夢うつつ ~妄想具現〈ロード〉
ーーータイミングをすっかり逃してしまった。
僕は寝ているヤシロさんが起きるのを座って待っていた。
それなのに待っていた僕まで寝てしまうなんて。
浅い夢を見ていたんだ。
ヤシロさんの夢を。
ヤシロさんが僕の耳元で何かを甘く囁く。
とても優しく。
吐息さえ耳に感じる気がするくらいリアルな夢。
そして、ヤシロさんは僕を膝枕に誘って・・・・・
僕はされるがままにヤシロさんの膝に頭を預けた。
それは・・・願望がまんま夢に反映されてるっていうか、なんていうか・・・そういうなかなか見ることはできないラッキーな夢で。
僕はとても幸せな夢の中にいるんだと思っていたんだ。
ついさっきまで。
ーーーそして今、僕の心は大変な冷や汗をかいてる。
だって、夢だと思っていたら、僕は本当にヤシロさんの膝枕で寝ていたことに気づいたんだから!
ふっと、右耳がとても暖かいのに気がついたんだ。
顔の右側だけ妙にぬくぬくしていた。
僕の頭は子どものようにいいこ、いいこされてて・・・
うっすらと目覚めて来た僕の耳に飛び込んできたのは・・・
「あれ・・・!ロードくんの左耳たぶに小さなほくろ発見!うふっ」
聞こえたのはヤシロさんの声!
まさか・・・!
僕は硬直しながら慎重に慎重に薄目を開けた。
目のすぐ下にはスカートの裾。そしてその先には並んだ膝小僧。
僕の視界には、どう見たって女の子の投げだされた脚の続き。
履いてるのは学校指定の上履き兼体育館用スポーツシューズ。サイドに入ってる3本の赤いラインは僕たち2年生の印。
この僕の今の体勢では顔は確認できないものの、それは先ほど聴こえた声と今の状況から言えばもち、ヤシロさん以外はありえない。っていうかここには僕とヤシロさん以外いないんだ。
・・・どうしよう。
僕はどんな顔をして起きたらいいんだ?
こんな状況で。
ヤシロさんが僕の左耳を触ってる・・・
さわさわしてしまうけど、動いちゃダメだ!
僕の耳の観察なんかして何してるんだ?
うわーっ!
僕の耳にヤシロさんが息をふうーってかけてきた。
思わず僕はピクリとしてしまった。
ドッキン、ドッキン、ドッキン・・・・・・
僕は僕の鼓動がヤシロさんに響いてしまうのではないかと気が気でない。
ヤシロさんは一体何をしようとしているんだ?
僕だって男の端くれだって分かってやってんの?
ヤシロさんは小悪魔過ぎるよ。
こんなことされたら僕だってその気になってしまうだろ?
あの、二人砂に埋もれてく時だって君は・・・・
僕は思い出して、いてもたってもいられなくなってしまった。
あの続きを・・・?
彼女の膝の上で横向きから仰向けに転がって上を向いた。
「やっ、ヤシロさん!僕・・・」
「あっ!起きたんだ」
ヤシロさんはパッと立ち上がった。
僕の頭はそのまま地面に落とされた。
ここの地面も柔らかかったので僕は痛くはなかったのだけど、僕の邪な期待は瞬時にくだけ散った。
「あっ、ごめーん!ついついいつもの癖で。大丈夫だった?」
あお向けで転がってる僕の顔をヤシロさんが立ったまま覗きこんだ。
僕の視線はさ迷う。
・・・うっ、寝転がってる僕の頭の横に立つなんて!
やっぱり君は小悪魔だ。
「あ、ああ。大丈夫。でも、いつもの癖って?」
ヤシロさんが両手を差し出したのでつかまった。
「よいしょっ! えっとね、弟のイブキからよくお耳掃除頼まれるの。その時ね・・・・・」
僕の腕を引っ張りながらヤシロさんが言った。
弟に耳掃除頼まれって・・・・・?
僕はちょっと不安を覚えた。
僕はイブキくんからはきっと、敵視される存在じゃないかって。
ヤシロさんは急に涙ぐんだ。
「あたし・・・くすんっ、もう、イブキに会えないし、お耳掃除もしてあげられないんだ・・・だって、あたし死んじゃったみたいだし・・・・あれが最後のお耳掃除になるんだったらちゃんと両耳やってあげればよかった・・・しくしく・・・・・くすんっ」
ヤシロさんは勘違いしてる。
僕たちは生きてる。
「ヤシロさん、大丈夫だよ。僕たちは死んではいないし、イブキくんにもまた会える。元の世界に必ず戻れるから!僕の家の守護神、黒鮒様だって僕たちがこれを乗り越えられるって思ってくれてるから」
「ほんと?あたし生きてるような気がしないでもなかったの!よかったぁー!・・・・・そうよ、黒鮒様!そう言えば、ロードくん、砂に埋もれるとき守護神がどうのこうのっていってたね?」
「うん、これは煌くんしか知らないんだけど、僕の家、実は神社なんだ。」
「・・・もしかしてっ!」
「うん、僕の家は付梨大明神なんだ。これ、秘密だよ」
「あたし、さっき行って来たばっかりなのよ! 昔の鮒死池に! 聞いて、ロードくん!青い綺麗な光があたしを・・・・・」
僕たちはいつしか下に並んで座り込み、この暗い世界に来てから見た昔の男女の物語をそれぞれ語りあった。
「あたしたち、運命的出会いだったんだわ!」
ヤシロさんは僕をちらりと見てほほを染めた。
僕は・・・・・
ヤシロさんに好かれてすごく嬉しいけれど、素直に喜べない。
だって、僕は蔵人じゃないし、蔵人だったという自覚もない。
僕とヤシロさんはただ、楓さんと蔵人の代理で両想いの真似事になっているだけなんじゃないかって。
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130話 閑話 焦燥〈ミア〉
https://ncode.syosetu.com/n1205gr/130/
たぶん真ん中辺くらいかな?書いてあるよ。




