忍法! 撫子変幻自在〈リア〉
チャリこぎトレーニングしながらの帰り道。
ギアは一番重くしている。
おっとっと、スピード超過だったかしら?
反省。
安全運転しなきゃね。
私はこの愛車、"疾風迅雷くん" で通学している。
はー、ロードくんの特訓に付き合って喉がカラカラだしお腹もすいちゃったわ。コンビニ寄ってエナジードリンク買おうかな。ついでに新作のデザートも買って帰ろう。妹のアルの分も。私ってなんて優しいお姉さんなのかしら。
私は通りがかりのコンビニの駐輪場に愛車を止めた。
店に入ってエナジードリンクをかごに入れ、新作スイーツをチェッーク!
あった!これよ。ラッキー!
"プレミアムベルギーチョコレートコーティング北海道産ミルク使用取れて3日以内の卵だけで作りましたロイヤルスペシャルバームロール"!
よかったぁー、売り切れてなくって。
私は早速2個かごに入れてレジへ並ぼうとしたらちょうど二人組の同じ高校の制服の男子がレジを終え、開いた自動扉から店を出る所だった。
その後ろから見た二人の横顔!
きゃー!あれは牧野さんの彼氏って噂のイケメン先輩、甲斐先輩と生徒会長の桃山先輩だっ!
甲斐先輩超カッコいい!でも・・・島田先生の洗練された大人の魅力の域には敵わないね・・・・・
私はかごをレジ台へ置いて、標的を見定めるが如くの双眸でイケメン先輩の方を見てたら、なんと!その向こうに業村くんが真面目でおとなしそうな、黒髪を後ろでひとつ結びにしたこぢんまりした女子と店の入口に向かって歩いて来るのが見えた。
誰よ?その女子?
まさか・・・・・彼女?
ヤシロのファーストキスを泥棒しておいて!
「3点で750円です。」
私は手早く会計を済ませると買ったものをとにかくリュックにぶっこんだ。
ここは私がぶった斬るっ!
私が店の出口の手前、まだ自動扉が開く前だった。
私が業村くんに声をかける前に甲斐先輩と桃山先輩に先を越された。
彼らは何か話し始めたみたい。
業村くんとあの先輩たち知り合いだったんだ。何つながりなんだろ?
あの女子は何者なのよ?
私はとりあえず店の中から様子を窺うことにした。
雑誌コーナーの前に行き、彼らの姿を視野に入れつつ、ガラスに映った自分を見ながら素早くポニーテールをほどく。手ぐしで二つに分け三つ編みを作り、おさげ頭にチェインジ。
そしてこんな時に備えポケットにいつも常備しているダサいメガネと白い大きめマスクをした。
ウエストで巻き巻きしているスカートを元に戻して膝丈にする。
よーしっ、これでパッと見は私だとはわからないはず。
すぐ取り出せるか右ポケットの愛車のキーを手探りで確認した。
私は店を出ると店舗側面の壁際かどに素早く移動。
聞き耳を立てる。
いえ、立てなくても丸聞こえ。
あの業村くんの連れの女の子、声でかっ!
「・・・・入ってくれてばさー、私たちの予算は増えるわけでしょ?だからよ。ビオトープでの生態系の研究費が全然足りないんだもん。名前だけでOKなのよ。」
「だからって、お前・・・えっと、なんだっけ?そうそう、池中さん。ミアのこと、こいつにペラペラしゃべてんじゃねーよ。ミアはもうすぐ俺の彼女になる予定なんだからな。」
「何それ?ミアさん、そんなこと言って無いしー。それに私、この人が錦鯉研究会に名前だけなら入ってくれるっていうから差し障りのない事だけ教えてあげただけだもん!そんなこと言うんなら先輩が入ってよー!」
「俺は美術部の部長なんだぞ?ふざけんな!おまえ1年のくせにわきまえろよ!」
あのおとなしそうな子、まさか甲斐先輩と口喧嘩してるの?
「ふんっ!名前だけでいいのにケチっ!じゃあいいよっ。どっちにもミアさんのことなーんも教えてあげないもーん!ミアさんエキスも私の一人占めね。私もう帰るっ!今後一切あんたたち私に話しかけないでねっ!つんっ。」
池中さんという女の子は上級生男子たちに臆することも無くキャンキャンわめいてから、体に似合わぬ大股でズンズン去って行った。
あの子、大人しそうな地味な外見とは裏腹にすごいわね。
上級生男子たち相手に啖呵を切るとは。
錦鯉研究会っていう同好会の人集めのためにミアさんって子の情報売ってたのかしら?
なんかヤバい子かもね。あの池中さんていう地味だけど地味じゃない女子。
ってことは・・・あの子、業村くんの彼女じゃなかったね。
よかったー!早まって斬りこまなくって。
でも、業村くんはミアさんって子を甲斐先輩と争ってんの?
昨日ヤシロにコクったくせに?
それに甲斐先輩は牧野さんの彼氏じゃなかったんだ?
それとも浮気?
もう、何が何だかさっぱりよ!
今まで黙ってにやけて見ていただけの桃山先輩が今度は一人残された業村くんにマジな顔を向けた。
「ちょい、おまえ。生徒会長の俺から直々学校生活の乱れについて注意があるから来いや。」
「・・・えーっと、僕にですか?乱れってなんだろう?」
業村くん、さすがに2対1ではビビるよねぇ。
「おまえ、良くないよ?生活態度が。ねぇ?心当たりあんだろ。」
イケメンフェイスを近づけて業村くんの顎をちょんちょんと。
甲斐先輩こっわ。
うわっ、3人こっち来るっ!
不覚!身を隠す場所が無いわっ。
私とはバレないとは思うけど・・・・・
こんな時のために更にアレも追加!
私はリュックの隠しポケットから昭和時代の文豪によって書かれた、人間であることを否定するようなとても厳しいタイトルを持ってて、読んだことはないから自分的には内容はよくわからない文庫本を素早く取り出し、壁に持たれて読んでいる振りをした。
きっとこの本のタイトルをこいつらにチラ見させれば、おさげ髪の真面目な文学少女がたそがれて読書しているだけのように見えるはず・・・
来たっ!
私は背表紙のタイトルをこれ見よがしに立ててかざして開き、視線を本文の文字に向けた。
「・・・・・あれ?華厳さんじゃないか。何してるんだよ?そんな格好して。」
嘘。
業村くん、特殊能力持ってんの?
錦鯉研究部副部長 池中真中さんは、この時はまだイメチェン前なのでした。
(このあとの夏休み中に変身しました)




