1-8 放課後の帰り道
太陽は車に連れ込まれると首筋にスタンガンを当てられて、くぐもった声を漏らし脱力する様にシートの間に入れられる。
誘拐してきた者たちは、ナイフを太陽の首元に当てると朝日に低い声で警告を出す。
「おい、声を出すなよ」
「コイツを殺すからな。他の奴らも無事じゃ済まねぇぞ」
朝日は発音に違和感を感じながらも、とりあえずはしたがって黙って置く。すると、彼女らが身に着けている電子機器を外して、男たちが二台の方へ投げてしまった。
朝日は移動ルートが見えないように姿勢を低くなる様に抑えられながら、車に揺られる事、数十分。
不躾な所を触られたりもしたが、我慢して耐えていると、郊外の廃工場に辿り着いた。どうやら、廃車処理工場跡のようで、壊れた廃車がジェンガの様に積み重なっている。第三次世界大戦の影響で、こういった廃墟が残っており、かなり問題になっている。
それはさておき、
「降りろ」
朝日は腕を後ろに回されながら、動けないように外へ連れ出される。太陽は待っていた誘拐犯の仲間が鎖を持ってきていて、グルグルに縛り付けると、そのまま工場内へ連れて行く。
朝日は冷めた目でそれを見送ると太陽とは別の場所へ連れていかれる。一緒に連れていかれた、琴乃と彩の無事を確認すると安堵の表情を浮かべる。
そのまま、中へ連れてこられて、辿り着いたのは薄汚い寝具が存在する部屋。元は作業員の休憩室だったのかロッカーが奥の方に並べられている。 室内には、三脚建てられたカメラと小机の上に注射器と小瓶。
嫌な想像しかできない室内に朝日の顔が険しくなり、彩と琴乃の表情も強張る。三人はとりあえず、中心に集められ座らされる。
誘拐犯たちは三人を取り囲み、違和感のある日本語で話しかけ始める。
「痛い思いをしたく無ければ大人しくしていろ」
「抵抗しないなら気持ち良くしてやる」
「乱暴もしないからな」
いやらしい笑みを浮かべながら誘拐犯の男達はニヤついて笑っている。
「な、何が目的なんですか?」
琴乃が勇気を出したのか誘拐犯に聞いてきた。
朝日は密かに彼女の魔力の高まりを感じて、反撃の為の時間稼ぎだと感じてとりあえず見守る事にする。
魔法を使うには魔力と呼ばれる常人には不可視兼不可感の謎エネルギーを操作し、それに適切な命令を与えて魔導士の体内で加工し、そこから現実世界へ現出させないといけない。従って、魔力を感じるには魔導士か特殊な計測機を用いないと検出できないようになっている。
琴乃のやり方に慣れは感じないが、抵抗をしようとしている辺り、訓練を受けた彩の友達兼護衛なのかもしれない。
「ふっ、とりあえずお前らを痛めつけるのが、目的だな」
「恨むなら良い産まれだった友達でも恨むんだな」
「っと、その前に、っと!」
男の一人が琴乃の腹を蹴り上げた。その際に、高まっていた魔力の気配は霧散してしまう。
「がっ、げほっ、ごほっ!」
「あんま、舐めてくれんなよ。お嬢ちゃん、お前らの素性を把握して仕掛けてんだ、魔力を感じられる人員ぐらいいるわなぁ」
「反抗的だし、そいつからにするか」
「ええー、おれは赤髪からがいいんですけど」
蹴られてむせ込んでいる琴乃を朝日は近づいて気遣うが、直ぐに離されて両手を二人掛りで封じられてしまう。琴乃も同様に拘束され、汚らしい寝床に転がされる。
誘拐犯の一人が覆いかぶさり、ナイフを取り出すと制服を掴む。
「とりあえず、お友達の一人は悲惨になってもらわないとな」
「コイツも良い物持ってんなぁ」
「とりあえず、動くなよ。変な所も傷つくぞ」
低い声で警告を出した誘拐犯はナイフを使って、制服を一気に引き裂く。
「ひっ、いやっ! いやっ!」
「うるせぇぞっ! ふんっ! おらっ!」
「ぐっ、うあぁ! いやぁ、いやぁ」
制服を裂かれた琴乃は生理的嫌悪を前面に出して抵抗するが、男に上から殴られて抵抗を弱めるが、懸命に抵抗を示す。
朝日と彩も助けようとするが、中々にガッチリつかまれて抜け出せないようになっている。
すると、一発の銃声が外から響いた。
「俺が見てくるから続けろ」
誘拐犯の一人が外に出ていき、蛮行は続けられる。下着を剝ぎ取られ、誰にも見せた事もないであろう大きな双丘が外気にさらされる。琴乃は涙を流しながら身を捩るもがっしりと掴まれて抜け出せない。
脚は自由なので全力で暴れるが、男は意に介した様子はなく、押さえつけて隆起した下半身を見せつけるように、近づいていく。
と、後ろから伸びてきた白い手に頭を掴まれると、漫画の様に振り回され壁に乱雑に叩きつけられる。比喩でもなんでもなく、壁に埋められる場景を確認し、誘拐犯の拘束が緩む。
朝日はその隙に彩と琴乃を回収すると、白い手の持ち主、太陽の直ぐ傍にスッと近づく。
「遅れて、ごめんね」
太陽は室内の惨状を確認すると、ジャケットを琴乃に被せると壁際によって改めて臨戦態勢をとる。
✿ ✿ ✿
太陽はスタンガンを当てられても、気絶はしていなかった。若干、動きにくさは感じていたが、移動中でその感覚は解消されていた。
そのまま鎖で巻かれて変な部屋に放置されると、人の目が無くなった事を確認する。
「よっ」
軽い掛け声で、鎖を引きちぎる。音は遮断する様に空気の膜を魔法で生成していたので音は室外には漏れてはいない筈だ。
太陽は妹とその友人の居場所を魔力を探知する事で確認すると。真正面から扉を開ける。見張りが二人いる事は分かっていたので扉を開けると同時に黒い粒子で生成した棒を首に叩きつけて黙らせる。
銃を持っていたので、懐に頂戴すると、太陽は外へと脱出する。
暗い中で、月光が指している廃墟は二棟あって、太陽は小さいとうに入れられていたようである。大きい方に入って行くと、
「いない」
中に朝日たちの姿は見えなかった。が、見張りは居たようで数人が二階からこっちを見ていて、銃を構えて放とうとしたが後ろから殴られたように前のめりにいきなり倒れた。
その際、持ってた拳銃が暴発してしまう。
その音を聞いたのか、複数明かりのついている部屋の一室から人が出てきた。太陽は黒い粒子を使って縄の様にして出てきた奴をこちらへ引き寄せ、遠慮なく上からぶん殴り、床へ埋める。
そのまま、人が出てきた室内に飛び込み惨状を確認すると、琴乃に近づいていた馬鹿を掴んで壁に遠慮なく叩きつける。
そのまま朝日が近づいてくるのを迎えて壁際へ下がらせる。
「遅れて、ごめんね」
それだけ伝えると、戦闘態勢をとる。
「男を殺せぇ!!」
リーダー格の怒号が聞こえると、一斉に飛び出し間合いを詰めてきた。太陽は自分から近づいて、最初に辿り着くであろう誘拐犯の顔面を殴って吹き飛ばし、その勢いを殺さないように回転して蹴りを叩き込み、くの字になって仲間を巻き込む誘拐犯。
大技の隙をついて近づいてきた誘拐犯は、既に体勢を整えた太陽に顔面を掴まれ一旦空中に浮かぶ浮遊感を感じながら床に叩きつけられる。はた目から見ると、太陽が顔面を掴むと、他の誘拐犯をけん制する様につかんだ武器を振り回して叩きつけた。一瞬で五人を無力化されて、誘拐犯たちの勢いが止まる。
「は、はは、待てよ。どうだ、お前も男ならそいつらで楽しまないか? それとも気になってる女だけなら、お前と一緒に見逃してやってもいいぞ」
リーダー格が懐柔策に切り替えながら広範囲に部下を展開させて、長い獲物を持って取り囲む。
太陽は周りの状況を確認しながら、黒い粒子を全身から発生させる。
初見の人間はビビったように体を強張らせるが、油断なく状況を見据えて先ずは鉄パイプ握った二人が飛び出し、同時に殴りつける。
が、鉄パイプは鉄の壁でも殴ったかのように弾かれて、持ち主は後ろへよろけてしまう。誘拐犯たちの目には何故そうなったのかは分からなかったが、太陽の魔法だと納得してとりあえず、攻撃を続ける。
障壁を作り出す魔法は燃費の悪い魔法として知られており、長時間展開できるものではないというのが常識である。魔法に少し知っていれば有名な話であり、長時間運用すればすぐにガス欠を起こしてぶっ倒れる。
太陽は鉄パイプを振りかぶってきた誘拐犯に内側へ入り込み、その顔面を殴りつける。頭蓋が割れる感触と共に男の体を拭き飛ばし、陰から人質に取ろうとしていたもう一人に一瞬で近づいて、掌底で鳩尾を弾く。体勢を崩した誘拐犯を掴んでそのまま武器の様に振り回し、二人ほど弾き飛ばす。
誘拐犯のリーダー格の男は鮮烈な光景に唖然としてが、投げ飛ばされてきた武器が取り巻きを弾き飛ばすと、目が覚めるように状況を理解した。
残るは自分一人。相手は四肢の先が黒くなった、大の男が束になっても弾き飛ばす怪物。男は一か八か拳銃を取り出し、怪物に向けて乱射する。完全にパニックの末の行動だが、間違ってはいない。完全に勝ち目が無いなら、一か八かで最大の武器に全賭けするのも悪くはないだろう。
「は、ぁ、ああぁ? ああああああ!!」
リーダー格の目の前には、突然アメーバのように蠢く何かが、銃弾を包み込み全て防いでいた。受け止められた銃弾は跳弾する事もなく、ポロポロと下に落ちていく。
悪かったのは、相手をしているのが銃火器など意に介しもしない、化け物だという事。
太陽はリーダー格の頭を掴むと同時に、頭を掴んで床へ叩きつける。流石に床がひび割れる事はなかったが、頭を強く打ってそのまま静かになってしまう。
その後は、太陽は室内の倒れている誘拐犯全てを自分がいた部屋に閉じ込めると鎖でグルグル巻きにして安全を確保して、事態を終結させた。
✿ ✿ ✿
朝日が奪い返した端末を使って通報し、警察と救急を呼ぶ。
太陽はやりすぎを怒られたが緊急時という事で、冷静に対応する様にと小言に留まった。誘拐犯たちは全部で20人。軽傷が4人で、残りは全て重症者であった。死者がいなかったのは幸いとして処理された。
警察は朝日たちの証言から、言葉が怪しかったのも含めて、外国勢力の犯行だと仮定して捜査を進める予定らしい。
「時間がかかってしまったな」
「晩御飯はどうしましょうかね」
「他の奴らは食ってるみたいだな。薄情な奴らよ」
朝日と太陽は事情聴取が終わると、二人して警察署のエントランスへ移動する。そこには憔悴したような表情で彩と琴乃が寄り添っていた、琴乃は服の変わりがないのでとりあえず太陽のジャージを被ってもらっている。
太陽はアイコンタクトで、二人のケアを朝日に任せると、自分は駐車場へ向かう。
今の時代は自動運転が実装され、自律的に移動し目的地の駐車場へ停車するなんてことも普通に行える。その為、誰もいない車が車道を普通に走っていたりするし、道路も自動運転専用のものが作られていて、交通に支障が無いようにされている。その為、道交法や運転免許の仕様も変わっていき、義務教育終了後、保護者の許可と理由さえあれば18歳以下でも、通常よりも審査基準をあげてあるが、取得できるようになった。ちなみに太陽の弟妹達も業務上の為と理由を付けて全員が取得している。
それはさておき、太陽が駐車場に自分の車が止まっているのを確認し、運転席に座ると、運転用のマスクを付け替える。目出し帽のようになっているが、右目の周りは見えないようになっている。朝日が戻るのを待っていると朝日と彩、琴乃の三人が車に乗り込んできた。
「…………行先は、どうしますかお客様」
太陽は少し悩みながら、精一杯おどけて行き先を聞いてみた。
「ご飯が食べたいんです」
「運転手さんが奢ってくれるとの事で」
「あ、えっと、お願いします」
どうやら、太陽の金で食べ損ねた夕食を食べたい様である。誘拐されたばかりだというのに肝が据わってると言えばいいのかどうかと、太陽が迷っていると、朝日がカーナビを操作して近くのファミレスを設定する。
「じゃあ、お願いしまーす!」
「ご飯、ご飯!」
テンションの高い、朝日と彩とは対照的に縮こまっている琴乃に気を使い、何も言わずに太陽は車を走らせる。
時刻は20時、高校生はぎりぎりだが、長居しなければ十分な時間帯だろう。メニューを取ってそれぞれに注文すると、料理が到着するまで話すことにする。ちなみに、太陽と琴乃が隣同士で太陽の正面には朝日、琴乃の正面には彩が座っている。お冷等は太陽は席が決まった時点で人数分用意しに行っていた。
(何故、この席順なんだろう?)
「ま、とりあえず危機は脱したという事で、お疲れ様会ですね」
「………そういう雰囲気か?」
「こういうのは、ノリと勢いでやっておかないと冷静になって色々怖くなってしまうものなんです」
「そうそう、悪い事はその日の内に、晴らしておくべしだよ」
「わ、私もパーッとやるべきだと思います!」
「そういうもの、か?」
異性の考え方は分からん、という感じで疑問符を頭に浮かべながら、パーッとやる事にする。と言っても、流行やコスメの話が主流になったので、太陽は適当に相槌を打ちつつ、偶に琴乃に聞いてみたりする。
そんな感じで時間を潰すと、店員が料理を運んでくる。
運ばれた料理をシェアしたり、感想を言い合いながら綺麗な所作で料理を片付ける。
太陽はいつものマスクをつけたまま、どうやってか問題なく食事をしている。彩と琴乃の二人は不思議そうな表情をしたが、次第に気にすることは無くなった。
「会計していくから、車に入っててそっちの住所を入れててくれ」
「「はーい」」「分かりました」
三人は太陽に渡されたカギを持って、車に向かい。太陽は手早く会計を済ませると、駐車場に止まっている自分の車の運転席へ入る。
「ここか?」
「うん、お願い。琴乃と一緒に住んでるから」
「…? そうか、じゃあ、出すぞ」
そこからまた数十分、車を走らせて、高級住宅街に建っている豪邸の前に着く。二人を下ろそうと鉄門の前に車を止めたが、見ているかのように隔てていた門が開く。
彩の方を確認すると、頷くので、伝達済みかと感じた太陽は位置を調整して入門する。広いロータリーを走らせて、気品のあるお仕着せを来た年上の女性が立つ屋敷の前に車を止める。何となく琴乃に似ている気がする、と太陽はチラッと見て思った。
とりあえず、運転席から降り、後部座席のドアを開けて二人をエスコートして降ろす。
「月隠太陽様、朝日様。お嬢様達をお守りくださりありがとうございます。また、この度は当方に向けられた組織犯罪に巻き込んでしまい大変申し訳ありませんでした」
「いえ、お気になさらず。琴乃さんの方が深く傷ついていそうですので、よろしくお願いいたします。私達は家族が待っていますのでこれで、では」
太陽は色々聞かれる前に簡潔に状況を説明し、足早に車に戻って車を走らせる。
「じゃあ、学校でねぇ~」
「うん、また明日」
「今日はありがとうございました」
太陽はそこから高級住宅街から自分の自宅を目指す。
「そういえば、ジャージとか預けたままだったな」
「明日で、イイのでは?」
明日が平和である事を願いつつ、太陽は帰路に就くのだった。




