緊急事態、太陽さんはピンチです!
太陽は人払いを済ませると、正面からエネミーとなった人間に向かい合う。
「キュキュキューウ」
「気持ちわり」
太陽は素直な感想が出てきた。もう知能も人間の面影はない。この様子では元々の目的意識ももうないだろう。これが、自然になった事か、人為的に起こった事かはこの際どうでもいい。捕縛を第一目標に、コイツをどうにかする。
太陽は手を合わせそこから大量の黒帯を発生させて、グラウンドを取り囲む。
一気に間合いを詰めて、顎にアッパー。殺さない範囲で手加減はしなかった。自分の持つバネと筋力をフルに使って殴れば数メートルは吹き飛ぶ。事実、人間エネミーは同じ様に吹き飛ぶ。
しかし、巨体に似合わないスピードで体勢を立て直し、蛇のように滑るように移動してくる。ダメージも、もう回復したようだ。太陽も今度は顔の中心に接近に合わせて顔面に拳を当てる。
「クゥゥッ!」
「タフだな」
ダメージは直ぐに回復される。生け捕り目的の生半可な一撃では、たいしたダメージは稼げない。太陽の異常な身体能力から放たれる一撃でも、エネミーの回復力を突破するには至らない。加えて、黒帯で捕えようにも関節を外したり、腕や部位を自切して拘束から抜け出す。檻を作ろうとしても、平べったくなったりして、抜け出される。
「人間の体から、そう簡単に体型を変えられるのかね」
エネミーも黙ってやられるわけじゃない、噛み付こうとしたり緩急をつけた軌道と突進でジンの攻撃をかわして突っ込んでくる。しかも、それだけじゃない――、
「魔法、か?」
何と、自身に移動力を上昇させる魔法をかけて突っ込んで来た。黒帯で無効化できるとは言え、あの正気を失った状態でも魔法を発動するとは、元が人間だからか、それとも魔導師だからだったのか。
気になりはするが、全て後回しで捕獲方法を考える。突進、噛みつき、巻き付きの攻撃に対応し、足場を創造しながら、空中機動で移動して攻撃をよけ、相手には痒い反撃を続ける。傍から見れば、神業の様な足捌きと体捌きで全て避ける。
魔法を使える事には驚いたが、運動方向を反射させて骨を砕く。しかし、それらを回復させて、今度は空気をプラズマ化させてこっちに打ち出してきた。戦法を考える頭は残っていたようだ。底の知れない人のエネミー。
しかし、疑問に思う事もある。
(何で、人間を襲うのか)
太陽が先に思ったことはそれだ。別に人間がエネミーになったこと自体、不思議と言えば、不思議だがありえない事ではない。有り得たかもしれない出来事だ。しかし、エネミーは元となった生物である原種には攻撃的な態度を示すことは無かった。しかし、人間が原種となったのにテロリストを捕食したり、するその攻撃性は何なのかイマイチ見当がつかなかった。
すると、相手にならないと悟ったのかエネミーは飛ぶ、いや跳躍して景観用に植えられた気に取り付き噛み付いて捕食をしていく。
「何だ、人間以外も食えるのか」
街路樹を喰うのはどうかと思うが、所かまわず食う訳ではなさそうだった。どうやら、生物であれば腹に入れていくようだ、芝生の雑草や生垣も食ってる。
今、ヒトのエネミーは太陽が囲った塀の外に出ている。三メートルはある壁を跳躍で乗り越えた。近くに体育館もあるが、壁を黒帯で強化して守っている。一旦、グラウンドを囲っている黒帯の壁を解除して、自分に戻しつつ。次の策を練る。今は餌を喰って大人しくしているが、それは太陽に対抗する為の準備だろう。
(食ったのが、植物でよかったか。人間なら、どんな能力を獲得するか…………。いや、マズいか? 人間はともかく、植物は代謝能力の効率が高い、獲得されたら長時間の活動が可能になってしまうか?)
太陽が現状を再確認すると、事態がやばいかもしれないと思い始める。
(早死にがエネミーの特徴なのに、それを克服されるとは)
太陽は出し惜しみはしていないが、出せない能力もある。こんな場所で軽々しく使っていいものでもない。打開策がないモノかと、情報端末を取り出す。
「ん?」
メモ帳に書いていた予定の時刻と予定の内容が出ていた。
「ま、マジか」
太陽は内容に驚愕する。その隙をついて、エネミーが太陽を弾き飛ばした。そのまま体育館の上に乗せられてしまう。そのまま、追撃するようにエネミーは上から太陽に身体をぶつける。体育館の屋根をぶち抜き中に落下する。しかし、太陽は情報端末の予定の内容の衝撃から立ち直れないようで、少し呆然としている。
「くきゅ、くきゅ、くきゅきゅきゅきゅ」
エネミーは楽しんでいるようで、笑うように声を出す。エネミーが中に入った事を確認すると、太陽は黒帯で体育館の中をコーティングし、今度は網目のように黒帯で囲む事で抜け出せない様にする。
「これは疲れるが、時間が足りないんでね。すまないが捕まっていてくれ」
太陽は自切や関節外しでも抜け出せない様に、数層からなる網状かつ、空気も循環できるようにして特製の檻を作った。これで窒息死も避けられる。
人のエネミーを入れた網の檻を体育館から移動させる太陽はインカムで冬華委員長に連絡を取る。
「委員長、こっちは終わりました」
『ありがと』
「2体ほど生きてるエネミーを捕獲しました。研究所の輸送車を回してください」
『えー、まぁいいや、先生たちには連絡しておくから』
太陽はその他、被害を伝え連絡を終了させる。自分の情報端末を確認すると、無事なようで機能は生きていた。太陽はある人物に連絡を取る。
「あっ、朝華か?」
『もしもし、パパ様?』
「ああ、パパ様だ。すまないんだが、今日は学校が大変なことになっててな」
『大変な事?』
「それは明日のニュースでわかるさ。それよりも我が家の方がピンチでな」
『んにゅっ?』
電話口から少女の声が聞こえる。声の年齢は太陽よりもだいぶ幼い。太陽もデレデレとだらしない雰囲気で話している。
「今はどこに居る?」
『家にいるよ』
「丁度良かった、今我が家の冷蔵庫を見てわかる通り、肉と卵の在庫が少なくてな」
『ああ、本当だー』
「そこで、朝華さんには任務を与えます」
『………はいっ!』
「はい、良い返事です。朝華はいつものスーパーで今日の18時にあるタイムセールのセール品である卵と豚肉を確保してくれるかな?」
『はいっ、了解です!』
「よし、お金は電子マネーを振り込んでおくからそれで払ってくれ、メモ帳も送っておくから確認してくれ。ああ、あと、天奈の勉強の邪魔はしないようにな」
『は~い!』
太陽は幼子に言いつけるように話すと朝華という少女に買い出しを頼む。元気な返事を返した朝華少女は、電話を切った。買い出しの準備に向かったのだろうと思うと、太陽も情報端末をしまい、後始末を開始する。
すると、ようやく警察が駆け付けてきた。
「だ、大丈夫ですか!?」
「ええ、事態は収束させましたが、表の奴は専用の設備を乗せた車が来るまで近づかないで下さい」
「あ、はい」
「シェルターの入り口がそこでインターホンがソッチにあります」
ジンが差したインターホンが格納されている方向へ向かい、警察は中へと連絡する。少し話すと、シェルターの中へと続く扉が開かれる。中から警棒で武装した男性教諭と安奈先生が出てきた。申し訳程度にアーマーも着ている。
「あー、月隠君!」
安奈先生は太陽に詰め寄り、守るように抱き着く。その体は少し震えている。
「大丈夫、大丈夫。先生がいるからね」
「先生、大丈夫ですか?」
「大丈夫、何が来ても大丈夫だからね」
安奈先生の様子がおかしい、どっちかって言うと怯えている様だ。ここで置いていくにも忍びないので揺らさない様にして抱える。
小柄ではあるが大人を抱えるその姿は何というか不気味さと頼もしさが隣り合っていた。体育館内で外に出ている奴ら全員が怪訝な顔をする。
「先生方、生徒を外に出して出欠席確認。警察は掛けている生徒を確認しつつその間に風紀委員や防衛に加わった先生方から事情聴取、テロリストの連行も行ってください」
「はい!」
取りあえずの指示を太陽が出すと妙な気迫に押されて、敬礼して命令通りに先生たちや警察も動く。1-E5も表に出てきたので、使えない状況になっている安奈先生に代わり、太陽がグラウンドに集結した生徒の出欠を取る。その間、震えている安奈先生はずっと太陽に捕まっていた。
「それで、色々聞きたいんだが」
辰馬が太陽に近づき、質問しようとする。シェルターにいた辰馬たちは状況を把握できていないのだろう。
「大変、マズい事態だ」
「本当か?」
「ああ、家族の危機だ」
「…………一応、聞く。今日のセール品は?」
「卵と肉だ。1週間は持たせられる様に肉を多めに買い込んでおこうと思ったんだがな」
完全に的外れで能天気な太陽の言葉に慣れてはいても、呆れている辰馬。
「あ、そうだ。人がエネミーになったぞ」
「え、えー、マジか」
「おう。しかし、俺はそれより、タイムセールの方が問題だ。朝華に扱いは任せたが、この後のアルバイトも含めるともう少し、買い出しに行く人員を…………」
辰馬は呆れて顔に手を当てる。太陽はブツブツ考え事をしていて、辰馬の様子を目に入れてなかった。見ても、特に反応する事もなかっただろうが。
「おーい、二人共。何の話をしてるの。って、何で先生引っ付けてるの?」
理子が話し掛けて来る。その際、太陽の背中におぶっている安奈先生に目が行った。他、いつもの三人も一緒だ。
「あ? ああ、あー、何でだろ?」
「いや、自分の行動にもっと興味持って!」
理子に突っ込まれる太陽。それはそれとして、学科一学年主任から通達が出された。
「今日は解散だけど、明日、明後日に事情聴取するみたいだよ。あー、その前に今日は下校の時に校門で荷物検査があるから、それだけ受けたら今日は解散だって」
「えー、まぁいいか。今日はお疲れ様」
「っと、その前に辰馬学級委員長から帰りのお言葉を貰ってから内のクラスは解散にしよう」
『はーい』
クラス全員が太陽の悪ノリに乗っかる。乗りの良いクラスである。
いきなり、言われた辰馬は憎々し気に太陽を睨むが、太陽はどこ吹く風とメガホン型に加工した黒帯を手渡す。それを手渡されると観念したのか辰馬はメガホンを使う。
「えー、今日はね、とても大変なことがありましたが、えー、しかしですね、こうして無事に事を済ますことができましてね、また日常に戻れるでしょうから、頑張りましょう。以上、解散!」
「つまらねぇ、辰馬、ここは一発芸をっ!」
茶々を入れようとした太陽の頭を近くに来ていた心美が殴った。予想以上に硬かったようで少し痛そうにもしているのに、太陽は少し笑ってしまった。
「痛い、痛い」
「嘘ですよね。…………まぁ、良いですけど」
取りあえず、帰る事を優先したのか東海兄妹は連れたって校門に向かう。太陽はそれを見送り、自クラスの他の生徒も見送る。今日はもう帰ってもらって、話は明日にしようという事らしい。数十分して、徐々にグラウンドの人も減っていく。
エネミーも研究機関の捕獲チームが出動したようなので、ここでの太陽の役割も無くなる。安奈先生は、真紀先生に連れていかれた。落ち着いた太陽は事情聴取されに向かう。十数分して、聴取も終わる。
「それじゃ、以上です。明日からの聴取はないから、そのつもりで」
「はいっス」
太陽は言われた通りの質問に答えて、無難に聴取を終わらせた。
「ん? やっぱ、もう暗いですね」
「ははは、ごめんね時間掛けちゃって」
「いや、話す事も多かったんでね、こっちの方こそ時間掛けちゃってすみませんでした」
「いやいや、良いんだ。今日の所は、このまま真っすぐお帰り。では、帰り道気を付けて」
「はい、さようならです」
太陽は警察の人にお礼を言って少し遅めの帰路につく、もう、校舎にはほとんど人は残っていなかった。
「さて、今日の夕食は何かな?」
夕食に思いを馳せて、太陽の激動の一日は終わる。




