ふうらちゃんの電話〈ヤシロ〉
「今日は学校行っててもさ、ヤシロのことずーっと心配だったんだよね」
イブキはあたしの膝の上に頭を乗せて寝転んでいる。
あたしのお腹をそっとさすってそんなかわいいことを言っているの。
こんなにお姉さん思いの弟がいて、あたしは幸せなお姉ちゃんね。
あたしはイブキの耳をふーってして、右耳のお掃除を終えた。
「うふふ、あたしはもう大丈夫よ。じゃあ、反対の耳ね」
チャルラリララ・チャルラリララ・チャルラリ・・・
イブキが頭の向きを変えた時、あたしがベッドの上に置きっぱだったケータイが鳴りだした。
きっとふうらちゃんからだ!
「ごめん!イブキ。今日はおしまいよ。後は自分でやってちょうだい」
「えーーーっ!まだ半分じゃんっ!」
この不満顔。うふふっ・・・
イブキはちっちゃい頃から変わらないね。よしよし、いいこ、いいこ。
あたしはイブキの頭をなでなで。
でもね。
あたしがおしまいって言ったらおしまいよ!
あたしは構うことなく不満顔のイブキの頭を膝から落として立ち上がった。
「これは緊急なの。ごめんね、イブキ。ちょっとあたしの部屋から出て!」
「・・・まさか男っ?彼氏が出来たのかっ?」
イブキが床に仰向けに転がりながら、あたしの両足首を掴んだ。
「違うわよ。ふうらちゃんからよ。同じクラスの女の子よ。放しなさい!イブキ」
あたしは脚をキックしてイブキの手を振り払い、そのままイブキを部屋から蹴り出した。
「うわっ!ヤシロっ!待ってくれよ!ねぇ、おねーちゃぁーん!」
イブキがごちゃごちゃ言ってたけどドアをバタンと閉めて背中で押して鍵をかけた。
もう耳掃除どころじゃないの!
だってあたし、ふうらちゃんに聞きたいことがあるの。
だって・・・・・
お昼下がりに届いた牧野さんからのメッセージ!
一体なんなのよ、これ?
ロードくんのことあれやこれや質問して。
挙げ句にあたしがロードくんのことどう思っているかとか、学校外で会ったことあるかとか。
プライベートなことまで!
何が目的なの?このアンケートみたいなメッセージ。
まさかあの牧野さんがロードくんのこと・・・?
そういえば、昨日ふうらちゃんと放課後の教室に来て、なぜかあたしとロードくんに向かって今まで見たことないような可憐な笑みを投げ掛けてから帰って行ったからあたし、ちょっと困惑してたんだよね。
あれってロードくんに向けてたのっ?
牧野さんには3年に超カッコいい彼氏がいるんだったよね?
よくは知らないけど。
だからそんなの絶対ダメだってば!
ロードくんは絶対にだめ!
あたしは『悪いけど、そういうのは個人情報だから教える事はできません』って送っておいたらそれきり何も音沙汰なし。
このこと、ふうらちゃんに聞きたくて電話来るのずっと待ってたんだ。
予定より1時間も早めに電話くれた。
心ざわめくあたしにとってはありがたかったわ。
あたしは急いでケータイをベッドの上から手に取った。
「おまたせ。ふうらちゃん!」
あたしはケータイ片手にベッドに上がり、壁に寄りかかって膝を立てて座る。
「ああ、ヤシロ。具合はどうだい?」
いつものふうらちゃんの口調。なぜか落ち着くわ。
「うん、全然おっけーよ。ありがとう、ふうらちゃん」
「早速、今日のクラスの様子をお知らせしよう。まずは概要から言う」
ふうらちゃんによれば、今日も教室内はそれほど普段と変わりなかったという。
あたしの3股の噂などは全く流れてはいないみたい。
よかったぁー!
きっとみんなそんなの信じなかったんだね!
ただし、あたしと業村くんとの妖しい噂が昨日の午後から流れていたのは事実で、だけど今日になったらあっという間にほぼ鎮火したから大丈夫だと言われた。
なんだろ?あたしのファーストキスがなんで妖しい噂なの?
それってなんか酷くない?
どういうことよ?
ま、いいか。早くもほぼ鎮火したなら。週明け月曜日になればもう、大丈夫かな。燃料投下されない限りは。
でも学校行ってみないとわかんないよ。こういうのってさ。
ちょっぴり怖い。学校に行くのが・・・・・
入れ替わりに業村くんにはちょっとした発火が起きたのだけど、業村くんのことなので見事な捌きぶりで対処してたのですぐに鎮火して、まあまあ別段普段通りだったという。
一体何が起きたのか聞いたけど、『ボクは人を貶めるようなことは言わない』と言って教えてくれなかった。
なあに?
そんな風に言われたら余計知りたくなっちゃうじゃない?
自分以外の噂なら楽しいよね、やっぱさ。
あたしも誰だってそういうものよ。
なのに敢えて口にしない所は、さすがふうらちゃんだね。




