閑話 新たなる城にて秀逸な俺発見〈霊鳥大鷲キザシ〉
ここは三途の川の上流にある断崖絶壁の中ほどにある俺と那津の家。
那津は俺の妻。俺の唯一無二の女。
俺たちはもう眠る準備をし、那津は俺の首の後ろの羽毛に顔を埋め、小さな手で俺の首をくすぐりながらおしゃべりを始めた。
俺はくすぐったくて首をすくめる。
「そうそうそうじゃった!聞くのじゃ、キザシ!今日な、妾の新しい城でな、実に秀逸な品を見つけたのじゃ!」
那津は今日も夕暮れまで、現世にある落花生高校という場所へ遊びに行っていた。
那津は生前に過ごしていた落花生城の跡に出来た落花生高校を、自分の城だ! という設定にしているのだ。
「秀逸な品って・・・何だ?」
「キザシじゃ!」
「俺・・・?」
「そうじゃ!あれはキザシに生き写しじゃ。いいや、有り体より3割5分増しに勇猛で端麗に見栄え天晴れに描かれておってな! 明日の夜にでも一緒に見に行こうぞ。あそこは夜なら誰もいなくなるでの。キザシが来ても大丈夫じゃ」
俺は以前一回だけ、現世にある落花生高校に行ったことはあるが。
明日行くとしたら、あれ以来だな。
那津が生まれた城は那津が死んで暫く後に既に取り壊されてしまっていた。
だが、30年ほど前だったかな? 以前とは趣のずいぶんと異なる城が建てられた、と霊魚で黄金の鯉の成瀬から、そんな噂を耳にしたのだった。
那津はそれを聞いた時には大変な喜びようだった。
そんで、どうしても行くのじゃ!妾はぜーったい行く!と言い張った。
結局、姉の蓮津姫も誘い、俺と3人、現世と霊界を自由に行き来出来る黄金の鯉族の成瀬に連れられ、物見遊山に行くに至った。
成瀬は、その新たな城とやらの池でくつろいで待っているというので、俺たちは3人で城の中を見て回ることになった。成瀬のおやじは水から離れるのはあまり好きではようだ。
そこは俺が知っている城とずいぶん違っていた。
なんつーか、飾り気のねぇ情緒がない城だった。
那津と蓮津は霊体だから人間からは見えないが俺はそうじゃない。
だから俺は一応前もって大鷲から人の姿に変化していた。ってか、俺の本当の姿では大抵の家屋は狭すぎて入れやしねーからな。
早速俺たちが入った時、城の中は静かなもんだったのだが、鐘の音が鳴り響いたとたん急にあっちもこっちも騒がしくなった。
あちこちの部屋からわらわらと人が出てくるじゃないか!
この城の中にいる人間は、たまに年とった奴も混じってたけどほとんどが見かけは俺と同じくらいの年かさの若い男女ばかりだった。
ただ、こいつらの見かけの年齢は俺と同じくらいだけど俺とこいつらとは全く違う。
こいつら人間どもはこれでも20年も生きちゃいないくらいなんだろ?
俺だって霊界ではまだまだガキの部類だけど、えっと?人間で言うと何歳だっけ?後で那津に聞いとくわ。とにかく俺はこいつらの何十倍も生きてる。
鐘の音の直後から、廊下にわらわら現れた若いやつら。
遠巻きにチラチラ俺を見て、『ヲタがいる』だのこそこそ言ってるやつらもいれば、キャイキャイしながら俺に寄って来るやつらもいて、『何でコスプレしてんの?』 とか、『ヤバいよ、お前!そのカッコ!』、『お前なんか獣臭っせーぞ、ちゃんと風呂入れよ!』 だの『きゃー!カッコいい!写真撮らせて』 だの。
クソうざかったので俺は完全シカトしていた。
何だよ?俺が霊獣大猿の皮をなめして作ったこの衣装が何だってんだ?
そのうち、じじいと、筋肉質の男が俺の前に現れ、
『君、ここは関係者以外は立ち入り禁止ですよ!』
と言って来たので俺は、
『この城は那津と蓮津の城なんだろ?だったら俺は関係あんだろ』
と答えた。
そしたらそいつら二人、困ったような微妙な顔して目線をかわしてから、
『ここは、昔は確かに落花生城でしたが、ここはもう高校に変わったわけでして、生徒たちの勉学の妨げになるので速やかに退去してください』
と言われてしまった。
何だよ!
高校ってなんだよ?よくわかんねーけど変わっちまったんだな?
じゃあ、ここはもう那津の城じゃねーじゃんか。
『ここはもう城じゃねーのかよ?』
って間違いじゃねーか聞いたら、
『それはずーっと昔のことですからね。君は歴史ファンなのかな?史跡を辿るのもいいけれど、もうね、ここは学舎になったんですよ。子どもたちが勉強中ですからお静かに退去してください』
と、怒った顔で言われた。
俺は那津と蓮津に
『こいつら、こう言ってるぜ?ちげーじゃん。もう帰ろうぜ』
と言ったが、那津と蓮津は俺の言うことを無視しやがって、
『そのような者らがなんと言おうとここにある以上、妾たちの城じゃ。その者らがのたまうことに構うでない!』
などとぬかして、気にすることなくあちこち珍しそうに見てる。
俺は困っちまった。
ここはもう那津の城じゃねぇ。
俺だってそれくらい見りゃ分かる。
時が過ぎりゃいろいろ変わるのは世の常。
もし、こいつらが力ずくで那津の新しい城を占拠してるってことならば俺だってこいつらまとめて殺っちまってもいいんだが、そうじゃねぇみてーだし。
第一ここは現世だ。俺は現世で罪も無ぇ人を殺ってここを乗っ取るなんて非道はしねーよ。
いくら愛する那津のためでもな。それは俺の趣味じゃねぇ。
・・・ま、ほっときゃいいか。
どうせ、那津も蓮津も人間からは見えはしねーし、ここを自分たちの城だって言い張ろうが誰も困んねーだろ?
『じゃ、俺は成瀬のおやじと池で待ってっからよ!』
そう那津と蓮津に言うと、
『キザシは先に家に帰っていいのじゃ。我らはここをじっくり見たいでの。この城はなかなか興味深い。三途の川も賽の河原も変わり映えしないし退屈じゃ。我ら暫くここにとどまるとするのじゃ。わーいわーい!楽しいのじゃーっ!』
ったくよ。
那津ははしゃいで長い廊下を駆けてゆく。
蓮津は言った。
『キザシ様、那津様はわたくしが見ておりますゆえご心配には及びませんわ。帰りたくなったら、言いますから。どうせ、わたくしたちにつけたこの印で霊界からわたくしたちを監視しているのでしょう?』
まあな。俺は霊界からだって那津の動向は全てお見通しだ。
蓮津の様子は、あのクソ野郎の黄金の鯉の蓮津の夫、七瀬がいつだって見張ってんのは当然だろ。
『しゃーねーな。でもな、おかしな霊に襲われたら困んだろ?俺がこの城に結界張っといてやっからよ。こっから出んなよ?だがこれはひと月くらいしかもたねーぜ? それ以降はまた霊力補給しねーと消えちまう。ま、ひと月もありゃ、お前らもここに飽きんだろ? それまでには帰れよっ』
『ありがとう存じます、キザシ様。そうですわね、霊界に戻るのは那津様次第ですわ。キザシ様は安心してわたくしに那津様のことはお任せくださいまし』
蓮津は俺の右手を綺麗な手で優しく包み込みながら美しく微笑んだ。
はぁ・・・
七瀬はこれで蓮津にやられちまったんだ。あのクソ気難い冷酷な男、七瀬をも転がす蓮津。
蓮津はいつだって誰よりも那津が一番大事。
もちろん自分の旦那より。
俺はもうこうなったらどうにもなんねぇし。
那津のことは蓮津に頼んで先に霊界に戻ったのだった。
結局、ひと月、ふた月、三月経っても戻ってこなかったけどな。そん時はさ。
那津がいない間に俺は何人の女から言い寄られたと思ってんの?
少しは俺の心配もして欲しい所だせ?那津姫様よ。




