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プロローグ

季節を告げる風と共に、大地を鳴き声が響き渡った。


悲しい。

哀しい。

寂しい。

苦しい。


人間には聞こえないその声は細く遠く、風と共に王国中に広がっていった。



西の森で休息していた金色の狼がピクリとその耳を動かした。

頭を上げ東の空を見上げる。

「……春が遅くなるな」

東からの風は国中に恵みをもたらすが、悲痛な声は気温を下げ、季節が進むのを遅らせる。

冬が長引けば魔獣が増え実りが減る。

それは人間や『彼ら』にとって厄介なことだった。


「しかし、よく鳴くが。何かあったか」

『ウィバリーの血が絶えたのであろう』

頭の中に声が響いた。


「ウィバリーが?」

『それで悲しくて鳴いているのであろう』

『あれはまだ人間と繋がっておるのか』

別の声が響いた。


『人間など、脆くて面倒臭いだけであろうが』

『だがその人間を護るのが我らの役目だ』

『ふん。この数百年、役目とやらを放棄しておるではないか』

「放棄ではない。我らの出る幕がないだけだ」

金狼はのそりと立ち上がった。

「また人を助ける時が来るであろうよ」


『そんな日は来ぬ方が良いがな』

『我は退屈だ。海が血で染まることもなくなりつまらん』

『お主は相変わらずだ』


遠く東の空に黒い雲が湧き上がるのが見えた。

重たげな色が空を覆い尽くすように広がっていく。

そして湿った匂い。

これから長く続く雨が降るだろう。


「早く止むと良いが」

雨も、鳴き声も。



切なげな鳴き声は雨と共に何日にも渡り大地に響き続けた。



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