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02

「まあ、カタリーナ様」

カタリーナが教室へ入ると級友たちが集まってきた。


「おはようございます」

「お久しぶりです」

「殿下とご一緒に地方へ視察に行かれていたとか」

「ええ」

「もうご公務をなさるのですね」

「お妃教育も一通り終わったので、これからは実務をすることになりましたの」

口々に話しかける彼女たちに、カタリーナは笑顔で答えた。


「近いうちにまた別の視察へ行くのでしばらくお休みいたしますわ」

「まあ……大変ですわね」

「でもカタリーナ様は学園の勉強はもう終わっているようなものですものね」

お妃教育には、学園で学ぶ以上のものが必要とされる。

そのためカタリーナは既に卒業できるだけの知識を学び身につけていた。


フリューア領から戻り三日が経った。

次の東部にあるウィバリー領へ早く行きたかったのだが、領主への連絡やハインツの公務の調整などがあるため、それまではいつも通りの生活を送ることとなり、学園に登園することにしたのだ。


「そうだカタリーナ様、午後の剣技大会は見学なされますか」

一人の級友が言った。

「ええ。フリードリヒが出ていますから」

「フリードリヒ様は凄いですわ、これまで全ての試合圧勝でしたもの」

「カタリーナ様もご覧になりたかったのでは?」

「そうですわね」

この数日に渡り、学園では放課後剣技大会が開かれているのだという。

今日が準決勝と決勝で、勝ち残っているのだと朝、馬車の中でフリードリヒが言っていた。



「カタリーナ」

放課後、友人たちと闘技場へ向かっていると声をかけられた。

「殿下」

「君も大会の見学か?」

「ええ、弟の応援に」

「フリードリヒは相当強いらしいな」

ハインツはカタリーナの側へやってくると、手を差し出した。

「一緒に行こう」

「……はい」

カタリーナが手を載せると周囲からキャアという声が聞こえた。


「本当にお二人は仲が良いですわね」

「何てお似合いなのでしょう」

(仲が良くなったのは最近だけどね)

少し前にハインツが他の女生徒と親しくなったように見せていたことやその後のゴタゴタは、もう過去のこととして忘れられているらしい。

聞こえてくる声にそう思いながらハインツを見ると、同じことを思ったのかカタリーナと視線を合わせてハインツは小さく苦笑した。


闘技場へ着くと教師から観客席の中央、貴賓席へと案内された。

中央には既にフリードリヒと対戦相手が立っている。

ハインツたちが着席するとそれを合図にしたように試合が始まった。


試合はあっという間に決着がついた。

相手に比べてフリードリヒのスピードははるかに早い。

時に毒を吐くような魔物相手に戦うにはとにかく先手が大事なのだ。

審判がフリードリヒの勝利を告げると観客席から悲鳴のような歓声が聞こえた。


「これは強いな」

感心しながらハインツが言った。

「騎士の剣とは異なるが……フリードリヒは剣士としてギルドで活動しているのか?」

「魔法と剣の両方です。一つの能力に特化するよりも、多くの能力を身につけるのがアルムスター家の方針なので」

「……カタリーナも剣を扱うのか?」

「いえ、私が学んだのは護身用の短剣のみです」

カタリーナは首を振って答えた。

「手が硬くなるからと、長剣は持たされませんでした」


「ああ、そうだな」

ハインツはカタリーナの手を取った。

「せっかくの綺麗な手が勿体ない」

見つめながらそう言われて、カタリーナはドキリとした。

(何だろう、恥ずかしい……?)

これまでハインツに対してそういう感情を抱いたことはなかったのに。

間近で見つめられて、何故か顔に血が集まるのをカタリーナは感じた。



決勝の対戦相手は父親や兄が近衛騎士で、自身も卒業後は騎士団への入団が決まっているという二年生だ。

「彼とは何度か手合わせしているが、既に騎士並の力がある」

ハインツが言った。

「フリードリヒは騎士相手に戦ったことは?」

「どうでしょう。家で父とはよく手合わせをしていますが」

「ああ、アルムスター侯爵もかなりの腕前らしいな。侯爵でなければ近衛騎士にしたかったと父上が言っていた」

「そうなのですか」

それは初耳だった。

だが父といい、弟といい、その剣技は型や見栄えを意識する近衛騎士のそれとは異なるものだ。

(フリードリヒは戦いにくいかもしれない)

そう思いながらカタリーナは闘技場へと視線を送った。


ハインツの言った通り、決勝は互いに譲らず接戦だった。

おそらくそれまでの試合でのフリードリヒの動きを見て学んだのであろう、対戦相手もスピードで攻めることにしたらしく、周囲の観客はその速さについていかれないようだった。

普段フリードリヒは魔物相手に、魔法と剣技を組み合わせた戦いをしている。

だが今日は剣技大会のため魔法は全て禁止だ。

そのため手こずっていたようだが、それでも最後は一瞬の隙をついたフリードリヒが相手の剣を落として勝利した。



「姉上!」

優勝の勲章を受け取ったフリードリヒを祝おうとカタリーナたちが下へ降りていくと、気づいたフリードリヒが駆け寄ってきた。

「優勝おめでとう」

「いい試合だった。今度手合わせしてみたいな」

「ありがとうございます。是非」

ハインツの言葉にフリードリヒは笑顔で答えた。


「ではカタリーナ、我々は行こうか。フリードリヒに祝いの言葉を伝えたい者が多くいるようだからな」

見ると大勢の女生徒たちがこちらの様子を伺っていた。

「え、僕は……」

「フリードリヒ、カタリーナは今日はこの後私と共に王宮へ行くからゆっくり帰るといい」

ハインツに促されてカタリーナが離れた途端、フリードリヒは女生徒の集団に囲まれていった。

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