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まだ未完、だから夢中に迷妄中  作者: メイズ
第3章 外界溶解は異界への開口 ~永劫回帰
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秘め事恋歌 ~輪廻転生〈ロード〉

 ヤシロさんはだいぶ落ち着きを取り戻している。


「ロードくん、蔵人くんはどうなるの?死んじゃうなんて無いよね?」


 僕にせがむように訴えて来た。


「ああ、楓さんは人生をかけて、そしてあの侍は自分の命を危険にさらし、薄氷を踏みながら蔵人を助けたんだ。それが無駄になるなんて(こく)過ぎるよ」


「業町様ってお侍さん、悪い人じゃなくて助かったわ。それにしても・・・なんであんなに業村くんに似ているの? まさかあれは・・・!」



「・・・さあ? 僕にはわからないよ」



 そうかもしれないし、そうではないかもしれない。


 神のみぞ知ることだろう。



 仄かな明かり。



 蔵人の持っていた提灯(ちょうちん)が狭い石畳の通路で倒れ小さな炎を上げている。



 その明かりに照らされて蔵人は楓さんからの文を読んでいる。


 炎によってオレンジ色にチラチラと照らされた蔵人の顔。


 その表情は(ふみ)に目を通しながら変化していく。




「お前()()・・・」



 ふっと呟いた。


 一瞬、何かひらめいたのごとく目を見開いて宙を見た。


 また文に目を落とす。


 

 文には和歌がしたためられているようだ。


 やはり、もう、直接的に伝えられる事ではないんだ・・・


 感じる二人の距離。


 あの物置小屋で逢い引きすることは二度とない。



 

 

   玉の()は 継がれしここに 神告つぐる


          ()しと見し今 やがて恋しき 


  


   

   もみぢ()は とどめし人の 玉の緒を

       

          人知れずこそ 君のおもかげ





   玉の緒は 絶えても末に 思()()


          みをつくしても 逢は(あわ)んとぞ思ふ





    愛しい蔵人様、これは最期の文となりました。


    どうか、御覧になられた後は()べてくださいませ。


                            楓





 涙を落としながらも、蔵人(クロウド)の口許がわずかにほほえんだかのようにも思えた。



 蔵人は血で汚れ、だいぶ破れている文を大事そうに胸に当てた。


 そして、横で燃えている提灯(ちょうちん)の炎にそっと入れた。


 炎は、(ふみ)をなめるように黒い縁取りをつけながら、容赦なく(ちり)と化してしてゆく。


 蔵人はじっと身動きもせず見つめていた。



「・・・・・楓・・・約束通り文は燃やしたよ」



「業町様は・・・この和歌の真意を読み解いていたんだな。私より先に。"もみぢ葉" とは楓そのもの・・・・・玉の緒(命)に・・・私の面影・・・・・」



 楓さんの手紙はみるみるうちに全て黒い破片と化した。



「このことは楓と私だけではなく、業町様と3人の秘め事になってしまったけどね。だが、業町様が知ったことににより私は業町様のご思慮を賜り命を永らえた・・・」



 風が黒い断片を徐々に散らてゆく。



「だが・・・私は、もう・・・楓と業町様に救われたこの命だが・・・絵が描けなくなった私はもう・・・・・」


 既に提灯も燃え尽き、燃えカスにかすかな点々とした赤い火種が残るのみとなった。


「楓、私もこの歌に約束しよう。私の玉の緒(命)が絶えたとしても・・・再び楓と巡り会ってみせる・・・・・必ずやどこかで・・・・・次があるのならば、私は・・・二度と楓を離すことはない。どんなことがおころうとも・・・・・」



 蔵人は夜目にも蒼白で、最早(もはや)気力が尽きたように見える。


 右腕を抱えて地面に倒れ込んだ。




「蔵人くん! ねぇ、どうしよう?ロードくんっ!」


「ヤシロさん、これは過去の幻だ。どうもこうもならないよ」


 ヤシロさんは苛立つままに、抱き込んだ僕の左腕を振る。


「もうっ! どうなっちゃうのよ、これっ! あたしこんなの嫌っ」


 僕はヤシロさんの涙を見るのは何度目なんだろう?


 君は意外と泣き虫。



 僕はハンカチを取り出し、ヤシロさんのほほをそっと拭った。


「・・・もし、これで蔵人が死んでしまったとしても・・・不幸な人生ってわけではないと思う。だって、人生を犠牲にして護ろうとしてくれた愛する人と、理由はともかく、自らの死のリスクを冒しても助けようとしてくれた人がいたんだから」


「でも・・・・・」



 ヤシロさんはこの結末には納得出来ないようだ。




 誰かがこちらに来る声がする。


 若い女の子と男の声。



風乱(ふうらん)お嬢様、暗くなってからこんな暗がりに向かうなどと・・・どうかお引き返しください!」


「だって、火事かも知れなくてよ? 華厳汰(けごんた)。わたくしは他の者より目も耳も鼻も()くのです! このような場所からこの焦げ臭さ! 確かめなくてはわたくしは気が済まなくてよ?」


「大旦那様に叱られますよ。こんな暗がりには辻斬りが潜んでいることもありますれば。新しい刀を得た侍の中には、すぐに試したくなる(やから)もおります・・・」


「そんな不埒者が現れたらはお前がいつもの通り始末すればいいでしょう? どうせ、暗がりで侍一人殺った所で誰も見てないし、誰か見てた所で見てない振りをするでしょうよ! 侍なんて役にも立たず、庶民には威張るろくでなしばかりなんだから」


風乱(ふうらん)お嬢様、お口をつぐんでくださいませ!わが大店(おおだな)は御武家屋敷相手に儲けておりますのに」


「はんっ、あんやつらからは搾り取れるだけしぼりとってやればいいのよ。気位だけは高いただの傀儡(かいらい)。見栄をはって高価な舶来品やら美術品を競って買い求めてる虚飾の権化よ。でも、それでいいのよ? 思いっきりふっかけてやれば。庶民から奪ったものは庶民に返してもらわないとね? ふふん」



 細い参道に提灯の灯りが近づいてくる。


 二人連れのようだ。



「・・・・・! しっ・・・お嬢様、止まってくださいまし。あそこに誰かが潜んでおります!」




 (ほこら)前に現れたのは、豪奢な着物を来た12、3くらいに見える少女と身動きの軽い細身の若者だった。




 ・・・なんてことだ! こんなことあり?!



 若い男のかざす提灯に照らされた女の子。



『ふっ、ふっ、ふうらちゃん!!』


 ヤシロさんが叫んだ。



「・・・誰かが倒れておる模様でございますが、お嬢様はここでお待ちを」



 地面に横たわる蔵人にささっと近づいたその男は・・・・・



『えっ?・・・・・この人、リアさんのお兄さん?』


『ロードくん! このお兄さん、すっごいリアに似てるっ!』



 僕たちは顔を見合わせてしまった。




 もう、なんなんだよ? この世界!!


 もう、かもしれないなんて言ってられないよ!




 どいつもこいつも輪廻し過ぎだろ!!









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