ボクのプライドを賭けて、勝負だ!〈ふうら〉
2時限目は教室移動。
各自選択科目の特別教室に移動する。
ボクは物理基礎選択だから旧校舎の物理室へ。
「いーずみさんっ!一緒に行こうよ。」
ボクが教科書と筆記用具を持って廊下を一人歩いていると、我クラスの事情通女子、宇和島さんと深利さんが後ろから追いついて来てボクの両脇に並んできた。
おいおい、いきなりロックオンされたぞ。
小さな体のボクが両脇から押し潰されそうだ。
普段はボクに話かけてくることなんてないのに。
君たちの目的は分かっている。
昨日の午後から流れ始めたヤシロと業村くんの噂をヤシロと仲のいいボクに確かめに来たんだろう。
あれは流れ始めたと思ったらどんどん尾ひれがついてあっという間に内容もエスカレートしていった。
放課後にはかなり際どいものへと変貌したバージョンも現れた。
ボクにはお見通し。クラスのことなんて。
そう、
ボクはクラスで話されている事は大抵把握しているのだ。
ボクにちょっとした秘密があるせいで。
これは学校ではのばら以外は知らない。
それは地味なスキルなんだけど・・・・・
ボクは耳が超いいってこと。
0デシベルも聴こえるレベルだ。
リアル世界の住人としてはトップレベルの聴覚だろう。
まあ、それもボクが大鏡じいちゃんに見込まれた大きなひとつの要素でもあるんだけど。
耳が超良く聴こえるボクには、街中のちらこちらからの話し声も騒音雑音も次々と耳に飛び込んでくる。
ボクは聞きたくなくたってあっちからボクの耳に流れ込んでくるんだ。だから、ボクはイヤホンが欠かせないし、軽く耳栓してる時もある。
最近は聞こえても気にならいよう精神的なトレーニングもしてはいるけど、あまり効果はない。
そんなボクはクラス内で話される噂話などなら、聞く気がなくても聞こえてしまうんだ。
「ねぇ、あの噂は本当なの?向岸さんと業村くんが付き合ってるってマジ?」
いきなり、なんだろうな?
普段ボクとは話すこともないのにこういう時だけやって来てはいやに親しげに話しかけてくるわ、探って来るわ。
まあ、いい。こちらが広めたい情報が有るときにはこういう人は便利だ。
ちょっと言っておけば拡散してくれるから情報操作に使える。
世の中無駄な人はいないんだ。どんな人もいるだけで、何かしらの役をこなしてる。
ボクの好みには関係無く。
「なんだい?ボクは知らないな。そんな噂。初めて聞いた。詳しく教えてよ。そしたらボクがヤシロから直接聞いてること宇和島さんと深利さんにも教えてあげるから。」
ボクはギブアンドテイクを示す。
まずは情報収集。
彼女たちならボクの聞き逃していることも知っているだろう。
彼女たちの食指は動いたようだ。
自分たちの情報を喜んで提供してくれた。
しかし、彼女たちの話はボクが把握している範囲内のこととなんら変わりはなかった。
ふーん。そう・・・・・
ヤシロを巡る業村くんと賽ノ宮くんの動向のことは以前から噂になっていたけれど、ヤシロの言っていたヤシロが3人の男子と付き合っているなどという噂などはない・・・
っていうのにヤシロは今日にはそんな噂が広まっていると思い込んでいる。
・・・・・やはりな。
業村くんはまめだな。ボクが直接見た訳じゃないからはっきりとはいえないけど、たぶん自作自演のSNSを見せたんだろう。複数のアカを使い分けて。
ヤシロに見せた後すぐ削除したのか?
いや、それは業村くんが管理人してるサイトだったって可能性もある。
ヤシロを不安に陥れて強引に自分と付き合わせようとしたんだろう。既成事実を作れば後は何とでもなると思って。
とにかく、ヤシロは業村くんと付き合う振りをする必要性はない。
ヤシロと業村くんの過熱し過ぎた噂については・・・・・ここで宇和島さんと深利さんに修正しておいてもらおうか。
「でも、ヤシロは誰とも付き合ってはいないはずだよ。昨日もそう言っていたし。」
ボクは二人を交互に見上げて言った。
「えーっ!そうなの?だって、向岸ヤシロさんと業村くんって・・・しちゃったんでしょ?」
「それは、デマだ。ボクは昨日、業村くんが願望を冗談に乗せてヤシロをからかっていたのを聞いた。その言葉が大袈裟にされて事実とされて広まっただけだろう。ヤシロと業村くんの間には何もない。」
フェイクにはフェイクで対応。
これ、流れたら最終型は業村くんが実は妄想煩悩男子だった、って変貌しそうだな。
ま、自業自得だな。あながち間違いでもないし。
「なーんだ!そうだったんだぁー。仲のいい泉さんが言うならそうかもねー。」
期待はずれに落胆の顔のお二人さん。
「そんなことより、ボクが注目しているのはここで賽ノ宮くんがどう出るかだな。噂とはいえこのまま業村くんにリードされっぱなしって訳には行かないと思うけど。いくらシャイだからって。」
ここで噂の矛先を変える。
ヤシロと業村くんの仲を勘ぐる噂から "業村くんvs賽ノ宮くんついに対決か?"・・・へと。
それにここは賽ノ宮くんにも少しはシャキッとしてもらわないと。
あの男子はいくらなんでもやわやわ過ぎる。
美術の才能は認めるが今のままでは将来その才能を生かすことも難しいだろうね。
ここはリアに弟子入りしたらどうだろう?なーんてね。
「へーぇ。そこんとこは注目だね!あのひょろい賽ノ宮くんがどうすんのか。」
「うん、ボクの予想では今月中に賽ノ宮くんが勝つ方に自販機のプリン3つ賭けるよ。」
「マジ?じゃああたしたちは業村くんと向岸さんが付き合うほうにプリン5つ賭けるから!」
「よし、もう取り消しはなしだからな。」
「ふふっ、おっけーい!あの賽ノ宮くんが告るなんて出来るわけないじゃん。それに業村くんの方が断然イケてるし、賽ノ宮くんなんてほぼほぼありえないよ。うちら、プリンは頂きだね。」
・・・・・はん?僕を上回るプリン5つを賭けてくるとはずいぶんとなめられたものだな。
こうなったらボクのプライドを賭けて賽ノ宮くんを何とかしなきゃなんない。
リアと・・・のばらにも協力を頼むとしよう。
さてさて、今日も大忙しだな。
テスト前だってのに。
自分、寝てる時に襲撃してくる蚊の音には敏感だ。
すぐに電子蚊取つけるけど、結局いくつも刺されてんな。




