あたしの価値観
「ごちそうさまでした!」
「ふうらちゃんのウインナベーコン巻きおいしかったよ。」
あたしはお弁当の包みを戻しながら言った。
「それは幸いだ。ボクはウインナ地獄から逃れる事が出来た。」
「何それ?」
リアが片眉を上げる。
「ボクの母親は思考が停止している。精肉大手のプロパガンダにより全ての日本国内に住む子どもはウインナーが好きでこれさえあれば大丈夫だという間違った固定観念を植え付けられている。これも商業第一主義におけるある種の弊害だろう。被害はこのボクに。」
「ふうらちゃんは好きじゃないんだ?ウインナー。」
「・・・・・ヤシロ、いくらおいしいものでも毎日食べたら見たくもなくなるものだ。戦時中の大根飯?のようなものだ。ヤシロ、また明日も頼む。」
「もち&ろんだよ。えへへ、ラッキー。代わりにあたしのおかずあげるからね!」
「・・・・・ヤシロ、このウインナ地獄回避の返礼として今後困った事が起きたときはボクに助けを求める事を許可する。覚えておいて。」
ふうらちゃんは大きな黒い目を私に向けた。
あまり感情を表さない子なのね。
表情はずっとかわらない。でも、なあに?微かに感じる目の奥に現れてるのは・・・憂い?
気のせい・・・・・?
「うん・・・・分かった、ありがと。」
「そう。では、失礼。」
ふうらちゃんはお弁当箱を持って自分の席のバッグにしまうと教室を出て行った。
「さて・・・・私は図書準備室に預けてきた矢筒を部室に置いてくるとするわ。昼練してる人いるから部室は開いてるの。」
「ああ、朝のあれね。そんなとこに置いてたんだ。」
「うん、私図書委員今年で2年目なんだ。図書室のカウンター受付当番も進んで多めに引き受けてるからさ、図書室の島田先生とは結構仲良しなのよ。ふふーん。」
「そうだったんだ?」
「ヤシロは黒板デコなんでしょ?頑張って!出来上がり楽しみにしてるよ。じゃ、行ってきまーす!」
リアがストレートの長いポニーテールを揺らしながら、心なしかウキウキした足取りで教室から出て行く後ろ姿を見送った。
さて、あたしはあたしの仕事しなきゃ。
えっと、ロードくんは、まだベランダに?
あたしはベランダを見た。
窓の向こうに業村くんと大高くんがいる。
ロードくんと向かい合って?
どうして?
あたしは急いでベランダに出た。
「何しているの?」
「何って・・・・・。ベランダに出るのは禁止されてるだろ?クラス委員長として注意してたのさ。賽ノ宮くんにね。」
業村くんが振り返ってあたしを見た。
「きまりは守ろうぜー、ロードくん?」
大高くんがせせら笑いながらロードくんの肩を押した。
よろめいたロードくんはうつむいてる。
「ベランダなんてみんなしょっちゅう出てるでしょ!ロードくんだけじゃないよ!行こう、ロードくん。」
あたしは二人を押し退けてロードくんの腕を引っ張った。
「なあ、ヤシロさんは賽ノ宮と噂通りほんと付き合ってんの?」
業村くんがあたしとロードくんを怪訝な目で見た。
「別にそういうんじゃないから。あたしたちは気の合う友だちなの。」
あたしは言い捨てるとロードくんを引っ張って教室に連れ戻した。
「あいつらに何か嫌なこと言われた?」
あたしはロードくんの顔を覗く。
「あ・・・・・ううん。僕がいけなかったんだ。外がとても気持ちよさそうで。ベランダの縁に雀が止まっててね、こっちを見ながらぴょんぴょんしてさ、まるで僕を呼んでるような気がしてつい・・・・・・。僕のおにぎりが食べたかったみたい。」
ばつが悪そうにボソボソ話すロードくん。
うふふ、ロードくんらしいな。ちょっとメルヘンしてる。
「さあ、後ろ黒板、始めようよ!その前にきれいに消さなきゃね。あたし、雑巾もってくるね。とりあえず黒板消しで消しといて。」
「うん。」
あたしが雑巾を固く絞って戻って来るとなぜか業村くんもそこにいた。
「まだ、何か用なの?」
あたしはわざと迷惑そうに言った。
「僕が手伝うことはないかなと思って賽ノ宮に聞いてただけさ。だってヤシロさんだって僕を手伝ってくれるんだろ?だから。」
あたしのちょい居丈高な態度など気にも止めていないみたい。
何なのよ?このいかにものいい人ぶった態度。自己紹介の時の事、あたし忘れてないからね!
ロードくんをディスったこと。
「ありがとう、でも別に大丈夫よ。あたしたち掲示委員ふたりでできるから。」
あたしは内心ムカつきながらも笑顔で答えた。
・・・これは皮肉を込めた笑顔だけどね。
「・・・・・そう、ならいいけど。ねえ、先週の鷺坂さんと3人のランチ楽しかったね。」
「え・・・?ああ、うん。」
あの、ランチ。
あの時だいたい分かった。
鷺坂さんはいわゆる優等生って人だった。きっと誰に対してもそれなりに対応できる柔軟性がある人。こんなあたしにも話合わせてボカロの話とか振ってきて、気を使ってくれたし。
そして・・・・この業村くん。彼は・・・・・
業村くんは自分大好き自信満々タイプ。
会話の中にさりげなく振り撒かれる自慢話。はーぁ・・・・・
その自信に根拠はあるのかしら?確かにスポーツも勉強もそれなりに人よりできるのかもしれないけど・・・・人ってそれだけじゃないと思うの。
あたしが認める価値はそういうんじゃないから。
第一印象通り、やっぱりいけ好かないタイプだと判明。
「・・・・・ええと、今日の放課後僕の手伝いをお願いしていいかな。今朝、永井先生から教室内に私物を置く時のルールと、荷物とその持ち主を明確にしておくための素案を作るように言われてるんだ。一緒に考えて欲しい。その記録はヤシロさんの係だろ?」
「えっ?今日じゃないとダメなの?あたし放課後も黒板描く予定なんだけど。」
「じゃあさ、黒板やりながらでいいよ。どうせこの教室でやるんだから。鷺坂さんも残るから。」
「・・・・・わかった。」
・・・・・仕方ないね。これも係の仕事だもん。
せっかくロードくんと二人で楽しく描こうと思ってたのに。
リアさんはダンディな島田先生がお気に入りのようです。




