怪奇の源 ~自己起因〈ロード〉
・・・暗転していた視界が開いてゆく。
ここは?
・・・・・さっきとは違う場面だ。
ここは、物置小屋の中。
先ほど見た横に朝顔の咲いていたあの小屋の中?
夜遅い時間のようだ。
小さな蝋燭で照らされている。
揺らぐ小さな炎と影。
鈍く橙色に照らされた二人の顔。
見つめ合う蔵人と楓さん。
これは、たぶん前世の僕とヤシロさん。
だからって、こんなに僕らにそっくりなんてあり得るの?
それは、僕とヤシロさんに、この蔵人と楓さんの時の魂の記憶が強く濃く現れたと言うことなのだろうか?
だったら僕の魂とヤシロさんの魂は、この二人だった時代に色濃く染められたんだ。
たとえ神様に洗われたって、まっさらにはならないくらいに。
そんなに強い思念が? この二人に?
・・・・なにやらこの二人はお家の事情で別れなければならないようだということが会話から推測されるけど。
そんなこと、この時代普通なんじゃないかな?
それほどの強い思念を宿らせる出来事とは思えない。
なのになぜ、僕は蔵人そのままに、ヤシロさんは楓さんそのままの姿に生まれて来た?
この楓さんは亡くなった姫君の身代わりに身分高き高官の縁者の家に側室として送り込まれるらしい。
「あたし、もう戻らなければならないわ・・・」
上気した顔の楓さん。
着崩れた着物。
ほのかな色香が漂っている。
「いざ、お別れなのです・・・でも楓は今夜のことは一生忘れないの。蔵人様・・・・・」
「私とて。楓・・・・・」
蔵人がいとおしそうに楓さんのほほを手で包み込んだ。
「あたしは・・・きっとこの先も蔵人様だけをお慕いしているのですわ。たとえ・・・死んじゃっても・・・」
「私とて楓以外の女など眼中に入らぬ・・・・・」
「・・・蔵人様・・・・・あたしっ・・・くすんっ、さようならっ・・・」
楓さんは蔵人の手を振り払い、半泣きで小屋から走り去って行った。
追うこともなく佇む蔵人の顔は、苦渋を隠すこともなく歪んでいる。
暗転。
・・・愛し合っていた僕とヤシロさんの過去?
それを僕に見せるのが贈り物?
僕は暗闇で困惑している。
どうして僕は僕になったんだ?
どうしてヤシロさんはヤシロさんになったんだ?
確かに哀れな恋人同士だけれど、そこまで特別な事はないように見える。
『ヤシロさーん! どこだー! 返事をしてー! 僕はここだよ』
僕はやみくもに暗闇に叫ぶ。
とにかく君の無事を確認しなければ僕の心は急くばかり。
『誰でもいいから返事をしてくれー!』
黒鮒様はもう、答えてはくれないのだろうか?
《妾は楓のことは黙って見守っていた。それだけのつもりだったのだが、キザシ様が勝手にのう、お前に与えてしまったから・・・》
唐突に頭に呟く声が入って来た。
これってまたもや天の声。
今度は淑やかな女の子の声で。
この怪奇はこの声の主の仕業なのかっ?
『誰なんだっ? これはあなたからの贈り物なのっ? ヤシロさんはどこだ! 無事なんだろうなっ? ヤシロさんを生き埋めにする恐ろしい目に遭わせるなんて、どういうつもりだ!』
《おうおう? これを引き起こしているのはお前たち自身だというのに・・・・・》
『ちょっ?僕たちが・・・?僕たちがこれを起こしているというの?そんなこと出来るわけないだろ!』
《これはお前と楓、いや、今はヤシロか。お前とヤシロの心が起こしたこと。お前たちが望んだから起きたこと。自覚のある無しに関わらずに。妾の松ぼっくりの力を使ってな》
《お前が楓の絵を描き言霊を文字に書き想いを伝え、楓も言霊でお前に想いを伝えた。お前たちの想いは表明された。それゆえ妾の魔炎松ぼっくりは発動したのじゃ。》
《あの部屋での異変もこの、過去への誘いも、お前たちが望んでいたからこそ起きたことじゃ。》
《お前たちの魂が、かつてを思い出すことを要求しているのじゃ》
《それにな、あの霊力の込められた松ぼっくりはいかにも妾からの年に一度の贈り物じゃ。だが、あれはこの城に集う誰もが受け取る権利があるのじゃ。特段お前宛に贈ったものではない。あれはキザシ様が絵の礼だとか言って・・・まあ、どのような過程で誰があれを得ようと妾は構わぬが。島田に全部隠されてしまってはつまらぬしな》
『あの松ぼっくり・・・霊鳥キザシが・・・僕に・・・?キザシは実在してるんだ、今も!』
《・・・さあ、残された霊力は多くもあるまい。お前たちの魂がまだ欲していることはなんじゃ?妾はもう行く。後はただ結末まで見守っておる》
『待って、あなたは誰だっ? 答えてください!』
・・・・・
返答はない。
『ヤシロさんの無事だけでも教えてっ!お願いだっ!』
・・・・・
ダメだ。
行ってしまった・・・・・
ヤシロさん・・・・・
どこだ・・・・・返事をして。
僕は・・・僕は本当に弱くて、なんの力も無くって・・・こんな男だけど・・・でも、君のこと、大好きなんだ・・・
返事をしてくれよ・・・・・ねぇ?
ねぇ。
キラキラッ
・・・にじんでる僕の目に、はるか向こうにひとつの金色の光が映った。
ずいぶん遠くみたい。
でも、今はそれに向かって行ってみるしか無さそうだ。
僕は涙で霞んだ目を手の甲で拭って、
ーーー歩き出した。




