星屑のステージで ~数列催眠〈ヤシロ〉
近づいて分かった。
あの光は松ぼっくり電球。
たった一個の松ぼっくりが輝いていたの。
あたしが真下に行って見上げると、松ぼっくりが宙からあたしに柔らかな光の粒のシャワーを浴びせた。
キラキラキラッ・・・
またたく星屑がゆっくりふわふわ落ちてくる。
キレイ・・・・・
あたしは両腕を横に広げて星屑シャワーの中でくるくるダンス。
・・・なんだろ?いい気持ち。優しい春風に吹かれるような、柔らかな冬の日だまりみたいな。ふわふわ毛布に包まれるような。
癒され感。
まさか、この松ぼっくりはロードくんの机の上にあったあれと同じもの?
あれはロードくんのものだったの?
ねえ?
この不思議な一連の出来事はロードくんが起こしたなんて・・・?
まさかね。
キラキラのシャワーは終ってしまったけれど、星屑は下に落ちてもまたたくキラキラした光を放ったまま。
素敵な円形ステージの出来上がりね。
あたしは脚を伸ばして真ん中に座り込んだ。
うふふ、あたしだけの世界一素敵なステージ。
あたしは思ったより早くお星さまにたどり着けたけれど、残念ながらここにはロードくんはいなかった。
誰かがいた痕跡も無いみたい。
大きな声で呼んでみたけど応答なし。
そうだ!
あたしは今さらながら気がついた。
そういえば、ケータイかけてみればよかったじゃないの!
早速ポッケから出してみたけど、アンテナ立ってないし。三角ビックリマークついてるし。
一応ロードくんにかけてみたけど、やっぱ圏外だし無駄だった。
だよね~。知ってた。
アニメとかラノベの中ならこーゆー時つながったりしちゃうもんなのにね。ここ、サービス悪くない?
ま、仕方ないか。普段だってなんかのシステム障害だのなんだの圏外病だのでつながんないことあるのに、こんなところで都合良くつながるわけないよ。
仕方がないわ。ここで待つしかない。
他に当てもないし。
・・・・・ヒマ。
だからってイラついててもしょうがないもん。
こういう時は・・・平常心を失わないために素数を数えるってあったよね? ううん、それは安易すぎる。あたしは他のにするわ。そうね、フィボナッチ数列を数えるなんてどうかしら?
あは、フィボナッチってなんだか美味しそうな響きだわ。
フィボナッチクッキーとかフィボナッチドーナッツとかういのがあったらいい響きよね・・・あーん、なんだか食べたくなってきた・・・・・
ちょっとだけでいいからおやつ食べたい気分。
そういえば走ってもお腹も空かないし喉も渇いてない。
・・・やっぱりあたしは死んじゃってる?
生きてるような気がしてるんだけど、良くわかんないよ。
ええっと、とにかく行っくよー! 1、1、2、3、5、8、13、21、34・・・・・4181、6765、うーんと・・・10946・・・・・やばい、5桁に突入しちゃったよ・・・・・すーっ・・・はっ!今寝てた?・・・えっと次は・・・すーっ、すーっ、んぐっ、・・・・・あたし実は・・・数学弱者なのよね・・・5桁もう無理・・・・・数字の羅列って眠気を誘う・・・よ・・・・・
う・・・ううん
あれ?あたし、マジ寝してたみたい・・・
あたしはフィボナッチ数列を数えて早々に、数字の羅列という強大な魔力で催眠術にかけられて寝てしまったんだ!
やだぁ。あたしったらこんなとこで寝落ちしちゃって。
ま、誰もいないし、虫もいないし、へーきへーき!
あたしはあおむけにになって目を擦りながら空を見た。
真上には宙に浮いてる光る松ぼっくり。
さっきよりもちょっと鈍い光になってるみたい。
そうだった!
あたしはここでロードくんが来てくれるのを信じて待ってたんだった。
ん?
あおむけに寝てるあたしの目の左端に何かが映った。
ここには何にも無かったはず。
あたしは上を見たまま固まった。
そっち見るの怖いんですけど・・・・そういう訳にもいかないの。
・・・3、2、1いっせーのーで、えいっ!
あたしはあおむけ状態から、ゴロンと左側に転がって横向きになった。
あたしの目に飛び込んで来たのは、
人だ!
こちらに背を向けて座った男子。
この後ろ姿は・・・ロードくん!
あたしはガバッと上身を起こした。
「ロードくんっ!」
会いたかったよ!
・・・あれ?
振り向いてくれないわ。どうして?
あたしはハイハイしてロードくんの横まで行って顔を見た。
スー、スー、スー・・・・・
やだ、寝てるの・・・
膝立てて抱えて丸くなって。
ロードくんたらとても器用ね。こんな姿勢で寝ちゃうなんて。
・・・うふふ、きっとあたしが寝てたから起こさずに待っててくれたんだ。
ロードくんは相変わらず優しいのね。起こしてくれてよかったのに。
「じゃあ、あたしも起きるまで待っていてあげるね・・・」
あたしはロードくんの耳にそーっとささやいた。
ロードくん、こんな姿勢で寝ていたらは首が疲れてしまうわ。
あたしは隣に脚を伸ばして座ると、寝てるロードくんを、そっと横に倒してあたしの膝に乗せた。
ロードくんの頭の重みがあたしのももにかかる。
その重さがロードくんがここにいる確かな実感をあたしに与えてくれるの。
やっと、ロードくんに会えたの。よかった!
ここに来てくれるって信じてたよ。
あたしはロードくんの髪を撫でながら、寝顔をじっくりと観察。
ねぇ、ロードくん?
知らないでしょう?
ロードくんは誰よりも素敵。
今まであたしに告白してきた何人もの男子たちより。
あたしは心の中でロードくんに話しかけた。
・・・・あと、どれくらいで起きるんだろ?
じっとしてるのもヒマでやーね。
そうだ!お耳の中はきれいかしら?
ちょうど上を向いてるロードくんの左耳。
ついでに見てあげようっと。
ちょっと、失礼するわね、ロードくん。
ちょっとみみたぶを引っ張って・・・奥は・・・
うーん? 影になって暗くて見えないわ。
やっぱこんなとこじゃね。
あたしは耳の穴をふーってしておしまい。
あ、ロードくん、ぴくってした。
いけない。起こしてしまうとこだったわ。
眠っている横顔。
そのくちびるに目が行く。
だって、あたしロードくんと。
・・・あたしったら今思うと、なんて大胆なことしてしまったのかしら? 思い出したら恥ずかしい。
あの瞬間から離ればなれになっていたあたしたち。
どうしよう・・・ロードくんが起きたらまず何て言おう?
ロードくんは何て言ってくれる?
面と向かい合ったら恥ずかしいかも。
目を合わせらんないかも。
今まで、そんなこと思ったことなかったのに。
友達ではなくなったあたしとロードくんの初対面。
ちょっと緊張してきた。
早く起きて欲しいような欲しくないような。
そうよ!・・・なるべく普段と変わりなくさりげなくすれば・・・いいよね?
うん。




