05
「これは……ひどいですね」
目の前に広がる草原を見つめてヨハンはため息をついた。
「三年前に任務で来た時はもっと緑も濃く美しかったのですが……」
目の前に広がるのは枯れて色褪せた草々だった。
良く見渡せばところどころに緑があるのが見えるが、全て枯れるのに時間はそう掛からないだろう。
「こんなに悪化していたとは」
「——先日の報告を読む限り、こんな状況とは思わなかったが?」
ハインツは背後の男を振り返った。
「は……悪化する速度が速いのです」
男は目を伏せた。
「王宮への報告後も広がる速度がさらに速まり……気がつけばこのような事に」
そう言うと、男は深く頭を下げた。
「申し訳ございません」
「……そなたのせいではない、ウィバリー侯爵」
ハインツはそう答えた。
ウィバリー侯爵は先代の遠縁で、子供のいなかった侯爵家の跡を継ぐため養子に入った。
普通の貴族ならば珍しい事ではないし、問題もないが。
ウィバリー家は聖獣の血を継ぐ家なのだ。
聖獣の血を継ぐ人間が絶えてしまうとその聖獣も力を失ってしまう。
力を失った聖竜が守っていた草原も枯れてしまうのは道理だった。
——それを分かっていれば食い止める事もできたのだろうが。
その事実は当の聖獣ですら知らなかったのだ、誰も責められるものでない。
「さて。聖竜ドラコーンを探さないとならないのですが」
案内をしてくれたウィバリー侯爵と別れ、ヨハンはリーコスを見た。
「リーコス殿は居場所をご存知ですか」
「あれは特定の住処を定めず風に乗って移動するからな。それでも気配は感じるものだが……全く感じぬということはプティノのように動けずにいるのだろう」
そう答えてリーコスは視線を巡らせた。
「——身を隠すとしたらあの森のような場所だな」
視線の先には貴重な樹木が生い茂っているのが見えた。
「ではあそこまで行ってみましょう」
「その前に草原の様子を一回りして見てくる」
リーコスの身体が光を帯びると、次の瞬間狼の姿になった。
「お前達は先に行っていろ。カタリーナ、万一の時は私を呼べ」
長い尾を振るとリーコスは駆け出しあっという間にその姿が見えなくなった。
「速いですね……さすが聖獣」
リーコスを見送って、感心したようにヨハンが言った。
「しかし、勝手にひとりで行くとは随分勝手だな」
「聖獣ですから、人間とは感覚が違うのでしょう」
ため息をついたハインツをなだめるようにカタリーナはそう答えた。
リーコスはかなり気ままだ。
カタリーナが屋敷や学園にいるときは自由に過ごしているらしい。
主に彼の棲む、領地の森にいるようだが、加護を授けたカタリーナのいる場所ヘは転送魔法と似た力ですぐに移動できるのだという。
「とりあえず私達は森へ向かいましょうか」
ヨハンの声を合図に、三人は森へ向かって歩き出した。




