お嬢と麗人~天祐神助〈ロード〉
倒れてしまった蔵人の元に現れたのは・・・まるでクラスメイトの泉ふうらさんと男装した華厳リアさん!
泉さんは大店のお嬢様で、リアさんの男装の麗人みたいな若者は手代さん?
いや、それともお店の用心棒かもしれない。
「・・・・・おい、この血は・・・! こっ、これはどうしたっ? 御仁!しっかりしろっ!」
「・・・ううっ・・・いえ、私のことは・・・つうっ!」
蔵人はふらふらと立ち上がり、立ち去ろうとしたけどよろめいて、華厳汰さんというリア似のお兄さんに支えられた。
「その右手はどうした? この落ちている小判は・・・?」
「いっ、いえ、私には・・・構わないで・・・ううううっ」
「・・・・・訳ありか? お前盗みでもしたのか?」
「・・・・・いえ、決してそのような金子ではありませぬ・・・天地神明にかけて!」
華厳汰さんが蔵人の血が滴る右手を掴んだ。
「つうううぅっ!」
蔵人は絞り出すような声でうめいた。
華厳汰さんがいつの間にか小さな刃物を手にしていて蔵人の包まれた手首の紐を切った。
「華厳汰、どうしたの? その人」
美しい衣装を纏っているまだ幼さが残る、可愛らしい泉さん似の女の子。
厳しい表情で蔵人を見ていた彼女は華厳汰さんに鋭利な視線を向けた。
「はい、風乱様、この男、右手を刀で一閃にされたもようです・・・・・お前、この刀傷、お侍の無礼打に遭ったのか、それとも辻斬りから逃れてきたのか?」
「・・・ううっ・・・いえ、私は大丈夫でございます」
蔵人はどうかしてる。
手が無くなってるのに大丈夫だなんて言い張ったってはい、そうですかなんてなるわけないだろ!
「・・・また、あいつらが身分を振りかざし庶民を・・・!」
風乱という女の子がくちびるを噛んだ。きらびやかな巾着袋の紐を提げる手がキツく結ばれてる。
「如何致しましょう?」
「連れて帰りましょう。ここにいるのに気づかれたら口封じで殺られる可能性があるわ。誰にも見られぬように屋敷まで運ばなくては」
「御意!」
華厳汰というリア似のお兄さんは、ピーーーっという鋭い鳥の鳴き声に似た指笛を夜空に向けて響かせ。後、ホー、ホー、という、ふくろうの声でモールス信号のようなものを送ったようだ。
するとどこか遠くでカラスがカー、カー、と3回鳴いた。
「・・・よし」
華厳汰さんは小さな声でつぶやくと腰にぶら下げていた巾着袋から大きな二枚貝を取り出して開いた。
「これは我一族に伝わる秘薬軟膏。とりあえずこれを塗っておけば切り口が腐ることはまずない」
華厳汰さんは蔵人の応急手当てをし直した。
「・・・かたじけない。親切なお方・・・ううううっ・・・」
「お前、名はなんという?」
「私は・・・もう、名乗れませぬ。私が名乗れば私の恩人二人が殺されてしまうのです。私はこのまま・・・死んだ方がいいのかもしれま・・・ううううっっ」
「お待たせっ! 兄者。手押し車とムシロ、あっちに用意してきたよ!」
おきゃんな雰囲気の女の子がぴょんぴょん飛んできた。
あれ? この子・・・・・
「奈為、この男をムシロで隠し、手押し車に載せてお屋敷裏から運び込め」
「がってん!」
「いえ、わ、私は・・・もうこれ以上は・・・迷惑をかけるわけには・・・つうぅ・・・」
蔵人はふらふら立ち去ろうとした。
「あんた、もう無理でしょ! それにあたいらお嬢の命令は絶対遂行なのだ。あら、あんた? あたしの好み。うふんっ」
「奈為! ふざけてないでさっさとやれ!」
「はあい。ったく、さあ、行くわよ! 名無しさん」
「・・・いえ、私は・・・・・」
「・・・誰もあんたをとって食やしないわよ。お嬢はこの年でもう、この世の理不尽にはうんざりしてるだけだよ。あんた、幸運だったね、お嬢に拾ってもらえるなんて。ま、あたいらもだけどね、ねっ兄者!」
「奈為、おしゃべりはいい! さっさと行け!」
「はいはい。ほら、あんたのせいよ。叱られちゃったじゃない。あんたがゆーこと聞かないから」
ボスっ
蔵人は奈為さんに腹パンされて気を失った。
蔵人を軽々肩にさげて奈為さんが呟いた。
「あたしが付きっきりで看病してあげるからね。大丈夫だよ。安心してね。名無しさん。うふっ」
僕は呆然としていた。
ヤシロさんには言えなかったけれど、この奈為さんはリアさんの妹のアルちゃんにそっくりだったんだ。
もしかして、奈為さんと蔵人は・・・・・
ーーー微かにそんな気がしたんだ。




