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04

「また食べていないの……」

手をつけた形跡のない皿を前に、ディアナはため息をついた。

「せっかくいい木苺が手に入ったのに」

食糧を探しに行った森の中で、運良く見つけたものだった。

未だ他の動物にも手をつけられた形跡のない、新鮮な木苺。

これなら食べてくれるだろうと採ってきたのに。


「ちゃんと食べないと……死んじゃうわよ」

ここ五日ほど、青髪の男は一口も食べていなかった。

その間手に入る食糧は木の実やキノコといった加熱しないと食べられないものばかりで、そういったものは好きでないということが分かってきた。

だから生で食べられる木苺ならば食べるかと思っていたのだけれど。


いつもベッドに横たわっている男だが、今日は調子がいいのか珍しく上体を起こしている。

そのベッドの側へ行くと、ディアナは木苺の乗った皿を手に取った。

「ほら……食べて」

一粒手に取り、男の口元へと運ぼうとすると男はふいと顔を背けた。

「――お願いだから、本当に……」

もう一度食べさせようとしたディアナの手首を白い手が掴んだ。


思いの外力強い、ひんやりとした感覚。

「え……」

男の視線がじっと手首に注がれるのを見て、ディアナも視線を落とした。

(……みすぼらしい)

骨と皮ばかりのような自分の手首をまともに見るのは初めてかもしれない。


この数年の食糧不足、そして母親の死もあり、ディアナ自身満足に食べられたことはほとんどなかった。

そのせいだろう、前に比べて明らかに肉付きもなくなり肌も不健康そうな色に見える。


男は視線を手首から皿、そしてディアナの顔へと移した。

不思議な色彩の、金色の瞳がじっとディアナを見つめる。

「……私に食べろと言いたいの?」

ディアナの言葉に男は小さく頷いた。

「でも、私よりもあなたの方が」

弱く首を振ると男は掴んだ手首をディアナへと押し返した。


「……」

木苺を口に含む。

噛み締めると甘酸っぱい味が口の中に広がった。

森の恵みが力となり、身体中に巡っていくように感じる。

「美味しい……」

こんなに美味しい木苺はずいぶんと久しぶりだ。

――いや、母親が死んでから食事を美味しいと感じたことは、一度もなかったかもしれない。


「とっても美味しいから、あなたも食べて」

そう言うと男は首を横に振った。

頑なな男にため息をついて、ディアナはいくつか木苺を口に運んだ。


ディアナが木苺を食べるのを男はじっと見つめていた。

「一粒くらい食べて」

そんな男の目の前にディアナは木苺を差し出した。

「とても美味しいの。……二人で食べれば、きっともっと美味しく感じるから」

ディアナの言葉に男はぴくりと反応した。

口元へと木苺を運ぶと、ゆっくりと口が開く。

その中へディアナは木苺を押し込むように入れると、自分ももう一つ木苺を食べる。

――本当に、さっきよりも美味しく感じる。


「ね、美味しいでしょう」

ゆっくりと木苺を噛んでいた男は飲み込んで、小さく頷いた。

それからディアナを見ると、ふとその表情を緩めた。


初めて見る男の笑顔に、ディアナの心臓がドクンと鳴った。

「……もう一つ食べる?」

木苺を差し出すと、小さく頷いたのでそのまま口元へと運ぶ。


そうやってディアナと男は皿が空になるまで一緒に木苺を食べ続けた。


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