ドッペルゲンガー ~暗黒世界〈ヤシロ〉
ジリジリ迫る砂は止まらない。
あたしたちは砂に吸い込まれてゆく。
もう、肩まで来た。
「ヤシロさん・・・僕は・・・・・あの日からずっとヤシロさんのこと想ってた」
ロードくんが、いとおしそうにあたしを見てる。
「ありがとう、ロードくん・・・好きよ・・・」
せっかくお互いの気持ちが通じあったのにね。
あたしたちはもう・・・だめだ。
その間にも徐々に砂に埋もれていくあたしたち。
「怖いよ・・・ロードくん・・・」
「僕も。でも、ヤシロさんと一緒だから。」
ロードくんは優しい瞳のまま、わずかな笑みを浮かべた。
「うん・・・・・」
ただ、さらさらと砂の流れる音・・・・・
二人きりの世界。
あたしの腕はロードくんの頭を抱えたまま。
もう、動けやしないの。
もう・・・・・諦めるしかないのね。
消えた一縷の希望。
あたしはロードくんの頭を軽く押して口づけを促した。
ロードくんに、想いが通じてよかった・・・・・
あたしの人生で、たった一度の恋。
人生の最後の最期に。
甘くてドラマチックで残酷な結末。
あたしとロードくんが最期のキスを交わした瞬間、
ーーー目の前が真っ暗になった。
真っ暗な世界。
あたしたち、死んじゃったの?
死後の世界に来ちゃったの?
ロードくん?
・・・・・どこ?
あたしはここにいるよ!
抱き合ってたはずなのに。
どこに行っちゃたの?
ロードくーん!おーい!
あたしは大きな声で叫んでいるのにロードくんの返事は無い。
近くにはいないのかな・・・・・
一体ここはどこなの?
どうなっちゃってんのよ?
ああ、何も見えないわ。怖いよ。ロードくん。早く来て!
手探りしてみても、何にもぶつからない。
・・・・・あたし、もしかして浮いてる? まさかね。
地面に足ついてるような、ついてないような。
不思議な感覚。
あれっ?
不意に後ろからわずかな明かりを感じた。
振り向いたら、ライトブルーの美しいホタルみたいな灯りがひとつ、ふわふわしてる。
ぽこっ、ぽこっ、ぽこっ・・・・
同じブルーの光の灯りが次々増えて5つ、あたしの周りを漂いはじめた。
消え残る光の筋を描きながらふわふわと舞う美しいブルーの小さな灯り。
キレイだね・・・・・
夢みたい。
これは何?
あたしはその一つに手を伸ばして触れた。
ーーーーーその瞬間。
うぇっ?
ここはどこ?
でも、さっきの暗闇からは脱出出来たようね。よかったぁ。
あたしはいつの間にか四角い木枠の灯籠の灯った小さな和室に立っていた。
いつの間にか夜になっちゃってたみたい。
あたしは朝の教室にいたのに。
あたしの目の前には二つ結びの女の子が向こうを向いて正座して座っていた。
その着物姿の女の子は小さな台に乗せた鏡を覗きながら、結んだ黒髪の先端を左右の手で握って引っ張り、ぶつぶつ言っている。
「もうーっ!このうねうね、伸びろー伸びろーっ、蓮津姫様のようなまっすぐになあれ!」
あたしはその子に声をかけた。
『あの、夜分恐れ入りますが、あたし、迷子になってしまいまして・・・・』
「・・・はぁ。だめだわ。時間に遅れちゃうよ!もう行かなきゃ」
・・・・・シカトされた。
『あの、すみません!』
後ろから女の子の肩を叩いた。
スカっ・・・・・
空振り。
あたし、触れない! あたし、お化けなんだっ!?
それでも眉をしかめて振り向いたその女の子は・・・・・
あたし!あたしのドッペルゲンガーだっ!
昔のあたし!
まるっきし中学生頃のあたしそのまんまだよ!
『ぎゃ〰️〰️〰️!』
あたしは思わず叫んでしまったけれど、あたしのドッペルちゃんは不思議そうに、きょときょと後ろを見回した。
「ん?なんか誰かに呼ばれたような・・・? 気のせいかしら?なんか気持ち悪っ。蓮津姫様は大丈夫かしら? もう一度覗いてみようっと。」
あたしのドッペルちゃんにはあたしが見えてないんだわ!
声も聞こえてない。
あたしが死んじゃったから?
ドッペルちゃんは襖を開けると隣の部屋は、一回り広くて豪華にコーディネートされた和室だった。
但し・・・・
何なのかしら?部屋中にお札がベタベタと貼り付けられて。
何かのおまじない?
真ん中に敷かれたふわふわのお布団に誰か寝ているみたい。
あたしはドッペルちゃんに続いてあたしもその部屋に入った。
「大丈夫だわ。ちゃんと眠れているみたい。最近はますますお加減が優れないご様子。無理もないことですわ・・・お可哀想に・・・姫様」
布団の横にそっと座ってそのお姫様とやらのお顔を覗いてしんみりしているドッペルちゃん。
「・・・・・楓」
寝ているお姫様が寝たまましゃべった!
「うわっ!蓮津姫様。申し訳ございませぬ。あたしっ・・・起こしてしまいましたわ。」
「いいのよ。わたくし、本当は眠ってはいなかったのです」
「・・・そう・・・でしたか」
ふっと目を開けた蓮津姫様とやら!
なんて綺麗な人なのかしら!
透き通るような肌。
病的なほど。
「うふふっ、がっかりしなくてもよろしいのよ?楓。行ってらっしゃいな。約束があるのでしょう?わたくし、楓のために寝た振りをしてさしあげていたのよ?」
「・・・・・姫様っ!」
「うふふっ」
蓮津姫様がふわりと微笑んだ。
なのに、あたしのドッペルちゃんはなぜか泣きそうな顔になってる。
「・・・・・ごめんなさい、姫様」
「・・・・・いいのよ。行ってらっしゃい」
「でも・・・・・・」
「わたくしはいつも楓のその明るいお顔で救われているの。楓の元気の源はわたくし、知っていてよ?気をつけて行ってらっしゃいな」
「で、でも・・・本当にいいのですか?蓮津姫様・・・あたし・・・姫様に申し訳ないのです」
「・・・楓、わたくしはね、見てみたいの。想いを貫いて幸せになる恋人たちを。そんな人を見てみたいのよ・・・」
「・・・・・姫様、あたし・・・」
「さあ、他の者に見つかりますよ。早くお行きなさいな、楓」
「・・・ありがとう存じます。いっときほどで帰りますわ。」
「ただし、行く前に部屋のお札を全て剥がしてちょうだい。それが条件よ、楓」
「で、でも!蓮津様、それでは悪霊が来てしまいますっ!あたし、お蘭の方様から聞いております。姫様はとてもしつこい悪霊に魅いられているとのこと」
「いいこと?これは命令よ、楓。それにそれはお母様の妄想よ。悪霊なんて来てないわ・・・わたくし見たことも無くてよ?」
「・・・そうなのですか?姫様」
「そうよ、楓」
「まっ、どうせ、姫様はいつも自分で剥がしてしまわれるし、あたしが剥がしたっておんなじね・・・」
楓ちゃんは小さな声で呟いた。
あたしのドッペルちゃんの楓ちゃんは正座したままふかぶかとお辞儀をして、仕方なさそうにお札を剥がしてから部屋を出た。
ふっ・・・・
辺りがまた黒くなってしまった。
あれれ?あたしはまたもや暗闇の空間に戻ってしまったようだわ。
漂う4つの青いホタル火。
不思議な光。これは・・・・・もしかして。
あたしは一番近くに漂う光に両手を伸ばした。




