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06

「カタリーナ様。あちらから行きましょう」

講堂へ向かっていたカタリーナを、一緒に歩いていた級友がそう言って目的地とは別の方向へと促した。


「どうしたの?」

「さあ、こちらへ」

もう一人が背中に手を添えて誘導する。

何かを隠すような不自然な彼女たちの行動に、カタリーナはちらとその隠された先へ視線を送った。

(……ああ)

視界の端に入ったのは、中庭のベンチに並んで座っている婚約者のハインツと女生徒。


最近、殿下がとある女生徒と親しくしているという噂が学園内に広まっていた。

級友たちはその噂や、今のように実際の現場から遠ざけようとしてくれるのだけれど———噂はしっかりカタリーナの耳にまで届いていた。


正直、どうでもいい。

お相手が性格が悪い人だったり、悪意を持って殿下に近づいていたら困るけれど。

殿下に相応しい相手だったら、むしろ王子妃の地位ごと引き取って頂きたい。



「……姉上って。本当に殿下に興味がないよね」

夕食後、父と弟の家族三人でお茶を飲みながらそんな話をしていると、フリードリヒがため息をついた。

「そうね」

「即答なのか……」

父親までため息をつく。

「殿下は見目も性格もいいし優秀だよね。婚約者として近くにいて少しは惹かれたりしないの?」

「そうねえ……」

弟の問いにカタリーナは婚約してからこの三年間のハインツとの交流を思い出した。


「しないわね」

「どうして?」

「どうしてって……ああいう線が細い人は好みじゃないの、突いたら倒れてしまいそうで」

父と弟は顔を見合わせた。


「……でも殿下は剣が強いだろう」

「あんな剣の振り方、踊っているようにしか見えないわ」

ハインツの剣の訓練を見に行ったことがある。

確かに上手いし強かったけれど……あの身のこなし方は優雅過ぎて実用的ではなかったのだ。

「人間相手ならあの型でもいいのでしょうけれど、魔獣には効かないわ」


「……ああ……」

父親は頭を抱え込んでしまった。

「我が家の教育方針が裏目に出たか……」

「確かにギルドに出入りしている連中を見慣れてしまうと、王侯貴族はひ弱に見えるけど……」

カタリーナはハインツの婚約者となる前からギルドに通い、魔獣退治にも参加していた。

時に怪我をしたり返り血を浴びながらも戦う冒険者を見慣れてしまうと、ハインツはお人形のように思えてしまうのだ。


「カタリーナ」

父親がカタリーナを見た。

「確かに殿下はお前の好みではないかもしれないが。それでも将来結婚するのだ、好きになるよう努力しなさい」

「……努力ですか」

「お前がそんな態度だから殿下も他の者と親しくしているのではないのか?」

「———それは殿下も私との婚約解消を望んでいると?」


「そういうことではない」

はあ、と父親はため息をついた。

「確かに殿下も、婚約者がいながら他の女性と親しくするというのは問題だ。だが婚約者のお前が全く興味を示していないのでは他の者に目移りしたくもなるだろう。今回のことはお前にも責任がある。分かるか?」


「……はい」

しばらく考えて、カタリーナは頷いた。

「確かにお前はお妃教育はよくやっている。だがそれと同じくらい、殿下との信頼や関係を深める努力もすべきではなかったのかな」


———父親の言う通りだ。

確かにカタリーナは……この婚約は義務だと受け入れていたつもりで――けれどどこかで拒否していたのだ。

だからハインツと最低限の関わりしか持とうとしなかった。

「そんなお前に何も言わなかった私にも責任はあるが。これからはちゃんと殿下と向き合いなさい」

「……はい」

父親の言葉にカタリーナはもう一度頷いた。

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