賽ノ宮くんの査定〈ふうら〉
そうだな・・・今日は金曜日。
ヤシロの件は休み明け月曜日には決着をつけたいところだ。
ボクは忙しい。
ヤシロのメッセージによれば、昨日昼休み、業村くんが故意に吉田くんと渡辺くんにヤシロとのキスの話を聞かせたらしい。
そうか・・・それが元で瞬く間にあの噂がクラス中に広まったんだな。
あちこちの数人の塊からボクの耳に流れ込んできたひそひそ話。
その過程でとんでもなくエスカレートした内容に変貌したバージョンも出てきた。
ボクはそれを聞いて耳を疑った。
確かにその日、ヤシロは朝から様子がおかしかった。
だからボクはランチの時ヤシロに言った。
『ヤシロは困った時にはボクに助けを求める権利がある。前に言っただろう』
そしたらヤシロは言った。
『あたしの夢が壊されたとしか言えない・・・・』
これらのことからボクは、昨日の放課後までにはヤシロは意に反しながらも業村くんとキスしてしまったらしきことは想像できていた。
ボクはヤシロが心配だった。
放課後、黒板アートの制作に一緒に残ってくれないかとヤシロに頼まれたのだが、そんな時に限ってのばらから放課後生徒会室に一緒に行ってくれと頼まれた。
ひとりでももちろん大丈夫だけど、完全を期すために一緒に来てくれと。
のばらは永井っちと業村くんには相当のおかんむりで、この件に関しての妥協は許さない力の入れようだ。
ここで断ったら後々面倒だった。
仕方ないから賽ノ宮くんにはちょっとした示唆をしておいたのだけど、あのメルヘン思考&嗜好な男子には響かないだろうとは思っていた。
案の定、賽ノ宮くんはヤシロの役には全く立たなかったようだ。
黒板に絵を描く以外は。
心配していたボクは、のばらと生徒会での用事を済ませた後、黒板アートの出来を見に行くという理由で2ー2の教室へと戻ると言ったらのばらもついてきた。
のばらはじいちゃんにボクを一緒に連れて帰るように言われていたらしい。
だからあの時ボクに逃げられるのを恐れて教室まで一緒に来たんだな。
耳の感度良好の僕には、廊下のずっと向こうからヤシロと業村くんの尖った声が既に聴こえて来てた。
のばらは教室の近くまで来るとボクの顔を見た。
『あら?この声。また業村くんと向岸さんね。うるさいったらないわ。あの人たち』
『業村くんはとにかくヤシロにアピールしたいんだろう』
『あらあら?あちこちでいろんな子にアピールしてるようね。業村くん。ふふっ、そのせいで3年生から目を付けられているのよ』
『あちこちって?それは、初耳だな』
『今の生徒会長の桃山先輩なんて校内のかわいい子は全部自分のものだと思ってるような勘違い男なのよ?業村くんみたいな一応イケメンの部類の男子が校内で目立つことしちゃったら桃山先輩が黙ってないわよ。縄張り争いかしら?同類なのに同類を目障りって嗤えるけど』
のばらはくくくっ、と抑えた嗤い声を出した。
『それに私は見たことないけど、業村くん、1年のミアさんとかいう可愛いって評判の子にちょっかい出そうとしたらしくて・・・それは特に鬼門だったみたいよ。桃山先輩とつるんでる校内No.1イケメンって評判の甲斐雅秋が彼女を狙ってるから』
『へっ?・・・それ、のばらの彼氏だろ?』
『ふんっ。そんなのフェイクよ。最初は告白されたから本当に付き合おうとしてたけど、私たち全く全然ひとえにひたすらひらに気が合わなかったのよ。だけど、彼氏ってことにしとけば私にとっては隠れみのになっていろいろ便利なの。あいつは校内で有名人だし。だからこのままにしておきたかったの。あっちはさっさと解消したがってるんだけど、まだ許さない』
『のばら・・・さっさと解放してあげればいいのに。その人』
ボクは呆れて言った。
『そうね、さっき出した要望書を雪村くんが通してくれたらその時は雪村くんに乗り換えるわ。生徒会長になればそれなりに使えるかもしれないし。その時が来たら雅秋は解放してあげる』
『怖いなぁ。きれいな花だと思って迂闊にも手を伸ばせば、のばらのいばらにからめ取られてえらい目に遭うな。雪村くんも御愁傷様だな』
『ふふん。そうかもね。さて、まずはこっちからお片付けしなきゃね?』
『そうだな』
ボクはガラリと教室の戸を開けた。
中では業村くんに腕をつかまれたヤシロがプンプンしていた。
・・・それなのに。
こんな状態なのに。
君はそこにいたんだろう?賽ノ宮くん。
なんでなんだ?
一体なぜなんだ?
君って男子は・・・・・はぁぁ
ヤシロはどうしてこんな男子のことが?
・・・人の嗜好にとやかくは言うまい。




