溶解そして埋没 ~怪異進行〈ヤシロ〉
教室の大きな前黒板の真ん中には・・・・・
これ、あたし?
露に濡れた大輪の朝顔の花を背景に、ちょっとはにかんだ表情の制服姿の女の子の顔。胸元に添えられた柔らかい仕草の右手
右下にはあのロードくんのサイン。
すごい!!
ロードくんって魔法の手だ!
「・・・あの、これあたし?あたしをこんなに綺麗に描いてくれて、ありがとう!でも、どうしたの?急に・・・・・」
今からリアのサプライズするのにあたしのイラストって・・・
もしかして・・・金曜日にあたしの相談を断った事へのお詫びとか?
あたしは困惑して教室の後ろから前黒板の隅っこに立っているロードくんを見た。
なんだろ?
今日のロードくんはなんとなくいつもと違うように感じるの。
髪を切ったせいかしら?
目が合ったロードくんがいつもよりさわやか声で言った。
「ヤシロさん。僕にあの質問をしてくれないかな?」
「あの質問って?」
「ヤシロさんが聞き損なっている僕の答えを言うから。」
「・・・ああ、あれね?いいよ、いくよ?あたしはロードくんの名前を1年前から知っていました。それはどうしてでしょう?」
あたしはこれをロードくんに聞くのは三度目の正直!
ロードくんははてさて何て言う?
「それはヤシロさんが去年、創作文化部部室前の展示を見たから。僕の描いた3枚のイラストも張り出されてた。下に名前もつけて」
「えっ!・・・・・あたしが見たの、知ってたの?」
「・・・だって、あの時、ヤシロさんは部室に入ろうとしていた僕に聞いたんだ。『賽ノ宮ロウドさんって知ってますか?』って」
「あっあたしっ!ロードくんにロードくんのこと聞いてたのっ?」
「思い出した?」
「覚えてるよ・・・でも・・・だって、あの人は・・・髪の毛短い感じだったと思うわ。メガネもかけてたような・・・?あれがロードくん・・・?」
「・・・ああ、そういえば・・・刈り上げ部分があるとしょっちゅうカットしなきゃなんないし、面倒だから伸ばすことにしたんだ。それにぼく、今年からコンタクトに変えた。楽だし。」
「そうだったのね・・・。あまりにも変わっていたから気づかなかったわ。でも、どうして知らない振りしたの?それは僕だって言ってくれればよかったじゃない!」
「嘘になって・・・ごめん・・・でも、ヤシロさんは僕の絵を見て賽ノ宮ロウドが素敵な人だって妄想になっていたから、僕はとても言い出せなかったんだ。」
「何言ってるの? ロードくんは素敵な人に決まってるじゃない!」
「・・・いいんだ、ヤシロさん。そんな気を使わなくたって。」
自嘲気味に嗤うロードくん。
そんなんじゃないのよ!あたしは本当に・・・・・
「気を使うって・・・? 違うよっ!ロードくんは本当に素敵な人なのよ?あたし知ってるから!」
もう、あたし今、言っちゃえ!
「あたし、ロードくんのこと好きだから!」
「・・・ありがとう。ヤシロさんが友だちになってくれて本当にうれしいよ。」
違うよ!あたしの言ってること全然通じてないよっ!
ロードくんの鈍感っ!こんなにはっきり言ってるのに!
あたし、ロードくんのこと、友だちとして好きだけじゃ無いのよ!
「あのっ、ヤシロさん!聞いて。僕もヤシロさんが・・・」
あれれ?
空気が歪んだような気がした。
地震?
・・・・・違う!
これはそうじゃない。
すぐそこにあるロードくんの机の上。置いてあるのあれ、松ぼっくり?
あの松ぼっくりが変!
見た目はただの松ぼっくりなのだけれど?
見えない何かを感じる・・・・・
なぜかしら? 肌がさわさわする・・・・・
はぇっ? 教室の壁が・・・ゆがんでふにゃんって・・・?
なにこれっ!
「ロードくんっ!」
あたしは並んだ机をすり抜けてロードくんに駆け寄る。
「ヤシロさんっ!」
青ざめたロードくんがガンガン机にぶつかりながらあたしに駆け寄ってくる。
壁がますますメルトダウンしてくっ!
あたしとロードくんは教室の真ん中で手を取り合った。
ああっ!足元が、床が、砂になってこぼれてゆく。
まるで砂時計の中に入ってしまったようだわ!
何がどうなっているの!
怖いよ!
あたしはロードくんの顔を見た。
「ヤシロさんは僕が護るから。大丈夫・・・僕の命に代えても・・・」
蒼白になりながらあたしを抱き締めた。
どんどん崩れて砂に吸い込まれてゆく足元。
信じられない! あたしの足、ふくらはぎまで埋もれてる・・・
もう、一歩も動けない!
いやっ!どうなっちゃってんのよ?
これは夢?幻覚?
ううん、あたしちゃんと起きてるよ!
これは現実だよ!
誰か助けて!誰か来てっ!
怖いよっ!
あたしはロードくんの胸にすがりつく。




