走馬灯のように ~幻影思念〈ヤシロ〉
奈為さんと呼ばれていた女の子は蔵人くんを軽ーく担いでさっさか小道を戻って行った。
あんなに細いのにすごい力持ちね。
蔵人くんはこれで助かったようね。ほっとしたわ。
このあと、どうなるのかな?
あたしまだまだ続きが知りたいわ!
「さあ、風乱お嬢様、我らもここは引き上げましょう。この小判は如何致しましょう?」
「これは治療費として頂いとくわ。世の中持ちつ持たれつよ。それにその方があの男も気兼ねなく養生するでしょうから」
「はい、お嬢様。でも、あの輩、名がないと不便でございますね」
「・・・そうね、では・・・奈為に付けてもらったらどう? ずいぶんあの者を気に入っていたようだしね?」
「ったく、まだ得体の知れぬ男だというのに、奈為のやつはしょうもない」
「奈為はお年頃というものなのでしょう? わたくしはまだですけど、ふふふん。兄者としては気がもめますのね」
「風乱様! お戯れを! 年上のわたしをからかわないでください」
「くっくっく・・・はいはい、華厳汰。行くわよ」
二人もそろそろと、この狭い参道を戻って行く。
「ねぇ、ロードくん! あたしたちも追いかけようよ!」
「・・・え? あ・・・ああ。でも・・・・・」
どうしたのかしら?
ロードくん、あまり気が進まなそうだわ。
「行こっ!」
あたしがロードくんの手を取った時、
ーーー終わりは訪れたの。
周りの景色がふにゃんと歪んだ。
なっ?
「ヤシロさんっ!」
ロードくんがあたしを抱き寄せた。
あたしも抱きついた。
だって、また、離れ離れになっちゃったらやだもん。
「また、砂がくるかも!」
ロードくんが緊張の面持ちであたしの顔を見てる。
「あたし、ロードくんと一緒なら怖くないよ、なんてね。怖いけど」
「僕だって・・・・・」
「・・・じゃあ怖くないように・・・・・もう一回、しちゃおうか?」
こんな、暗い歪んだ空間に包まれてるっていうのに、あたしったら。
「えっ?」
あたしはじっとロードくんの目を見つめる。
ロードくんの顔が赤く染まる。
あたしだって本当はどっきんどっきんしてるの。
「僕、ヤシロさんが好きだ」
ロードくんがあたしの目を見てはっきりと言ってくれたの。
「あたしもよ・・・ロードくん」
あたしは目を瞑る。
そして、
ロードくんの口づけを受けながら・・・・・
《あたし、黒鮒様の言葉を支えにして来世を信じていました。きっとまた蔵人様とお会い出来るって。》
《楓は、今度は蔵人様と黒鮒様のお側で生きていきたいのですわ》
あたしのくちびるからロードくんにすべりこんでいった思念。
そして、ロードくんからあたしにも流れ込んできた思念・・・
楓ちゃんと蔵人くんがお話したの。
それから、急にまぶたの裏側に、映像が次々ぱっぱと浮かんだの。
スライドショーみたいに。
これは・・・・・?
楓ちゃんのその後?
布団の上で楓ちゃんは泣いてる。
嬉しいやら痛いやらで。
赤ちゃんだわ! 生まれたところ!
次は・・・
赤ちゃんに何か白い物を背負わせて笑ってる。
何人かの女の人たちと。
よたよた立ってる赤ちゃん。
何かの儀式?
みんな笑顔。
あれ、歩いてる! 女の子ね?可愛い!
綺麗な着物を着て微笑んでいるわ。
ん?あたし、お腹が・・・大きいよ!まさか!
そして、
あっ! 生まれてる! 今度は男の子だ。
これが旦那様?すごい喜びようね。
ちょっとまってよ!
どういうこと?
この男の人、大高くんによく似てる!
浅黒くて逞しくて、濃い眉毛といい。
次々届く贈り物。
あたしは困っている。
大高くん似の旦那様が来てあたしに綺麗なかんざし飾りを見せている。
あたしの髪にさしてご満悦。
あたしは・・・微笑んでるけど。じつは苦笑いなのよ。これは。
一つだけ、とても気に入った贈り物。
それは素敵な掛け軸。
朝顔と露草と蝸牛(カタツムリ)が、優しい色合いで繊細に描かれている。雅号印は『風木草人』。かざきそうと様かしら。
きっと素敵な人だわ。こんな、温かい絵が描けるんですもの。
蔵人様を思い起こさせる。
今はどこで誰と何をしているの?宮廷絵師になったという噂はない。
消息だけでも知りたいの。
あたしは夜一人、あの絵を広げて見てる。
あたしの宝物。あたしの似顔絵。
涙。
『蔵人様』、ひと言呟いた。
まだ、あどけなさが残る女の子。
蔵人くんにどこか似てる。
あたしはその面影だけが生き甲斐だったのに。
もう、お嫁に行ってしまうのね。
男の子は元服したの。もうりっぱな大人の装い。
もう、あたしは必要ないの。
あたしは・・・・・泣いている。
旦那様にひれ伏してお願いしているの。
離縁して欲しいと。
激昂してる旦那様。
駄目だわ。
この人はあたしを解放してはくれない。
あたしが誰よりも愛おしいという。
あたしが冷たくすると、屋敷の弱き立場の人たちに当たり散らすの。下の者らにひどい仕打ちを。その者たちには落ち度などないのよ。
ああ、困ったお方なの。あたしにはこんなにやさしいのに。
あたしはここにいるあたしより弱きこの者らを護らなきゃならない。
あたしはここにいるしかないの。
あたしは一方的な愛を受ける。
本当は要らないのに。
だってあたしが欲しかったのは・・・・・
あたしは一方的な愛に耐える。
来世を思いながら・・・
ーーー黒鮒様から頂いた、あの言葉を信じて
そうだったの?
楓ちゃん?
来世を信じて頑張ったんだね。
あたし、ちゃんと見たからね。
教えてくれてありがとう。
あたしはね、ロードくんを捕まえたよ。
あたしはもう離さないもん。
だから、楓ちゃん、あとはあたしに任せてよ。
ね?
あなたの出番はもうお仕舞いよ。
あたしに幻を見せる必要はもう無いの。
だから、あたしたちを元の世界に帰して下さい。
ーーーこれから始まるあたしたちの物語のために
楓のその後場面について
ヤシロによる楓の俯瞰から途中一人称に変わっているのは二人の融合を意図したもので、間違えて書いたものではありません。




