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06

「すごい……元に戻った」

ルドルフは顔を輝かせてカタリーナを見た。

「ありがとうございます!」

「まだ喜ぶな。プティノ、力はどうだ」

ルドルフを一瞥してリーコスはプティノを見た。


「ふむ……以前通りとはいかぬな」

バサバサと羽根を動かしながらプティノは答えた。

「身体が重い」

「じゃあもう一度薬を……」

「——いや、これ以上飲んでも変わらぬだろう」

「プティノ。このフリューアの子に加護を与えてみてくれ」

一同は一斉にリーコスを見た。


「加護を?」

「私も姿は元に戻ったが力は戻りきらなかった。だがカタリーナに加護を与えると以前の力に戻ったのだ」

「……ふむ」

思案するように首を傾げて、プティノはルドルフを見た。


「加護……聖鳥の……僕に?」

ルドルフは目を見張った。

「でも……僕が加護なんて……」

「プティノの加護を受けられるのはお前だけだ」

そういうとリーコスはプティノを見た。


「ふむ……そうか……そうかもしれぬ」

何か会話を交わしたのだろう。

プティノは小さく頷いた。


「ルドルフ。受けてくれるか」

「……でも僕は……跡継ぎじゃない……」

「加護を受けられるのは跡継ぎかどうかではない。フリューアの血を引いていて魔力がある者だ」

リーコスはルドルフを見据えた。

「条件に当てはまるのはお前だけだ。あの父親は魔力がないからな」


「え……でも……兄上も魔法を使えて……」

言いかけて、何かに気づいたようにルドルフは目を見開いた。

「まさか……」

リーコスの言葉の意味する事に気づいて、カタリーナは昨日会った領主家族の顔を思いだした。

子供二人は母親そっくりの顔をしていたため、そこに父親の要素がない事に気付かなかったけれど……。


「……よく分かりましたねリーコス殿」

「聖獣は血の繋がりが見えるからな」

ヨハンの言葉にそう答えてリーコスは改めてルドルフを見た。

「誰を跡継ぎにするかは人間の都合だが、フリューアの血を継ぐものはお前だけだ」


「ルドルフ。指を出せ」

プティノの言葉に、少し迷い……意を決したように表情を変えるとルドルフはプティノの目の前に手を差し出した。

「痛むが我慢しろ」

鋭い嘴がルドルフの指先を噛む。

「っ……」

ルドルフの指先から強い光が溢れた。


「次は我の血を舐めるんだ」

そう言ってプティノは首を回すと嘴を羽根の中へと埋めた。

抜き出した嘴の先に着いた赤いものを、ルドルフは躊躇いながらも自分の指につけ、口へ運ぶ。

先刻よりも強い光がルドルフを包み込んだ。


「……う……」

光の中で人影が揺らめいた。


「……これは」

「髪が……」

ふらつきながら、消えた光の中から現れたルドルフにカタリーナ達は息を呑んだ。

栗毛だった髪色が真っ赤に変化していたのだ。


「我の力が宿ったのだ。赤い髪の者は加護を受けた証だ」

不思議そうに自分の髪をつまんで見るルドルフに目を細めると、プティノは翼を大きく広げた。


「ふむ。確かに力が戻ったな……羽根の先まで満ちている」

「——加護で髪色が変わるのか?」

ハインツはカタリーナを見た。

「カタリーナは変わっていないように見えるが……」

「私の場合は金色になるからな、元々金髪だから分からないだろうが、聖獣から見ればすぐ分かる」

「……聖獣ごとに色が違うの?」

「ああ。ドラコーンは青でイクテュスが黒だな」

カタリーナの問いにリーコスはそう答えた。


「そうなのね」

髪色が変わったら加護を受けたと分かってしまうのか。

——同じ色で良かった、カタリーナはつくづく思った。


「じゃあプティノはもうすっかり元通りなんだよね」

ルドルフが笑顔でプティノを見た。

「ああ、そうだな」

「良かった……」

「———加護を受けた者も増え、確かに喜ばしい事ですが」

ヨハンが口を開いた。

「どうしておふたりの力が失われたのかは分からないのでしょうか」


「ふむ。おそらくだが」

プティノが口を開いた。

「ウィバリー家の血が絶えたせいであろう」


「ウィバリー家?」

「ドラコーンの加護を継ぐ一族だ。最後の一人が死んだのは……五年ほど前だったかの」

プティノはリーコスを見た。

「それくらいだな。あれの鳴き声が何日も続いていた」


「ウィバリー……侯爵家か。だが今も続いているはずだが」

ハインツが言った。

「今の当主は養子か何かであろう。ドラコーンの血を継ぐ者が絶えたという事だ」


「あの……ドラコーンの血を継ぐとはどういう事でしょう」

ヨハンが尋ねた。

「聖獣の加護を受けられるのは、その聖獣と人の間に生まれた子の一族だけだ」

「え……」

プティノの言葉に、カタリーナはルドルフと顔を見合わせた。


「聖獣と人間の間に……子供?」

「そのような事、初耳だが」

「ふむ、古い話だからな。何故我らがこの地にいるのかから説明した方がよさそうだの」

プティノは一同を見渡した。


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