暗示の和歌 ~愛別離苦〈ヤシロ〉
最後の数行、ほんの少しですが残酷表現があります。
苦手な方は御注意下さい。
ここはロードくんのお家みたいだね。
薄暗い部屋。
もうすぐ完全に日が暮れそうね。
ガラリ
引き戸が開いた。
あっ!
蔵人くんが帰って来たよ。
「・・・・・楓、これはどういうことなんだ? 二日前に枝に結ばれていたこの歌・・・」
蔵人くんが懐から出した紙を見ながらぶつぶつ言っている。
ああ、わかった!
これは木の枝に結ばれてる他のおみくじに紛れさせて楓ちゃんと交換してる手紙ね。縦の折り目がいく筋もついてるもの。
蔵人くんが呟くように読み上げた。
玉の緒は 継がれしここに 神告ぐる
憂しと見し今 やがて恋しき
楓
「私に別れの歌・・・・・辛い今もやがて思い出となると。だが・・・・・命が継がれた?どういうことだ?」
上がり框に座り込み考え出した蔵人くん。
ああん、あたし教えてあげたいわ。
そうよ!これはきっと赤ちゃんのこと言いたいけど、秘密にしてなきゃいけないから言えないの。だけど、蔵人くんには知らせたくて、こっそりしたためたんだわ。
お別れを決意したけれど裏では蔵人くんへの愛がてんこ盛りなのよ!
「あたしは直接見てたからよーく解るわよ!楓ちゃんは身籠ったのよ。だから二人の赤ちゃんも蔵人くんも護ろうとしているの。気がついて!蔵人くん!」
「ヤシロさん。これは過去に起きたことだから、もう終わってることだから何も変えられないよ。これはただの幻なんだ」
・・・ロードくんは冷静ね。これは昔の自分自身なのに。
「・・・・・そうだったね。そんな神様らしき男の声も聞こえて来たことがあるの。ガラ悪い声の時もあったけど」
あ。蔵人くんが立ち上がったよ。
小さな提灯をささっと用意すると、思い詰めた顔をして外に出た。
「ねえ、追いかけよう!ロードくん」
「うん。どこに行くんだろう?」
ここは鎮守の森?
もう辺りは暗い。
うっそうとして、夜に見るのは不気味だわ。
昼間見ればきっとマイナスイオンが溢れた癒しの空間なんだろうけど。
蔵人くんの行き先はその奥にある小さな神社だった。
ここは小さな無人の神社のようね。
こんな暗くなってからこんな所に来る人なんて、他にはいないみたい。
あたしたちは蔵人くんのすぐ後ろに続いてく。
拝殿の横には緑に挟まれたとても狭い小道があって、ついていくと奥には小さな祠があった。
祠の周りの木の枝には幾つものおみくじが結ばれている。
「私の文が消えている・・・楓殿に届いているのか?」
祠の右側にある、突き出してるもさもさ繁った枝をよけ、木の枝の奥まった方に灯りをかざし見て、蔵人くんが言った。
左側には、平滑な細い枝を分岐させながら幾重にも伸ばしている楓の木。
蔵人くんは今度はこちらの幹の裏側の枝を探った。
「・・・・・返事はない・・な」
蔵人くんが落胆してるのは見るも明らか。
ガックリ肩が落ちてる。
ガサガサガサっ
小道の脇の暗い茂みから男が現れた。
帯刀してる。武士だわ。かざした提灯が映し出したのは・・・
うっそ!業村くんに超似てるっ!
あたしとロードくんは無言で顔を見合せた。
「よお、町人」
「お侍様! 私に何か?」
蔵人くんがお辞儀をした。
「俺は、業町郷と申す」
「・・・業町様・・・? ま、まさか、あなた様は・・・・・」
「そう、俺は楓殿に縁談を申し込んでいた業町だ。1年も前からな」
「・・・・・」
「それなのにこのざま。楓はこんな町人風情にうつつをぬかして。その末にあんな大高見澤の女好き馬鹿息子の側室になるはめになるとはな」
「・・・・・」
「お前さえ・・・お前さえいなければこんなことには・・・・・さっさと俺の妻となっていればこのような事には!」
業町様は手にしていた提灯を地べたに下ろした。
そして、蔵人くんを射竦めるかのような視線を向けた。
カチャリ
それは不穏な金属音。
あたしの心臓が早鐘を打ちはじめた。
業町って武士が、左手で鯉口を切った・・・
ま、まさかっ!
「お前のせいだ! 総てはな・・・」
「・・・お止めください! 業町様」
青ざめた蔵人くんが一歩後ろに下がった。
でも、ここはこの祠で行き止まりよ!
どうしよう!
お願い!止めて!!
業町様、刀を抜かないで!!
ロードくん、目を見開いて二人を見てる。
ロードくんも蔵人くんもおんなじ位、蒼白になってる。
「・・・町人。お前が探していたのはこれだろう?」
業町様がたもとから一枚の紙切れを出してひらひらさせた。
紙にはつらつらと筆文字がしたためてあるみたい。
「それは、もしや楓の・・・?」
蔵人くんは手を伸ばし、掴んだ。
「無礼者っ!」
一閃。
それはあっという間の出来事だったの・・・・・
その侍は紙からパッと手を放したと同時に刀の柄をつかむと素早く刀を抜いて・・・・・
蔵人くんの伸ばした右手を、
ーーー切り落とした。
ぼとり・・・
地面に落ちる音。
楓ちゃんの文をぎゅっと掴んだままの手が。




