なにやら密計遂行中
「・・・・約束してたんだ?じゃあ後は僕が片付けておくから。いいよ、先に帰っても。」
ロードくんがタオルで手を拭いながらあたしの顔を見た。
・・・やっと目があったね。ロードくん。
「何だよ?気が利くじゃん、賽ノ宮。じゃあ帰ろうぜ、ヤシロ。」
「ちょっと、待ってよ。あたしだって掲示委員なのよ?片付けくらい・・・・・」
あたしのリュックをいつの間にか持って、業村くんはあたしの腕をつかんだ。
「じゃーなー!賽ノ宮。」
「ちょ、ちょっと・・・・やめてよ、放してよ!」
「もう、終わったんだからいいだろっ!」
「まだ終ってないよっ、片付けが!」
なんて強引なの?
あたし、無理強いされる筋合いなんてないの。
「なあに?うるさいわね、まったく。廊下にまで響いてるわよ・・・・・あら、またあなたたちなの?」
牧野のばらさんとふうらちゃんが教室の戸をガラリと響かせ現れた。
「っち。また牧野さんが、またまだいたのかよ?」
業村くんが牧野さんにガンつけてる。
業村くんのあたしの腕をつかんだ手が緩んだのでその隙に離れた。
牧野さんは業村くんのガンつけはシカト。すぐに後ろ黒板に出来上がったばかりの黒板アートに目を向けた。
「あら、素敵な仕上がりね。ねぇ、ふうら。」
「ああ、そうだな。同感だ、のばら。」
あらら、業村くん牧野さんとふうらちゃんに透明人間にされちゃったよ。
でも・・・・
よかったね、ロードくん。
今月も好評みたい。うふふ。
「ボクたち、出来上がりを見に来たんだ。そろそろ仕上がってる頃だと思って。」
「ありがとう!ロードくんとあたしの傑作よ!」
「ヤシロさん、傑作だなんて・・・恥ずかしいよ。」
あたしたちがつかの間和気あいあいとしていたら、業村くんが言った。
「帰るぞ、ヤシロ。」
「でも、まだ片付けが・・・・」
「待て、業村くん。ボクはヤシロに用がある。先に帰ってくれないか。」
ふうらちゃんが業村くんを制した。
「用って、ヤシロに何の用だよ?」
不機嫌な顔で小さなふうらちゃんを見下ろす。
「ボクは内容を人に話すつもりはないのだ。悪いな。」
ふうらちゃんは業村くんの顔色など気にも止めず淡々としている。
「ったく、相変わらず変人だな。泉さんて。訳わかんねーよ。」
「業村くんの主観的感覚によればボクは変人。一個人の感想としてありがたく受け取っておこう。では先に帰ってくれ。」
「さっさと帰りなさいよ。そういえば、3年の生徒会長の桃山先輩と甲斐雅秋が業村くんを探していたみたいよ?心当たりはあるのかしら?ふふっ。」
牧野さんが嗤う。
「・・・・・・・っち。」
業村くんは舌打ちしてからあたしの荷物をその場に放り置いて教室を出て行った。
なーに?
よくわかんないけど、この二人、何か業村くんの特殊事情知ってるみたい?
「あの・・・・?」
あたしは何が何だか分からないわ。
「ああ、ヤシロ。ついでに話しておこうかな、一応ね。賽ノ宮くんは悪いが片付けを頼む。」
あたしがロードくんを見ると、大丈夫だよってにこりとしてくれた。
「これは他言無用だ。」
ふうらちゃんがあたしに話したことは、永井っちの牧野さんへの黒く髪染め強制発言にまつわることだった。
ふうらちゃんは感情を乗せないいつもの話し方であたしを真っ直ぐ見た。
「もとはといえば、業村くんがいちいち私情を挟んだクラスの問題点を永井先生に報告するからこんなことが起きたと推測できる。そして永井先生はお気に入りの業村くんの進言に疑念を抱く発想は持ち合わせていないようだ。」
「本当に偶然なる素敵な組み合わせが出来たものだわ。ふふっ。」
牧野さんは小さく嗤った。
「ボクたちはこの理不尽に立ち向かうべきだ。」
「そうよ。この私を正当な理由無きルールで貶めておいて、このままで済むと思ったら大間い違いなのよ。」
牧野さんには不敵な笑みが浮かんだ。
・・・・何だか不安がよぎる。
「ヤシロはあの事件の生き証人の一人だ、ボクはあの時すべて録画をしていたし、のばらは音声データを録っていた。ヤシロはもしも必要になった時、それらを肯定してくれればいい。これはらは本物だと。」
「うん。事実を事実と認めることは構わないけど。」
一体この二人は何を始めるつもりなの?
「ボクたちは生徒会に生徒の髪色の自由を求める要望書を提出した。そして更に、アイデンティティーによる差別を認めないよう求めた。ここの学校の生徒会のモットーは "生徒の生徒のための生徒による内閣府となれ" だ。納得できることであれば生徒の願いを叶えるためには小さなことでも全力を尽くす。あの自動販売機のプリン導入がその象徴とされている。それが我が校の誇り。」
「夏休み前には良い結果が戻ってくるわ。きっと来月に生徒会を引き継ぐ次期会長の雪村くんなら学校側とも上手く交渉してくれるわ・・・・・ふふっ。」
「そうだな。雪村くんならそれなりに期待は持てるだろう。参謀役の神谷神露の優秀なフォローもあるし。大鏡じいちゃんの後ろ楯も・・・これはチートだな。ともかく、時代に沿った新たなルールに改正されることを期待してる。」
「じゃあ、結局特にあたしは何もすることはないじゃない?」
「ああ、ヤシロは保険だ。たぶん出番はないだろう。」
ふうらちゃんがあたしに言った。
「・・・・後は、永井センセイ自身の強制髪染め発言自体が問題なのよ。黒髪こそが日本人だなんて勘違いの人だわね。迷惑甚だしいわ。」
牧野さんは自分の長い髪を右手でパサリと払った。
「その永井っち発言のことは順調に進行中だ。牧野家のネットワークならすぐに落花生市から県政レベルまで届くだろう?のばらのお願いにはじーちゃんは甘い。議員に質問させればおもしろがって間違いなくマスコミからも注目される話題だ。さすればすぐに全国区レベルだ。別ルートでSNSでも拡散中。イングリッシュバージョンもね。」
「うふふ、楽しみだこと。」
「ボクたちは個人攻撃するつもりはない。意識改革が目的だ。こんな時代遅れの感覚のままでは世界中から批判されることもやむおえまい。」
「そういうこと。じゃ、行きましょう。ふうら。ちょっと家に寄ってちょうだい。おじいさまがふうらを呼んでるわ。直接会いたいって。」
「・・・・・了解、のばら。では、ごきげんよう。ヤシロ、賽ノ宮くん。ボクたちは帰る。今日のところは・・・追い払えたしな。」
「ごきげんよう、ヤシロさん、ロードくん。」
牧野さんが名前通り、野ばらの花のような可憐な笑みをあたしとロードくんに投げかけた。
あの牧野さんがあたしたちにこんな顔をするなんて今、よっぽどご機嫌がいいのかな?
あたし、ちょっとした戸惑いを感じるわ。
片付けはとっくに終ってて、手持ちぶさたで後ろ黒板の前で突っ立っていたロードくんとあたしは顔を見合わせた。それから牧野さんとふうらちゃんに向けて同時に言った。
「はい、ごきげんよう。」
「ごっ、ごきげんよう。」
ふうらちゃんとのばらさんが教室から出て行った。
あたしとロードくんが再び顔を見合わせたらお互いに眉間に力が入った顔難しい顔してて。
「何だったんだろ?今の。」
「さあ?よくわかんなかったけど、目標に向けてがんばってるんじゃない?」
「・・・みたいだね。」
二人でくすりと笑った。
「ねぇ、一緒に帰ろ。」
あたしはロードくんに微笑んだ。
・・・ロードくんも小さな笑みを返してくれた。




