01
「まあ見て、カタリーナ様よ」
「いつ見てもお美しいわ……」
「今日の髪型もとても素敵ね」
「お姿を見られるなんて今日はついているわ」
最初の頃は恥ずかしかった賛美の言葉も、毎日浴びせられ続けると流石に慣れる。
――その慣れが傲慢となるのだ。
気をつけないと。
カタリーナは心の中で自分に言い聞かせた。
「歩く姿もお美しいわ……」
「さすがハインツ殿下の婚約者ですわね」
姿勢には気をつけている。
人前では隙を見せないよう、指先にまで気を抜かない。
そういう努力している部分を褒められるのは嬉しい。
確かにカタリーナは美しい。
かつてその美貌で社交界の華と謳われ他国の王侯貴族からも求婚されたという、三年前に亡くなった母親に似た容姿を侍女が毎日磨き上げてくれているし、自分でも気をつけている。
着るものだって、カタリーナに似合う色や形を研究して仕立てているのだ。
カタリーナ・アルムスター。
侯爵家の長女で、王立学園二年生の十七歳。
このマイスナー王国の第二王子ハインツの婚約者。
そしてここは学園で、カタリーナは今日の授業が終わったため家に帰ろうと馬車へ向かっていた。
「姉上!」
耳慣れた声に振り返ると周囲からの騒めきが増えた。
カタリーナによく似た青年が駆け寄ってきた。
そのさらさらの金髪はカタリーナと同じ色だが、瞳の色は違う。
彼は母親と同じ緑色の瞳で、カタリーナは父親譲りの琥珀色だ。
「フリードリヒ。授業は終わったの?」
「はい。姉上も今日はこのまま家に帰られるのですよね。一緒に帰りましょう」
一つ下の、女の子のように綺麗な顔がそう言って笑みを浮かべると周囲から悲鳴が聞こえた。
「ああ……お二人揃って見られるなんて!」
「アルムスター家のご姉弟は本当に美しいわ……」
「何て至福なの」
いつものように騒めきと熱い視線に囲まれながら二人は迎えの馬車に乗った。
「毎日毎日キャーキャー言って飽きないのかな」
馬車が動き出すとフリードリヒはため息をつきながらそう言った。
その傍にはいくつもの包みが置かれている。
今日も大量の贈り物を渡されたようだ。
カタリーナの場合は離れた場所から見つめられることが多いが、この見目も良く成績優秀、そしてまだ婚約者のいない侯爵家の後継、という超優良物件のフリードリヒには直接アプローチする令嬢が後を絶たないのだ。
「本当に……」
「まあでも、確かに姉上は毎朝見る度に綺麗だなあと思うよ」
「……その言葉、そっくりお返しするわ」
御令嬢達が卒倒しそうな綺麗な笑顔を浮かべて甘い言葉を口にする弟を思わず半目で見る。
そういうことは他の御令嬢に言って欲しいし、そもそも同じような顔の姉を褒めても仕方ないだろう。
「――ところで、明日は姉上も行かれるよね」
「ええ。久しぶりだわ」
そのことを思い浮かべると自然とカタリーナの顔が綻ぶ。
この半年ほど、学園での授業だけでなくお妃教育が忙しくて毎日のように王宮へ通っていたのだ。
でもそれも一区切りついて、明日は久しぶりのお休み。
やっと領地に帰れる。
「皆も姉上に会えなくてって寂しがっていたよ」
「あら、お目当ては私ではなくてお土産ではなくて?」
「どっちもだよ」
「ふふ、お天気が良いといいわね」
この半年間、本当に息が詰まりそうだった。
やっと帰れる――
青い空と緑の匂いを思い出しながらカタリーナは彼の地へ想いを馳せた。




