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08

「こんな所に住んでいるのか……」

ディアナに案内された、粗末な小屋を見てハインツは絶句した。

嵐が来ればすぐ壊れてしまいそうな小さな家は、とても王女が住むようなものではなかった。


「……他の人と関わらないようにしていましたので」

ディアナは見たことがないが、王子と顔がよく似ていると言うことは父親であるという国王にも似ているのだろう。

王の顔を知る者が見ればディアナが王家の血を引いていると分かってしまうかもしれない。

それを恐れて母親はこんな所に住んでいたのだろうし、自分が死んだ後は修道院へ行くよう言ったのだろう。

「申し訳ない。もっと早く見つける事ができれば……」

「いえ」

母親は自分たちの存在を知られないよう逃げ出したのだ。

小さく首を振るとディアナは家の扉を開いた。



「この部屋です」

扉を開けかけた隙間からリーコスがするりと入り込んだ。

「ドラコーン」

リーコスの声にベッドの上の男がゆっくりと頭を動かすと、聖狼の姿を捉えた瞳がわずかに見開かれた。


「久しぶりだな」

ベッドの側まで来ると、リーコスは鼻先を寄せて男の顔や身体の匂いを嗅いだ。

少し眉をひそめながらも男は無言のままだった。

「声が出せぬのか」

リーコスの言葉に男は小さく頷いた。


「聖竜は声に力を乗せて大地に行き渡らせるからな。力を失ったせいで声も失ったのだろう」

「聖竜……?」

「——あの男性はこの地を守る聖獣だそうです」

ヨハンの言葉にディアナは目を見開いた。

……人間らしくはないとは思っていたけれど……まさかそんな存在だったとは。


この国を護る聖獣という存在がいる事は知っていた。

けれどそれはずっと昔の、神話のようなものだと思っていた。

すると……この目の前の、人語を話す金色の狼も聖獣なのだろうか。

確か聖獣は四体で、狼と鳥、魚、そして竜だったとディアナは幼い頃母親に聞いた話を思い出した。


「ドラコーン殿の力は取り戻せるのか?」

ハインツはリーコスに尋ねた。

リーコスやプティノは血が繋がった人間の力でその力を取り戻したが、ドラコーンの血は途絶えている。

「プティノに聞いてみよう」

金色の瞳が光を帯びた。

しばらくして光が消えると、リーコスは背後へ振り返った。

「カタリーナ。ドラコーンの血を使って薬を作れるか」

「え?」

「その血を継ぐ人間の力で作った薬が効くのなら、直接ドラコーンの血から薬を作ってみろと言っている」

「ええと……薬を作る事ならできると思うけれど……」

「とりあえず作れ。ドラコーン、血を貰うぞ」

リーコスがドラコーンの指に向かって口を開こうとするのを見て、カタリーナは慌ててバッグの中から乾燥させた薬草を取り出した。


鋭い牙が指先に噛み付くと、白い指がピクリと震えた。

牙が離れた場所から赤い血が滲み出るのを、止血するように薬草で抑える。

血を吸った薬草を両手で包み込むと、カタリーナは集中して魔力を注ぎ込んだ。


「一応できたけれど……」

手のひらに現れた真っ青な玉を見つめてカタリーナは言った。

「これで大丈夫かしら」

「飲ませてみれば分かるだろう。口に放り込め」

「悪化したりはしない?」

「元々そいつの血から作ったものだ、問題ないだろう」

カタリーナは恐る恐る薬玉をドラコーンの口元へ近づけた。

開いた口の中に入れると、苦いのか一瞬眉をひそめて――次の瞬間、ドラコーンの身体が一瞬青く光った。


「どうだ、少しは良くなったか」

自分の身体を探るように、しばらくじっとしていたドラコーンは、やがて首を横に振った。

「薬に変えたとはいえカタリーナの魔力ではだめか」

そう言うとリーコスの瞳が再び光を帯びた。



「――しばらく待て、だそうだ」

瞳から光が消えたリーコスが言った。

「しばらくとは?」

「プティノが聞きに行くそうだ」

「どこへ?」

「我らが元いた場所、天だ。我らを地上に遣わした主に会いに行くと言っている」


「天へ?」

「そのようなことができるのですか」

「プティノは天と地を繋ぎ主の声を人間に届ける役目を負っているからな」

「そうなのですか……」

「ともかく待つしかなさそうだな」


「あ、あの」

やり取りを見守っていたディアナは口を開いた。

「何が……あったのですか」

力を失ったという聖竜、そしてそれを探しにきた聖狼と王子。

信じられないが、そこまでは理解した。けれど……一体何が起きているのだろう。


「ああ。説明しないと分からないですね」

ヨハンが眉を下げた。

「待つ間にお話しいたしましょう」


ヨハンはこれまでの経緯をディアナに説明した。

それが終わると、ハインツに問われるままディアナはこれまでの自分のことを語った。

「事情は分かったが……それにしてもこんな場所に」

ハインツは改めて部屋を見渡し、姉を見つめた。

痩せたその身体は明らかに栄養が足りていない。

この枯れた土地では食糧もまともにないのだろう。

――存在を知らなかったとはいえ、自分の姉がこんな状況になっていたとは。


「そうだ、待つ間食事にしましょう」

カタリーナはバッグから包みを取り出した。

「薬草入りの乾燥パンです。そのままでも食べられますが蒸すと柔らかくなります。ディアナ様、台所に案内していただけますか」

「……あ、はい」

ディアナを促してカタリーナは台所へと向かった。


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