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学生魔導士の騒動録~その力は誰のために~  作者: Dr.醤油煎餅
第一章 入学は誰でも一歩目
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無貌の協力者

 都内某所。ここは都内の中心からは外れているが、そこそこに建物が密集している。しかし、閑散としていて人の気配はない。

 そんなビル街の一つのビルの地下には数十人の人間がいた。しかし、堅気の人間はいなくて何人もの人間が武器の手入れをしていたり、話し合いをしていた。この建物は太陽たちの学校に攻め込んできたテロリスト達の本拠地であった。数十人と少ないが、これは日本各地に構成員が散らばっているからであって、本来は二百人前後の人間で構成されている。組織名は【Re・version】。世界に幾つもある反魔導師団体の中で過激派の一つであり、主に日本で活動している団体だ。彼らは魔導師をエネミーと同列にみなしており、その排斥、および淘汰を目的にして活動している。


「突入部隊はやられたか…………」

「はい、ニュースなどでは流れてきてはいませんが、連絡がないことからやられたと考えるのが妥当かと」

「そうか…………」


 ミュータントに対抗する自分達の同志が、ミュータントに討ち取られた事に対して彼らは憤怒の感情を抱えている。勝手にカチコミにきて逆に返り討ちにあった事に逆ギレする等、まともな人間からすれば面倒な人物だと思っただろう。


「同志には悪いが救出は無理だ。同志がバラす可能性は低いだろうが厳しい尋問を受ければ、ここもバレる可能性がある。………場所を移そう、彼らが情報の流出を拒んでいる間に我らが助からなければ彼らの奮闘が無駄になる」


 情報の流出が前提で話したのは、この支部のトップであり、【Re・version】の最高指導者である男。見た目はガッチリしており、筋肉質であるが、狂気的な考えに染まっている人間とは思えない程理知的な雰囲気を感じる。

 リーダーにそう告げられると、全員が夜逃げの準備を始める。


「十分で片付きそうです」

「そうか、全員がこのビルから出たら証拠を隠滅する。速やかに用意を済ませろ」

「はっ!」


 十分後、夜に紛れる黒いバンが複数、建物の前に並んでいた。その中に最高指導者の男が乗り込む。早速出発させようとすると、車が発進しない。


「おい、どうした早く出せ」

「も、申し訳ございません。エンジンはかかるのですが、何故かタイヤが上手く進まず」


 外を確認すると、他の車も進まないようだった。すると、何かに気付いたのか、最高指導者の男は無線で各車に連絡を取る。


『各員、車から降りろ。魔法による攻撃を受けている可能性がある、建物側から車を盾にして出ろ』


 そう言って最高指導者の男は自分も外に出る。車を盾にして、部下には車の故障の原因を探らせている。


(静かだ。だからこそ不気味だ。カウンターで来るなら包囲する為に大量動員してここでの撃ち合いを想像していたが、何故ここまで静かなんだ?)


 不気味に思っている最高指導者は部下に警戒を呼び掛け、自身も実銃で武装する。警察にバレたら一発で逮捕されるが、ここまで来たら今更だった。


『最高指導者。日野方面からとで誰か近づいてきます』

「………撃ち殺せ、魔導師だ」


 サイレンサー付きの拳銃から出される気の抜けた銃声が聞こえると、最高指導者は仕留めたと考え相手がどう動くのか考える。彼らは武蔵村山市まで逃げるつもりだったが、車では逃げられなくなっている。そして考えるに今自分達は囲まれていると最高指導者は考え直す。


「出てきたら?」


 最高指導者は心臓が跳ね上がった。実際にはそう感じただけだが、それでも衝撃を受けたことは確か。無音のビル街に自分達とは違う若い男性の声、部下にも若い世代はいるがそういう男ではないのは確か。自分になれなれしい口調を聞くはずもない。最高指導者はライフルを構えて車の影から出て来る。


「やぁ、こんばんわ」


 静かにそれでいて不気味な背の高い少年が立っていた。少年は黒いパーカーにフードを被っていて顔は見えない。スラックスを着ていて随分とラフな格好だ。少年は何かの機械を取り出しそれを自分の腹に当てる。すると、そこから帯状の何かが広がり機械がバックルの位置にある。

 魔導師である事を再確認すると、周りの部下も銃器を構える。


「じゃあ、さようなら」


 何かしらの金属製のカードをバックルに差し込むと、認証された情報に伴い、魔法が発動される。それはエネルギーを操る【エネルギー干渉】の魔法ではなく、この世界の概念・法則を歪めて発動される最高難度の魔法、【概念干渉】。

 それによってこの世界に存在していなかった構造物、物質が構築され少年に装備される。


「へ、変身した」

「怯むな。どういう能力で生まれたにせよ、所詮はただの防護服。一斉掃射で仕留めろ」

「「「「ハッ!」」」」


 最高指導者に命令された部下は一斉に銃撃を開始する。最高指導者も部下に続いてライフルを放つ。

 しかしーー、


「うん、大丈夫そう」


 その防護服に全ての弾丸が弾かれる。唖然としつつも最高指導者はナイフに持ち替えて少年に襲いかかる。


「しっ!」


 最高指導者は運動エネルギーの吸収して防いだと予測して、更に自分達が近づいてきたタイミングで運動エネルギーを放出すると考える。銃弾が弾かれた範囲を確認し、そこの範囲になるまでナイフを振る。そこに入った瞬間にナイフを引き戻して放出されるだろう運動エネルギーに備えると同時に心臓めがけて突き出す。吸収から放出に代わるその一瞬をついての必殺になる一撃だ。

 少年の防護服、それも心臓部分にナイフが突き立てられるが、それは通らない、傷一つ付けられない。


「なっ、何故だ……」

「ん? まぁ、魔導師なら全員防御のために壁の様に魔法を貼る、その前提は間違う事はあまりない。けど、これは違うよ。防護服に硬化の魔法が施されている。だから、銃弾の雨も効かなかった、原理は分かってもらえたかな?」

「しかし、ほぼ全身にかけているなら燃費は悪い。格闘で時間を稼げばこちらにも分はある!」


 最高指導者はよく状況を見て少年を倒す算段を付ける、前と後ろに分けて交互に挑ませることにする。そして少年を観察する。メットの部分は鮫を模しているのか頭にはヒレの飾りがついている、体は判別のつかない材料不明の金属が急所と肩を覆い、太ももやすねふくらはぎも守るように守りを固められている。デザインはともかく動きやすそうな戦闘服であった。


「かかれぇー!」

「「「「うおおおぉー!」」」」


 夜中だというのに大声を張り上げて少年に突撃する。


「…………」


 最高指導者はバイザーの奥で見えないが少年が笑った気がした。

 次の瞬間、目にも止まらぬ速さで、一人一発ずつ、顔、胸、鳩尾に拳撃が叩き込まれる。それだけではない、離れたところで五人固まっていた男達が襲われる。

 最初の一人は顔を殴られ、二人目はそのまま連撃の様に突き出された拳で顎を打ち上げられ、そのまま回転を付けて三人目に蹴りを打ち込む。やっと、気付いた四人目が首にナイフを入れようとするが、少年はしゃがみ込み、低姿勢のまま駆けだして、タックルで弾き飛ばす。弾き飛ばされた四人目は、五人目を巻き込んで吹き飛んだ。

 格闘戦でも負けはない。その事を文字通り、身を以て教えられた。


「総員、バラバラに散って逃げろ! 相手は一人。要注意人物として各支部と同胞に伝えろ!」


 最高指導者は今は勝てないと悟った。先ずは対策を取ることが重要だと、同志を逃がすことを優先する。自分は市街地に向かう、相手は誰にせよこの場所で狙ってきたという事は市民への被害は避けていると考えられる。人質にでも取るために、それと同時に自分の重要性を上げるために駆け出す。


「つまんない事を」


 少年の意思にこたえるように地面から黒い壁が出現し、男達の逃走先を失くす。


「さぁ、性能テストだ。明るい未来のためにも、協力してくれ」


 そう言うと、最高指導者の視界から少年が消え、バラバラに散ろうとしていた男が順序良く気絶させられていく。後遺症にも残らないだろうが、素早い動きで順序良く仲間が仕留められていく光景に戸惑いつつも、自分が盾になろうと突っ込む。しかし、それを嘲笑うように少年は最高指導者だけは避け、その部下の男達だけを狙っていく。


 連撃を意識して急所に攻撃を打ち込む。低姿勢の跳躍や、緩急をつけたフットワーク、少なくとも足腰は出来ている。加えて、戦い慣れている。順序良く、加えて必殺の一撃で男達の意識を奪っていく。数分で、立っているのは最高指導者と少年だけになった。


 最高指導者は自分の最後を意識したのか正真正銘、最後の賭けに出る。注射器を取り出し、動脈に突き刺そうとした瞬間、彼の腕が無くなった。絶叫を上げる間もなく、側頭を蹴られて気絶する。少年は最低限の止血を行う。黒い壁が消えると、数人のスーツの男達が近づいてくる。


「お疲れ様です」

「はい、お疲れ様です」

「これが最高指導者で、これが人のエネミー化の原因になる薬液の入ってるかもしれない注射です」

「なるほど、預かります」

「じゃ、後始末と捜査は任せます。車は壊してないんで自由に使えますよ」

「配慮いただきありがとうございます」


 少年は武装を解除すると、頭を下げてその場を後にする。

 残った男の一人は、作業をしつつも先輩に質問する。


「先輩。あの少年は一体何者ですか?」

「さあな」

「どうした顔が見えないんですか?」

「さあな」

「どうして、公安に協力してくれるんでしょう」

「さあな」


 二人は公安の人間の様で、それに協力している少年に後輩は興味を持っている様だ。


「後輩、別に探るならいいが、あれはやめとけ。俺が新人の頃に初めて会い、奴と共に当たった任務が奴の素性調査だった」

「ほう」

「公安がそれなりに力を入れて捜査に当たったが、結果は惨敗何もつかめなかった。顔に家族構成、血液型、出身地に至るまですべてが謎だった」

「まさか」

「ありえない話じゃない。この社会にも踏み込んじゃいけない闇の領域って事もある。あれも似たようなものだ。長生きしたければ、アレには必要以上に関わるな」

「…………そうっスね」


 結論は出たと、顔のない無貌の協力者の話を打ち切り、作業に戻り、夜明け頃にはその場には戦闘の痕跡は何も残っていなかった。


✿  ✿  ✿


 数日後、事件から立ち直ってきた周囲の環境に慣れてきた太陽は朝のニュース番組を朝食と共に自分に入れる。


『昨夜、警視庁から要注意団体【Re・version】が解体された事が発表されました。彼れは全国各地に拠点を所持しており、警察が強制捜査を行い、銃器などの危険物を所持し、日常的にそれを使用して訓練を行っていたそうです。反魔導師主義を掲げている団体が、こうした危険思想に染まってきていることから反魔導師主義の正当性が現在世論の中で疑われています』


 魔導師の家族もを持つ太陽にとって、朗報の様な話題だ。


「収まると思います?」

「収まらないな。むしろもっと努力しようと躍起になって過激な行動に出る団体が増えると見た」

「負のサイクルですね」

「乗ってない、まだ乗ってない、はず」


 個性豊かな太陽の家族の騒がしい朝は過ぎ、今日も学生魔導師たちの騒がしい一日が始まる。

終わりませんよ。一応、まだ続きます。

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