逢い引き ~叙情姿絵〈ヤシロ〉
あれれ?
あたし、今度はどこに来ちゃったの?
うっわ!なんだか汚いお部屋ね。
っていうか、下は土間じゃない。固められた土だわ。
周りに人の気配はない。
外からはふくろうみたいなホォー、ホォーって鳥の声と、かさかさと木々を揺らす風の音が聴こえてくる。
月明かりが隙間だらけの木の壁の隙間から漏れて、地面に何本もの線を作っている。
薄暗いけど、お月様のお陰でここの様子は見える。
見回すと、周りには、ごちゃごちゃと樽やら太っとい縄やら木で出来たリヤカーみたいなのとか。みのと笠っていうの?この藁できた壁にかけてあるやつ。すごく昔っぽい。
物置小屋ね。
台風がきたら飛んでいってしまいそうだね。
・・・・・ヒタヒタヒタヒタ、ピタッ
なになにっ?
あたしの耳にかすかな足音が。
ガサッ・・・
入口の戸がちょっと動いた!
うわっ!誰か来たよっ!
だれかが戸を注意深く開けた。
月明かりに照らされて現れたその人は!
『ロードくんっ!』
あたしは叫んだ。
『今までどこにいたのっ!あたし・・・』
あたしは思わず抱きついた。
スカっ・・・・・
ロードくんの体を通り過ぎてしまった。
さっきと同じだ。
でも、これはロードくんそのままだわ。
変な着物着てるけど。
あたしのドッペルの楓ちゃんはあたしより幼かったけれど、このロードくんはロードくんとおんなじくらいに見える。
すぐそこにあるリヤカーの後ろから声がした。
「蔵人様っ!」
やだっ!こんなとこからほほを染めてキラキラお目々の楓ちゃんが登場したっ!
全然気がつかなかったわ。
奥に隠れてたんだ。息を潜めて。
「楓殿!」
ロードくんのドッペルくんの蔵人くんとあたしのドッペルちゃんの楓ちゃん。
隠れて付き合ってるんだ!
ここは二人の秘密のデートプレイスなのね。うふふ。
でも、何で隠れて?何か事情があるのかしら?
うーん、もしかして、昔は今より更に自由ではないのかもね。身分とか家柄とかで。
「あ、あのっ。あたし、文を書いてきましたのよ?はいっ、これ。帰ってから読んで下さいませ」
楓ちゃんは帯の間から細長い白い折り畳んだ紙を取り出して、恥ずかしそうに上目遣いで差し出した。
「ありがとう、楓。私も描いてきたんだ。ほら、見て。楓に似ているだろう?」
蔵人くんが袖のたもとから取り出したのは、墨と筆で描かれた楓ちゃんの似顔絵。
きゃー!好きな人のイラスト描いて贈るなんて素敵な人ね。
さすがロードくんのドッペルくん。
「楓を・・・思い浮かべながら描いたんだ」
自分から見せたくせにすごく、照れてる。
「もうっ!こんな癖毛までそのまま描かないでくださいませ!絵の中でくらいはまっすぐがいいのですわ」
「何を言っているんだ!楓はそんなことを気にしていたのか?楓はそのままでこんなにも・・・美しいのに」
楓ちゃんをいとおしそうに見つめる蔵人くん。
うんうん、いいんじゃない?
ありのままを愛してくれるなんて素敵ではないですか。
ん?
待って!!
ちょっと待って!!
今朝の教室でのあのシチュエーション・・・
今日会ったらいきなり雰囲気変わっていたロードくん。
話し方も髪型までおしゃれに変わってた。
それに、わざわざ目を瞑らせて目隠しさせてから描いた絵を見せるなんて、ちょっと子どもっぽく思ってたけど・・・
ロードくんが黒板にあたしの絵を描いてたのって・・・・・もしかして、あたしに告白していたの?
嫌だ、あたし、気がつかなかった・・・・・
って事はよ?
・・・・・あたしが砂に埋もれて焦って強硬手段に出たより前にロードくんはあたしに告白してくれてたってこと?
きゃいん。何だかとても嬉しいの。ロードくん・・・・・
ねぇ、ロードくん、どこにいるの?あたしはここだよ!
すっごく会いたくなっちゃったよ。
おーい!聞こえませんかー?
おーい!ロードくーん!
「あたし・・・蔵人様が師匠の秋雅様から一人前の絵師として認めていただけるまで、いつまでだってお待ちしてるの。だからがんばって下さいませ」
「・・・楓。でも、私は知っている。楓には既に有望な藩士からの縁談が持ち上がっていると聞いた。私ごとき町人では太刀打ち出来まい」
「・・・・・あっ、あたし、そんなものは決して受けはしないのですわ。だって、あたしは・・・・・あたしの好いておりますのは・・・」
「楓・・・・・」
「蔵人様・・・・・」
きゃー!
だめだめ!見ちゃだめだわっ!
まるで自分のラブシーンを見ているみたいじゃない!
楓ちゃんたら、やめて~!
ふっ・・・・・
灯りが消えた。
・・・・・・またこの暗闇に戻ってしまった。
この青いホタルのような光。
あたしとロードくんにそっくりな、すごく昔の人の二人の物語を見せてくるの。
さあ、次は何が起こるの?
どんなストーリー?
まだ、三つ残っているわ。
さあ、おいで。
あたしの手のひらに。
青い灯火さん。
あたしが水をすくうように両手を差し出すと、ふわふわ飛び回っていた一つが、自ら飛び込んできた。
・・・・・次は何を見せてくれるの?
・・・・・ロードくんも今、あたしと同じことを?
そんな気がするわ。
そうなんでしょう?
神様。
こんなこと出来るのは神様だけよ。




