表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/45

08

フリューアの屋敷へ戻ったのは、すっかり日も暮れた時間だった。


「ルドルフ様どちらへ……っ」

出迎えた執事がルドルフの姿を見て息を飲み――さらにその肩に止まる鳥を認めてその目を大きく見開いた。


「……まさか、ルドルフ様……」

「父上に、話があると伝えてもらえる? 応接室に行くから」

「はっ」

執事は身を翻すと慌てて去っていった。


「……彼はルドルフの身に何が起きたのか、すぐ分かったようだな」

その背中を見送ってハインツが言った。

「あの執事はフリューアの分家筋で……僕に聖獣のことを教えてくれた一人です」

「——聖獣の加護を受けられるのはその血を引く一族とのことですが、分家も入るのですか?」

ヨハンはプティノを見た。


「いや。我らの血は直系の子のみに伝わる。分家となったり外に出た者はその一代限りで失われる」

「……つまりカタリーナ様の子供も?」

「私の加護は受けられないな」

リーコスが答えた。


「加護を受けられる血が多いほど争いの種になる、それが人の性だ。それを見越して我らの主が制限をかけたのだ」

「だがその制限のせいでドラコーンの血は絶えてしまった」

ふ、とプティノは小さく息を吐いた。


「解決方法はないのですか」

「新たな番を選び子を成せば良いのだが。あれは気難しいからの……」

「番が決まったのはあいつが一番最後だったな」

「ひと恋しがるくせに選り好みが激しい。面倒臭いやつなのじゃ」

はあ、と聖獣ふたりが同時にため息をつく。

その人間臭い表情と言葉に思わずカタリーナの口元が緩んだ。


聖獣というものは、ずっと神聖で特別な存在だと思っていた。

けれどリーコスもプティノも、その仕草といい人間とそう変わりない。

特に人間の姿の時のリーコスは顔に現れる感情も人間そのもので、力は戻ったはずなのに未だに薬草入りのパンを欲しがり、美味しそうにそれを食べる。

———幼い頃に読んだ絵本には、昔聖獣は人間と近い存在であったと、子供たちに囲まれて昼寝をする聖狼の絵と共に書かれてあったが。

あれは本当のことだったのだろう。


通された応接室でそんなことを考えていると、外からバタバタと忙しない足音が聞こえた。




「ルドルフ……っ」

部屋に飛び込んできたフリューア伯爵は、ルドルフの姿を見て目を見張った。


「お前……その髪……まさか本当に……」

「フリューアの当主よ」

ルドルフの肩に乗っていたプティノが羽根を広げて飛び上がった。

見るまにその姿は大きくなり、伯爵の前へと舞い降りた。


「見ての通りだ。ルドルフは我の加護を受け我が子となった。この意味が分かるであろう」

「——は……聖鳥……プティノ様……」

伯爵は膝をつくとプティノに向かって深く頭を下げた。


「我が子?」

「加護を受けた者は実の親よりも聖獣と血の結びつきが深くなる。だから聖獣の子となるのだ」

思わず呟いたカタリーナにリーコスが答えた。


「……それはつまり……リーコスは……」

「お前の父親だな」

「……まだ兄の方が……」

どう見ても二十代にしか見えないリーコスにそう言われてカタリーナの顔が思わず引きつる。

「父親……そうか」

その隣でどこかほっとしたような顔でハインツが小さく呟いた。


「まさか……このような事が起こるとは……」

頭を下げたまま、伯爵は声を震わせた。

「もう何代も加護を得られず……私も魔力がなく……お姿を見ることすらないと……まさか息子が……」

身体を震わせながら語る父親を、ルドルフは驚いたように見つめていた。

カタリーナ達も昨夜の聖獣に対して無関心なようにも見えた伯爵の、今の態度に驚いた。

——伯爵に流れるフリューアの血が、プティノを前にして彼を目覚めさせたのだろうか。



「何事ですの、この騒ぎは」

夫人と二人の子供が入っていた。

目の前の光景に夫人は訝しげに眉を顰めた。

「あなた……?」

「——見ての通りだ。ルドルフが聖鳥の加護を得た」

すく、と伯爵は立ち上がり一同を見回した。

「決めた。ルドルフが十六になったら家督を譲り、当主とする」


「え」

父親の言葉にルドルフは目を見張った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ