What's happened to her?〈ロード〉
僕が教室に戻るともうほとんどの生徒が登校していた。
後ろ黒板は・・・・・ただ黒板消しでこすっただけでもやもやと粉の模様が残ったままだ。
ヤシロさんの姿が・・・・・どこだ?教室にいない?
・・・・・どこにもいないようだ。
席に座ってるリアさんにヤシロさんはどこにいるか聞いてみる。
「あー?あたし今日まだ会ってないなぁ。ほら、荷物あるし来てるよ。あー、そうね。トイレで鏡でも見てんじゃないの?あの子朝、髪の結びが気に入らないと学校来てからもやりなおしてるし。そのうち戻ってくるわよ。いひひー!朝からヤシロに早く会いたくてたまらないんだ!ロードくん。」
ニヤニヤと僕を見るリアさん。
「そ、そんなんじゃ・・・・・」
僕とヤシロさんじゃ全然釣り合わないのに・・・・・僕を冷やかすなんて、人が悪いな。リアさんたら。
僕は自分の席に着いた。
僕の前にはヤシロさんがいないヤシロさんの席。
業村くんは大高くんと機嫌よさげに窓際で話している。
きれいに拭き取られていないままの後ろ黒板。
時間は充分あったはず。
何で?
ヤシロさんが途中でやめてしまっていなくなるなんておかしいじゃないか?
ケータイを見ると予鈴まで後2、3分。
業村くんに聞いてみよう。
彼に話しかけるなんて嫌だけど。
僕は楽しそうに話してる業村くんと大高くんの前に立った。
「業村くん、黒板、途中になってるけど、どうして?ヤシロさんと係の仕事してくれたんじゃなかったの?」
僕の問いかけに業村くんは高飛車なゲス嗤いを浮かべた。
僕の肩に腕をかけて隅っこに誘導してから耳元に手を添えて僕にささやいた。
「俺、コクるっておまえには言ってあったよな。だからそんな暇なくってさ、わりーな。」
僕はびくっとして業村くんの顔を見た。
業村くんは僕の耳に聞きたくなかった追加情報をささやいた。
「協力あざー、賽ノ宮。お陰でヤシロはもう俺の彼女になったも同然。最初の儀式も済ませたし。ひひっ。」
「ま、まさか・・・・・」
彼女になったって?
ヤシロさんがOKするはずない。
儀式も済ませたって何?
青ざめるのが自分でわかった。
「残念だったなー?賽ノ宮。おまえみたいなのが俺に太刀打ち出来るとでも思ってた?」
「おい、おまえら、何こそこそ話してんだよ?」
大高くんが気分悪そうに僕と業村くんを見てる。
「いいだろー?何だって。」
業村くん、このこと大高くんには話してない?
予鈴が響いた。
茫然としてる僕を無視して業村くんと大高くんはそれぞれの席に戻って行った。
予鈴がなったけどヤシロさんは戻ってこない。
もうみんな自分の席に着席しているのに。
空いたままの僕の前の席。
僕がいつも見つめている君の後ろ姿がないことに不安を覚える。
どうしたんだ?僕が君を置き去りにしてしまった間に何かあったんだ。きっと。
どこに行ってしまったんだ?
教室のガヤガヤした喧騒が空々しく僕の耳に響く。
あっ!・・・・・後ろ扉がガラリと開いてヤシロさんが戻ってきた!
まだ先生が来てないから、みんな自分の席に座ったまま、周りとおしゃべりしたり、宿題写してたり、ケータイ見てたりしてヤシロさんが遅れて戻ったことなど気にしてる人はいない。
僕と、業村くん以外は。
業村くんが前の席の忠岡くんと話しながら振り向いてヤシロさんが着席するのを目で追っている。彼女が着席するのを見るとまた前を向いた。
僕はヤシロさんが椅子に座ろうとした時、目があったけどすぐにそらされた。
いったい何があったんだ?業村くんと。
今、ヤシロさんの視線は業村くんの後ろ姿に向いているいるようだ。
まさか、業村くんの言ったことは本当?
業村くんアンチは多い。だけどカッコいいルックスで一部女子に人気なのは事実。
まさか、ヤシロさん告白されて気が変わった・・・・なんて?
ヤシロさんは普段授業が終わった後は後ろの席の僕にしょっちゅう話しかけてくれる。
時には授業で解らなかったことを聞いてきたり、時には掲示委員の仕事の話題だったりするけど、大抵は特に何でもないようなこと。
『授業中あたしのお腹が鳴ったの聞こえた?』とか『ロードくん、お弁当今日は何?』とか。ディスプレイを見せて『見て見て、昨日素敵なイラスト見つけたよ!』とか。
とにかく彼女はいつも明るくて笑顔で元気でやさしくて。
たまに強引で、たまにすねてるらしき態度・・・・・そんなところも僕には魅力的でかわいく思える。
もう4時間目が終わった。
なのに今日の君は僕の方を、後ろを振り向く事は無かった。
後ろから時折わずかに見えた君の横顔。
僕の心の中で、もやもやと不安の渦が時間と共に濃くなってきていた。
ーーーそれなのに、それにも関わらず、
朝、君と業村くんに何があったのか君に聞く勇気がなくて、僕は君の背中をつつく事さえ出来ずに・・・・・




