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07

聖獣たちは元々天に棲んでいた。

天には人間が神と崇める存在があり、聖獣は神と人間の言葉を繋ぐ役目を担っていたのだ。


ある時から人の世界が荒れ始めた。

度重なる異常気象による不作で大陸全域が食糧不足となり、貴重な食糧をめぐり国々の間に戦争が起こり、土地はますます荒れていく。


このままでは大陸が枯れてしまう。

危惧した神は、特に信仰の厚かったマイスナーの地に四体の聖獣を遣わした。

聖獣たちは人の番を選び、その間に子を成す事で聖獣の力を人間に与えた。

そうして特別な力を得たマイスナー領は周囲を平定しながら領地を広げ、やがて国となり平和を手に入れたのだ。


戦争が終わった後も、再び異常気象が起きないよう聖獣たちは人の世界に棲み、大地に恵みを与え続けた。

しばらくは子孫に加護を与えていたが、特別な力を持つ加護持ちを巡る争いが起きるようになり、人間と距離を取るようになっていった。


そうして数百年——聖獣たちはそれぞれの地で穏やかに過ごしてきたのだ。


「それで……五年ほど前に聖竜ドラコーンの血が絶えたのですね」

プティノの話が一区切り終わると、ヨハンが口を開いた。

「それと、今回のおふたりが力を失った件と関係があるのですか」


「我らは長くこの地に棲むうちに、人との結びつきが強くなっていたようだ」

プティノが答えた。

「人の世界で生きていくには、我らにも人の血と力が必要だったようだ。思えばドラコーンの血が絶えた頃から少しずつ、我の力は弱くなっていたやもしれぬ」

そう言ってリーコスを見ると、同意するように頷いた。


「確かに、あの頃から眠る時間が増えていったな」

「我らの大地を守る力はそこに存在するだけで発揮される。長く平和が続いていたからな、力が減っても気づきにくい」

「……ですが、血が絶えたのは聖竜だけですよね。何故おふたりの力まで弱まるのです?」

「この大地は我ら四体で守っている。その内の一体が欠けたことで均衡が崩れ我らの力にも影響が出たのだろう」


「ということは……聖竜ドラコーンの状態を確認しないとならないな」

ハインツが言った。

「このままでは大地が荒れ……国が衰えてしまうということなのだろう」

「そうだな。古のように天災が増え、魔獣も増えるだろう」

「この国は元は豊かな土地ではない。あの頃の土地に戻れば生きていけず死ぬ者も増え、また他国と争いも起きるだろうな」


「そんな……」

聖獣たちの言葉にカタリーナは顔を青ざめさせた。

自然豊かな美しいこのマイスナー王国にそんな未来が来る可能性があるとは……想像することすら恐ろしかった。

「そうならない為にも聖竜の元へ向かおう」

震えるカタリーナの肩を抱いてハインツは言った。

「……はい」

こくりとカタリーナは頷いた。



「では一度王都へ戻り、今回の件を報告してから……」

言いかけてヨハンはルドルフに向いた。

「ルドルフ。あなたも王都へ行きますか」

「僕?」

「文献によると加護を受けた者は国王と司祭長に謁見し、国への忠誠を誓ったとあります」


「忠誠を誓う……?」

「加護持ちの力は非常に大きいものですから。国の脅威とならないと誓うことで身の安全を守ることにもなるのです」

「忠誠って……私そんなことしていないけれど……」

思わずカタリーナは呟いた。


「カタリーナは私と婚約した時に誓約したからな、繰り返す必要がないのだろう」

ハインツが言った。

「ああ……そうでしたわね」

言われてみればハインツと婚約した時にサインした書類の中に、そんな文言が入っていたとカタリーナは思い出した。


「それに、あなたはご家族と、あまり上手くいっていないようですね」

ヨハンの言葉にルドルフは顔を曇らせた。

「過去、加護を受けたことで身内と問題が起きたことは何度もあったそうです。必要であれば教会の方で保護いたしますから」

「はい……ありがとうございます」

頭を下げると、ルドルフはばっと顔を上げた。

「でもまずは、父上と一度向き合います」

その瞳に強い意志を宿してルドルフは言った。



「分かりました。ではフリューア家に向かいましょうか」

「我も行こう」

プティノはバサリと羽根を広げた。

羽ばたき、飛び上がるとその身体が小さくなり、ルドルフの肩に乗った。

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