素晴らしき贈り物 ~霊力松毬〈ロード〉
僕たちの周囲の景色は、またもや溶解した世界へと変化した。
周囲が更に闇を増していく。
ヤシロさんの濡れたように艶めく瞳に見つめられて僕は再び君に・・・・・
僕はヤシロさんと口づけを交わしながら蔵人の人生を走馬灯のように垣間見ていた。
・・・この蔵人の続きの人生は、ヤシロさんには秘密。
あれ?
目を閉じていても明るさを感じるぞ?
僕は口づけしたまま薄目を開けてみる。
見えたのは、ヤシロさんの顔と・・・
やったぁ!!
いつの間にか僕ら教室に戻っている!!
やばい!
僕はヤシロさんと教室の真ん中でこんなことしてるなんて!
僕はヤシロさんからすぐに離れようとしたのだけれど・・・
《まだだめ・・・まだやめないで、蔵人様・・・》
《楓・・・私はどんなにこの日を待ちわびたことか》
《あたしたち、やっと・・・》
《ああ・・・私もずっとこのままでいたい・・・》
またもやあの二人の想いが現れた!
どうなっているんだ?
ヤシロさんが僕の首に腕を回してきた。
僕はその腕を振り払うなんてできないよ。
なぜか僕もつられてヤシロさんの腰を引き寄せてる!
僕はなんてことしてるんだ!
僕は自分がしたことに頭の中ではめちゃくちゃ狼狽してる。
廊下から泉さんの声が聞こえる。
「だっ、ダメだ! 今教室に近づくなっ! うわっ、今のは暴力だぞ! こらっ! おいっ!」
「何だってんだよ? 俺は忙しいんだ! 邪魔すんなよ。月曜日は朝早く来てみんなの机の上を拭いているんだ。それにクラス全員におはようを言うって決めてんだ。クラス委員として自主的にな。お前は気づいてなかったかも知れないけど。どけって」
だめだ! 今来ないで!
僕はこんなとこでこんなことしてちゃダメなのに、わかってるのに止められないんだ!
それに、これは業村くんの声!
教室に入ろうとしてる業村くんを泉さんが阻止してくれているんだ!
泉さんと業村くんの叫び声が響いた。
「君の志はたいへん立派だと認めるが・・・おっおい! だっ、だっ・・・見ちゃだめだ〰️〰️〰️!」
「うっせーな、泉さん・・・えっ?・・・・・ぎゃ〰️〰️〰️〰️〰️!!」
ヤシロさんが廊下の叫び声に振り向き、やっとくちびるを解放してくれた。
ガラっと教室の扉を開けた業村くんは、抱き合ってる僕らを見て、すごい剣幕で怒鳴ってきた。
「なっ、何やってんだよ? お前ら! こんなとこで堂々と!」
ベランダからは見てないからって言ってたリアさんの顔が窓から上半分だけ出ていた。
ああー! めっちゃ見られてしまったじゃないか!
こんなことになるなんて!
僕の人生こんな大ピンチは初めてだ!
僕は慌てて黒板に描いた告白の絵を消して、そしたらヤシロさんに怒られて、詰め寄ってくる業村くんにたじたじになって、ヤシロさんにかばわれて、それで、泉さんとリアさんも加勢してきて・・・・・!
それからは大混乱!!
そんな中、徐々に登校してくるクラスの人たち。
業村くんに詰問される僕。
答えに窮する僕。
間に立ちはだかり参戦する泉さんとリアさん。
前黒板の真ん前で論争する業村くんとヤシロさんを含めた3人の女子。
その横でおろおろする僕。
興味津々で周りに集まるクラスメイト。
もう、こんなんなっちゃったら僕とヤシロさんのことは隠しようもないじゃないか!
恥ずかし過ぎるよ!
でも・・・こういうのも悪くない。
僕、今日のことは、一生忘れないだろうな・・・・・
ううん、忘れる要素なんて全くないさ!
リアさんと泉さんの特訓から始まり、告白と同時に怪異に襲われ、前世を時間旅行で垣間見た。
あんなに向こうで時を過ごしたにもかかわらず、戻って来たらこちらの時間は経っていなかった。
僕たち、なんてファンタスティックな出来事を贈られたんだろう?
あの凝縮霊力入りの松ぼっくりの贈り物!
ねぇ、霊鳥大鷲キザシ・・・
僕、このお礼に、いつかもっといい絵を描いてみせるから・・・待ってて。
僕はそれから暫くはあっちからもこっちからも冷やかされることになった。
だけど、そのお陰で僕たちはクラスの公認第1号となり、大抵の人たちからは祝福された。
業村くんはヤシロさんのことはひとまず置いとくことにしたようで僕やヤシロさんにちょっかいを出すことは無くなった。
業村くんはほっとけば、僕たちがその内破局すると思ってるみたい。
僕がヤシロさんには不釣り合いだから。
僕は業村くんを見ると、あの侍のことを思い出す。
ちょっと、することも似てるかも。時に狡猾、時に義侠心。
そして、泉さんとリアさん。
やっぱり今でも僕を助けてくれているという不思議な巡り合わせ。
大高くんは相変わらずで、僕にはしょっちゅう嫌みをいうし、ヤシロさんにも相変わらず意地悪を言っている。
ヤシロさんはなぜか以前よりもっと大高くんを避けるようになったみたい。
大高くんと何かあったんじゃないかって心配になって、さりげなく聞いてみたけど、はぐらかされた。
いわく、なんとなく、だそうだ。
僕は1ヶ月後、ヤシロさんを僕の家、付梨大明神に招待した。
僕のお母さんはヤシロさんを見てすごく喜んでくれた。
以前見た夢の御告げ通りの女の子だの、お母さんほんとはこんな娘も欲しかったの何だのと。
宮司を務めるお父さんもヤシロさんには一目でめろめろだ。
『ヤシロ』なんて名前も我が家にぴったりだしこれは運命的だの、これでこの神社も安泰だの何だの言いだしたので僕は恥ずかしくなってさっさとヤシロさんを外に連れ出し、鮒死池に行った。
僕たちは鮒死池の小さな祠に野の花の花束を供え、池には鯉の餌をまいた。
僕はずっとヤシロさんと仲良くいられるようにお祈りした。
隣で手を合わせるヤシロさんは何をお願いしたんだろう?
その横顔は清廉に美しくて・・・
見とれていた僕は不意にヤシロさんと目があってしまった。
ドキっとした。
『おんなじこと、お願いしてたかもね?』
内心ちょい動揺してる僕に、今度はいたずらっぽい笑顔を見せた。
あれ? 僕がいつも首から下げている、Tシャツの中の黒鮒様の御守りが熱を持っている。
僕はシャツ越しに掴んだ。
『・・・・・その娘、決して泣かせるでない。ここいらの者らがおののく』
そんな不思議な言葉が僕の頭に聞こえてきた。
これは・・・きっと、黒鮒様の声だ!
きっと、黒鮒様もヤシロさんのことを歓迎しているんだ。
ヤシロさんを大切にしろってことだろ?
でも、おののくって・・・・・?
神様の言葉は時に冥冥としている。
何かの暗示かな・・・
御神託は時に比喩的で難解なものだし。
後でお父さんに聞いてみよう。
今度は僕がヤシロさんの家に行く番だ。
ヤシロさんの弟が僕にすっごく会いたがっていて、歓迎の用意をして待っているという。
僕は戦々恐々。
ヤシロさんは無邪気に『イブキはとってもいい子なのよ! きっとロードくんと仲良しになるね』なんて言っているけど・・・・どうなるかな?
僕は嫌な予感しかしないけどね。あははっ・・・・・




