夭逝の姫君 ~人身供犠〈ヤシロ〉
ここは・・・・
眩しい。
今度は明るい所へ飛ばされた。
あたしはまともに目を開くことができないわ。
お願い、ちょっと待って・・・・・
泣き声。
人々のすすり泣きが聴こえる。
あたしはやっと目が慣れてきて、薄目を開けて辺りを見回す。
ここはさっき見たわ。あの蓮津姫様のお部屋だ。
布団で寝ているあの美しいお姫様の手を取って女の人が泣いてる。
その横にいるのはお殿様?
楓ちゃんが・・・・・隅っこでもう涙でぐちゃぐちゃのお顔。
お姫様の枕元に座ってる学者風のこのおじいちゃん、お医者さんみたい。険しい顔。
まぶたをめくり首筋の脈を触った。
横に首を振る。
まさか。
お姫様が亡くなったの。
あの透き通るような肌の美しいお姫様が。
更に一気に悲嘆に暮れる面々。
「ああ、蓮津を嫁がすこと叶わず。幕府大目付大高見澤様はどのような嫌がらせを我が藩にしてくることか。那津姫も、蓮津姫までもこんなに早々と世を去ってしまうとは・・・・・無念」
お殿様は姫様の事より先に藩のこと心配してる。
これはこの時代では仕方がない事なの?
「ああ、憎きあの亡霊め!死んでもなお蓮津につき纏うとは!」
美しい中年女性が憎々しげに気炎を上げている。
この人、たぶん蓮津姫様の母上様なのね。
目元が似ているわ。
亡霊って?
蓮津姫様はマジで何かの悪霊に魅いられていたの?
「何故、札を剥がしたっ、楓!!」
その気炎は方向を変え、楓ちゃんに向かった。
「申し訳ありませぬ。姫様の命令で、あたし・・・あたし・・・うえーんっ」
袖で顔を覆ってますます泣き出した。
あたしも見てたよ!
楓ちゃんは命令に従っただけだよ。しぶしぶに。
「こうなっては仕方がない。蓮津には及ばぬもののこの楓も相当の器量よし。きっとお気に召されよう。代わりに側室へと差し出してみてはどうか?多少は風当たりを弱められようぞ」
お殿様に姫様の母上らしき人は言った。
何それっ!
人身御供だよ!ひどい!
これも藩のため?お城のため?
「蓮津が亡くなってしまった今、楓の仕事も無くなった。丁度いいではないか。悪霊避けの札を剥がした責任もとって貰わねばならぬ」
「ううん、しかしそれでは楓が余りにも哀れではないか」
そうだ、そうだー! お殿様がんばれー!
「楓があの祈祷を込められた札を剥がさなければ今日このようなことにはならなかったのじゃ。我が娘、蓮津の身代わりをするのは当然であるぞ」
「そ、それはどうかお許し下さいませ、お蘭の方様!」
「・・・そうじゃ、楓が剥がさなくても蓮津は自分で剥がしたであろう。いつもそうだったではないか・・・」
お殿様、押されぎみよ。もっと何か言ってやってよ!
楓ちゃんがガチピンチなのよ!
「いえ、楓は自業自得じゃ。そのかわり、妾が全面的に後見いたそうぞ、妾の行儀見習いの後は大名家の養女となるのじゃ。それから輿入れさせようぞ。これは妾の命令じゃ。だが嫌なら断るがよい。その覚悟があるのならば」
ひどいよ!
みんな!姫様が亡くなった途端にこんなこと!
楓ちゃんはどうなっちゃうの?
あたしにそっくりなんだもん。親近感ありすぎであたし、どうにかしてあげたいわ。
「楓にだって身の程余る玉の輿じゃ。幕府大目付大高見澤様の縁者になるのだから。これが上手く行けばご両親も喜ばれよう。楓のお家だって安泰じゃ、のう、楓?」
「でっ、でも・・・・うえーん、うえーんっ」
「まだまだ子どもよのう。礼儀作法がまだまだじゃ。蓮津は楓を相当甘やかしていたと見える」
お蘭の方様は、眠りながらもわずかに微笑んでいるかのようにも見える、死してもなお美しい蓮津姫の頬を撫でながら言った。
「親不孝な娘じゃ。恋に落ち恋に死んでゆくとは・・・・・」
お蘭の方の頬を涙が伝った。
娘の死を悲しむのは藩政を気にした後なんて・・・・・
個人的感情は二の次。
なんて厳しい時代。
嗚呼!全てがなんて厳しいのよ?
昔の恋愛事情!
好きな人とは結婚出来ないの?
楓ちゃんは蔵人さんと結ばれる事ができないなんて!
個人の意思なんて、全く尊重されないのね・・・
もうなったら駆け落ちするしかないよ。
・・・・・でも、逆らったらお家が大変な事になっちゃうのかしら?
ああー、無力。生まれ落ちたら最後、ヒエラルキー社会から逃げらんない。
恐るべし、封建時代。身分格差。
今の世界に生きていたら少なくともこんなことにはなんなかったのに、可哀想。
上司に結婚を強制されて断れないってことだよね?
いくらなんでもそれはないよ!
今の世界でだったら・・・・・
こんな事には・・・・・
フっ・・・・・
『えっ?・・・うきゃーっ!』
あたしは突然現れた闇に飲み込まれた。
でも何か、この感覚、慣れてきたかも。
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