予兆
吾妻琴乃の朝は早い。彼女は母娘共々、白銀家の家で住み込みの使用人として雇ってもらっている。と言っても、彼女は見習いの様なモノでメインは彼女の母親だけである。彼女も働いているが、白銀家からは娘の一人のような扱いになっている。彼女は事情合って母子家庭で、母の持っていた縁によりこの家の世話になっている。
彼女は簡単に身だしなみを整えて寝坊助な幼馴染を起こしに行く。
「起きて、彩。朝だよ」
「う~~んん、おはよ~」
「はい、おはよう」
琴乃はニコッと笑うと彩を起こし、食堂へ先導する。寝ぼけ眼な彩だっったが、席に座り琴乃が出したドリンクを飲むと少しは冴えた目になる。すると、琴乃は自分の分も含めた朝食を準備する。
「…………パパとママは?」
「お二人とも暫く出張に行かなくてはならないそうよ。最後まで二人共すごくゴネてたんだから。
「………なんでだろう?」
「この間の騒動で離れたがらなかったの忘れたの? メイドさん達の間じゃ凄い話題だったんだから」
「まぁ、あれだけ騒いでればそうなるよね」
彩は一人っ子なので彩の両親がいなければ必然的に二人での食事になる。琴乃の母は使用人の寮で先に食事を済ませて今日の業務に入っている。
「騒動っていえば、パパが太陽さんにお礼を言いたいって話してたんだけど、どうしようか?」
「うーん、相手の予定を確認しないとだし、小父様の予定も確認しないといけない。小父様は何時休みが取れそうなの?」
「一月後、かな? と言っても、未定の予定なんだけど」
「予定にできないね。まぁ、2人とも忙しい訳だし、そこはしょうがないと思うけど」
太陽へのお礼をどうしようか彩と琴乃は話し合っている。しかし、当事者もいない場での話なんて進む筈もなく。適当な話し合いで終わった。
朝食を食べ終わった二人は片付けを済ませると身支度を整えて二人で学校へ向かう。
✿ ✿ ✿
入学して二、三週間位の頃。学校生活にも慣れてきて。登校時の風景も見慣れてきた頃合い。太陽は何となく疑問に思った。
(今日はやけにトラックが多いな。しかも、フリーの業者の奴だな)
車が通るのは当たり前だし、民家が周りに少ない以上、輸送車が増えるのも当たり前だが。普通なら専用の業者が運んでくるはずで、そういった輸送車には会社のロゴが入っているというのに、今日見る輸送車はそういったロゴが入ってない。何を運んでいるのか気になったが、別に確認する必要もないかと疑問を無視して学校に登校する。
「おはよー」
「おはよう」
太陽は陽斗と挨拶をかわし、太陽は自分の席に着く。するといつものように陽斗が話かけてきた。
「なぁ、太陽。最近保健所襲撃が増えてきたよな」
「ああ、近所も襲撃されたらしいな」
「随分他人事じゃねぇか」
「俺が手を出せることじゃねぇしな」
太陽は至極まっとうな意見をする。強力な力があろうとも高校生、捜査をするのは警察の領分。気にはなっても手は出せないのだ。というより、太陽は最初から保健所襲撃に関してそこまで興味はなかった。
「ま、そうだな」
陽斗はつまらなそうにする。話題を持ちかけたとはいえ彼自身も強い興味があったわけじゃないのだろう。
「おはよ」
「おう、おはよ」
「おはよう」
次に入って来た理子も挨拶して自分の席に荷物を置くと話に加わる。
「何、話していたの?」
「保健所襲撃が話題になってるなって」
「ああ、それ。警察も躍起になって捜査しているみたいだけど証拠が何もないのよね」
「そういえばニュースでもそんな事言ってたな。素人の仕業には見えねぇんだっけ?」
「そう。噂じゃ何処かの国の特殊部隊が関わっているとか」
「そんな噂が流れてるんじゃ、怪しいもんだな」
太陽は笑って流す。そんな噂が流れている時点で本当に関わっているのかは怪しい事だ。こういった都市伝説じみたことはこうして広まっていくのかもしれない。
「あんま確証の無い話を広めんなよ」
「ふふーん、こういうのはあるかどうかが分からないのが面白いんだから」
「ガキくせぇ」
「野生児よりはマシよ」
「あんだとぉ」
「落ち着け、どっちも悪い」
「「ぬぅ」」
「喧嘩するほど仲がいいとは言うが、実際そうでもねぇな」
「「当たり前だ」」
「やっぱそうでもないのかな」
同族嫌悪とでもいうのだろうか、本当に仲が良いのか悪いのか。
「おはよう」
そんな夫婦漫才を見ていたら辰馬が教室に入って来た。
「おはよう、辰馬」
「おはよう」
「おはよ」
辰馬は自分の席に荷物を置くと、話に加わる。しかし、今度は明るい話だ。
「ニュースっていえば、孤島の開発とか人工衛星の打ち上げとかもあったよな」
「明るい話題は噂になりにくいからな、すくなからず平和な分刺激的な話題に人は寄るんだろうよ」
「捻くれてるな」
太陽の意見を辰馬は鼻で笑う。
辰馬は話を続ける。
「それにしても、今日は厳つい顔してんな」
「……そうか? 自分じゃわかんねぇが」
「誰にも分かんねぇよ」
「ほぼ見えないよね」
太陽の顔付きが違う事を見抜いた辰馬は、まだ付き合いの浅い理子と陽斗に呆れられる。
「慣れると見抜きやすいもんだよ。こいつは表情分かりやすいし」
「そんなに変わりやすいか?」
太陽は自分の顔を触って確かめるが特に変化しているようには感じない。辰馬はクスリと笑って太陽の頭を抑えて撫でる。
「何でか知らんが、お前は分かりやすいよ。他には伝わんねぇんだがな」
「そういうもんかな」
「そういうもんだな」
「明るいニュースは少ないけど、平和な事が明るいニュースなのかもね」
「おはようございます」
「おはよう」
くてぇと話していると、七海と純二が教室に入った。その後はイツメンで始業の時間まで話をした。しかし、太陽の頭には何か黒い不安が渦巻いている。




