼らはもう風呂から出た後の様だが、双眼鏡で何かやろうとしている。
「よし、この術式で光を集めて投影するんだ」
「「「了解」」」
どうやら魔法を使って覗きをするつもりらしい。気付いた以上、放って置くわけにもいくわけにも如何ない。妹の危機なら対応するのがお兄ちゃんの役割だ。彼らは集光と屈折を応用して覗こうとしているので、彼らの集光する景色に前に見てトラウマになりかけた年配の女性の画像を作り出して差し込んで投影してやる。
「ぐうぇぇぇぇ!」
「っ! なんだなんだ」
陽斗が太陽たちの前で立ち上がって動揺し始める。やめて欲しい、見たくもないものがぶらぶら見える。
「太陽。何かしたか?」
「妹の貞操は守られた」
「そうか」
太陽たちはしっかりと体を温めて風呂を出ると湯冷めする前にテントの場所へ戻る。そこからキャンプファイヤーの準備を始める。
女子目線は希望があったら書きます。




