07
「何……?」
それは強いけれどどこか懐かしい、暖かい光だった。
包まれると身体の痛みが消えていく感覚ととともに、魔力が戻ってくるのをビアンカは感じた。
「揺れが……収まったのか?」
ダンが起き上がった。
「大丈夫かビアンカ」
「ええ……」
「一体何が起きたんだ」
立ち上がると、ダンは壁際へと歩み寄った。
丸い小窓から外を見る。
「あれは……」
「どうしたの?」
「黒くて大きい……魚か?」
床に散らばった荷物を避けながらビアンカも窓へと歩み寄った。
波は穏やかだった。
青い海がゆったりと波打つ、その中に黒くて巨大な背ビレのようなものが見えた。
魚にしては大きすぎる、その黒いものがふいに浮き上がる。
真っ黒に輝く鱗を持つ金色の瞳がビアンカを見た。
再び光が室内を満たした。
「なんだ、男連れか」
光が消えると共に声が聞こえた。
「……イクテュス様?」
少年姿のイクテュスがベッドの上に座っていた。
「どうして……」
ビアンカはハッとして目を見開いた。
「いまの黒い魚……まさか力が戻ったのですか?!」
「ああ」
「加護を与えられたのは誰ですか?!」
ビアンカはベッドへと駆け寄った。
「マリウス兄様ですか? それともデニス兄様?」
「いいや」
「それじゃあ……」
「おまえの父親だ」
ビアンカを見上げてイクテュスは言った。
「……お父様?」
「後継選びなどしていたら娘は助からないと言ったら、じゃあ自分が加護を受けると」
「……私のために?」
「まあ、僕的には父親でも息子でもどちらでも構わなかったからな」
イクテュスはベッドから飛び降りた。
「やっぱり力が自由に使えるのはいいな、海にも帰れるし」
「……お父様が……私のために?」
「父親なんだから。心配はするだろう」
呟くビアンカにダンが言った。
「でも……私はいらない子だし……」
「いらなくはないだろう」
「だって……私のことなんか……どうでもいいと……」
「人間の機微は分からないが。お前たち親子はもっと互いを理解すべきだと思うぞ」
そう言ってイクテュスは窓の外を示した。
「もうすぐ港だ。その親も迎えにきている」
「港?」
「モンテール港に戻るのですか」
「この船はもう自走はできない。僕に船は直せないが波に乗せて船を運ぶことならできるからな」
二人を見上げてそう答えると、イクテュスの身体が光り、あっという間にその姿を消した。




