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まだ未完、だから夢中に迷妄中  作者: メイズ
第3章 外界溶解は異界への開口 ~永劫回帰
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奪われた手 ~刺客到来〈ロード〉

「いやーーーーっ!」


 ヤシロさんが声の限り叫んだ。


 嗚呼、なんて光景だ!


 蔵人の右手が。


 鮮血にまみれて地面に転がっている。



 ヤシロさんは落ちてもなお文を掴みつつピクピク指先が動いている蔵人の右手を見て顔色はもう無い。


 叫んだ後は、流れ落ちる涙を拭うことさえ忘れて茫然としている。



 僕はヤシロさんをバッと抱き締めた。


「落ち着いて、ヤシロさん。これは幻なんだ・・・今起こってることじゃない・・・・・」


 そう言ってる僕だって声が震えてる。


 ヤシロさんは僕の胸の中から顔を上げることはできない。




「つうっ!!う・・・・ううっ・・・・・」



 蔵人のうめき声と風が木々を揺らす音だけが響いてる。



「・・・・・悪く思うな。町人(ちょうにん)


「わ・・・私の手が・・・・・」



 業町(なりまち)(ふところ)から布切れと紐を出した。



「右腕を寄越せ、町人」


 うずくまって動けない蔵人の手のひらの欠けた腕を無理矢理掴むと布を巻き手首をきつく縛り上げた。


 そして、落ちている蔵人の右手を拾い、文を丁寧に外し、蔵人の懐に突っ込んだ。


切り落とされた右手は布に包むと自分の懐に入れた。



「これは貰っておく」



 業町は冷たく言い放った。



「な・・・何故だ!なぜ私を・・・私をこのような目にあわせる?」



 蔵人が声を絞り出した。



「・・・自業自得だ。」


「これは・・・私に仕返ししたのか?楓の心を得た私に・・・」



 手のひらの無い右手をかばうように抱えてうずくまりながら蔵人は業町を睨んだ。



「ふっ、馬鹿な」


 業町は鼻で嗤って侮蔑の目で蔵人を見た。


「ここに5両ある。お前はここから今すぐ姿を消せ。間違っても俺や楓殿に二度と近づくな。」



 ガシャン


 蔵人の前に5枚の小判が投げられた。


「・・・・・断る」


 蔵人も憎しみと軽蔑の視線を向けた。


「それが出来ぬなら、俺は今ここでお前の命も奪わねばならぬ。でなければ、結局俺もお前も楓殿まで死ぬことになるからな」


「それはどういう・・・・・?」


「ふっ、お前ごとき町人にわざわざ言いたくもないのだが。ま、俺の命も懸かってるからな。特別に教えてやろう」


「・・・・・?」


「お前と楓のことなどお蘭の方様はとうにお見通しだ。俺のことも。」


「お蘭の方様・・・・・?」


「・・・そう、あの女は恐ろしい女だ。自分にとって邪魔な存在を消すことに躊躇はない。お前はあのお方にとって邪魔な存在。わかるだろう? お蘭の方様は美しい楓に白羽の矢を立てた。亡くなった見目麗しき蓮津姫のかわりに」


「自分の野望のために我が娘まで利用する女だ」


「・・・・・蓮津姫が密かに密通していた男。あいつもお蘭の方様の手の者に殺られた。そして・・・今度はお前の番だぜ? 今回の刺客には俺が選ばれた。ははっ、さすがお蘭の方様だぜ? 恋敵を俺に殺らせようってんだから」


「業町様が私の刺客・・・!」


「・・・だからって俺はあんな女の言いなりにはならない。俺は本当に楓殿に惚れていたんだから。俺は楓殿を護る。結局、俺もお前も目前から楓殿は奪われた。その文、後でじっくり読むがいい。楓殿はお前たちを護れると思い側室になる決心をしたのだろう。実際はどっちにしろお前は殺されるってのに。俺は楓殿の想いを無駄にはしたくはない」


「お前()()・・・?」


「・・・ともかく、俺はこの、お前の右手をお蘭の方様に届ける。お前の師匠の秋雅(しゅうが)殿が間違いなくお前の右手だと認知することだろう。右手は絵師の命。これで何とかお蘭の方様を納得させるしかあるまい。亡骸(なきがら)は俺が勝手に処分したことにしておく」



「いいか?俺がお前を殺さぬと決めた今、俺たち三人は最早(もはや)一蓮托生。お前はその小判と楓殿の最後の文を持ちここをさっさと立ち去れ。闇医者は賭場(とば)の裏当たりにいるだろう。手当てが済んだらすぐにこの藩を出ろ」


「・・・・・業町様」


「いいか、もう今までのお前は死んだ。今まで関わってきた者らとは二度と関わるな。これは楓殿を護れなかったお前の報いだ。甘んじて受けるしかない」


「・・・私の首がなければお蘭の方様は納得しないのでは・・・?」


「ふんっ!そのようなこと、お前が気にする必要はない。どうにでもして見せる。この俺は出来る男。お前と違ってな。はんっ」



 業町様はゲス笑いを刹那見せると、下においていた灯りを手にし、踵を返した。



去り行く後ろ姿に一礼した蔵人は不器用に左手で(ふところ)から文を取り出して地べたに広げた。



所々破け、血で染まっている。



「・・・・・楓」



 蔵人の目から滴が落ちて、血で濡れた文を更ににじませていた。








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