眠れる君の横で ~背徳好意〈ロード〉
今、この暗い世界で、目印になるものはずっと向こうに見えるあの小さな金色の光だけ。
ヤシロさんもこの世界にいるのならばきっとあの光を目指してるはずなんだ。
あれだけが今は希望の光。
僕は一歩一歩、君を想いながら光源を目指す。
面妖な空間。時間の狭間で。
何もないただの暗い空間を歩く僕は、まるでぶ厚い低反発マットの上を歩いているような感覚。
僕はこの単調な時間にだんだん感覚が滞ってきた。
・・・・・歩き始めてどれくらい経った?
30分?1時間?半日?
僕はあの光に近づいているのか?
時間も距離の感覚もわからなくなってしまった。
それでも僕は進む。
あそこでヤシロさんに会えることを信じて。
こんなに歩いているのに疲労を感じないのはたぶん、あの松ぼっくりの力のせいだ。
ここにいる間は飲まず食わずでも平気のようだ。霊力は僕にも与えられているみたい。
僕はさっきの淑やかな天の声が言っていたことが気になる。
《あの部屋での異変もこの、過去への誘いも、お前たちが望んでいたからこそ起きたことじゃ。》
これまでの事は僕たちが望んでいたから起きただなんて。
僕たちが生き埋め寸前になることを望んでいたというの?
バカな。
・・・・・でも、そのお陰で僕とヤシロさんは。
僕は指でくちびるをなぞる。
僕はあの時、死が僕たちを別つことを拒んだ。
ようやく出会えた僕たちが離ればなれになるなんて。
それは絶対的に許せないと思った。
僕がどうなったとしてもヤシロさんだけはなんとか助けなければと思っていたはずなのに。
あの、切羽詰まった時に涌き出た感情は? 僕の前世と関係があるの? あの蔵人と。
《お前たちの魂が、かつてを思い出すことを要求しているのじゃ》
僕が僕に思い出して欲しいこと?
ヤシロさんの前世の楓さんとの悲恋のこと?
僕たちがかつてを知ったのなら今の僕は何かが変わるの?
過去の僕らは今の僕らに何を要求しているんだ?
僕は過去に操られているようで何だか気に染まない。
僕は僕なのに。
僕は蔵人なんて男は知らないんだ。
うわっ、とっとっと!
僕はむしゃくしゃしてエアキックしたらけつまずいてよろけてしまった。
うううっ・・・カッコ悪。誰もいなくてよかったな。
《ああ、イラつくぜ!お前、進むの遅くね? オラオラ、さっさと行けよ! あのねーちゃんの方はあんなに速えーってのに。お前ときたら・・・》
な、なんだ?!
ガラ悪い声がいきなり僕をディスって来た!
バサバサバサッ
鳥の翼の音?
「うわ〰️〰️〰️〰️〰️〰️〰️っ!」
どうなってんだ!
突風が吹いてきて僕は吹き飛ばされた!
僕は空中をぐるぐる回りながら放り出されて為す術なし。
目が回るーーーーー助けてくれ!
ボッスン・・・・
「痛ってって・・・・」
ぶ厚い低反発マットの上に抱き止められるかのようだった。
僕は着地したようだ。
待ってくれ・・・止まったのはいいけど・・・頭がくらくらして目が見えない、起き上がれない・・・・・
僕はどこに飛んで来たんだろう?
ダメだ。頭がふらふらだ。
僕はあおむけに寝転んだまま、暫くめまいが収まるのを待った。
あれ、ここはちょっとだけ明るいみたい。
まぶたの裏にうっすらと光を感じた。
僕はまぶたを瞬かせながら上を見た。
・・・・・着いてる。
あの金色の光の元へ。
目視であと、20メートルくらい?
思ったより低い空に所にそれはあった。
僕はようやくめまいも収まってきて、上半身を起こした。
あれ?何かある。
光の浮いてる辺りの下の地面が柔らかな光を放っていて、そこの中に何かあるみたい。
僕は目を細めてよく見ようと試みる。
あれは・・・・・?
光の絨毯の中に・・・・・人!
僕はあわてて立ち上がり駆け寄った。
あれは、もしかして!
ーーーそこにはヤシロさんが目を閉じて横たわっていた。
横向きに投げ出された両腕。
制服のスカートの乱れた裾から伸びたスラリとした脚もあらわに。
まっ、まさか!
「ヤシロさんっ!しっかりしてっ!」
僕の心臓はいきなり早鐘を打ち始めた。
「死んじゃだめだっ!ヤシロさんが死んじゃったら僕だって生きていられないっ!」
ヤシロさんのほほを軽く叩く。
・・・・・あ、
温かい・・・!
僕はヤシロさんの鼻に左耳を近づけた。
すーっ、すーっ、すーっ、すーっ・・・・・
寝てる・・・・・
なんだ・・・・・あー、びっくりした。
よかった。怪我もしてない様子。
僕は静かな寝息をたてて眠っているヤシロさんの顔をまじまじと見る。
だってこういう時じゃないとそんなにじっくりじろじろ見れないだろ?
僕はヤシロさんの横に並び、片腕で頭を支え寝そべった。
無防備にかわいい寝顔を僕にさらしている君。
初めて見るヤシロさんの寝顔。
こんな至近距離で。
急にぱっと目を開けたりするんじゃないかってドキドキする。
僕はちょっとした背徳感。
ほんのちょっとだけくちびるが開いてて、隙間から白い前歯が顔をのぞかせてる。
「・・・・・・」
やばい。僕は自分を抑える事が出来ない。
ーーーこれだけだから許して。
・・・そっと、彼女のくちびるを奪った。
・・・後は、5歩ほど後ろに下がり、ヤシロさんに背中を向けて、なるべく見ないようにして理性を保ちつつ、でも、時々、振り返って無事を確認しつつ・・・僕は膝を抱えて座って彼女が起きるのを待った。
ヤシロさんを見つけられて僕はすごく安堵して、今まで硬直していた体と心からフッと力が抜けていた。
いつの間にか僕まで眠ってしまっていたなんて。




