物憂いヤシロ姫
その日の午前中の授業は全く頭に入らず。
そして、お昼休み。
「どうした?ヤシロ。」
ふうらちゃん、眉根にちょっと力がこもってる。
「何でもないよ・・・・・・」
「ほら、ウインナ。今日はエイリアン型だ。」
気づけばあたしのお弁当の真ん中にピョコンと親指宇宙人が立っている。
「・・・・・うん、ありがと・・・かわいいね。」
「・・・・・じゃ、ボク、代わりにこのちくわ揚げもらうからな。」
あたしの顔を伺うように見ながらちくわを持っていく。
「うん・・・・・・」
リアがふうらちゃんと顔を見合わせてる。
「・・・・ヤバい、一体今日はどうしたのよ?ヤシロ。大好きなちくわ揚げだよ?いいの、マジで?」
「えっ?ちくわ・・・・・」
「もう、手遅れだ。ヤシロ。ちくわ揚げは既に消費された。」
もぐもぐしながらふうらちゃんがあたしを見てる。
ふうらちゃんの表情筋はあまり動かないけれど、少し動いてる。あたしはその動きを読み取る事が出来るようになってる。
ふうらちゃんあたしのこと心配してる。リアはいかにも不審そうにあたしを見てる。
「なんかあったの?朝からぼーっとしてさ。」
リアがパンのおまけに入ってる銀色の袋で隠密にされてるデコキャラシールを開けながら、あたしと自分の手元を交互にチラチラ見てる。
「うっそ!きゃー、第2回イーブイラッキーシール!今度こそ私のもの!きゃっはー!」
浮かれていろんな人に見せびらかしに回り出した。
向こうではしゃぎながらまずは鷺坂さんにシールを見せてるリアを横目に、ふうらちゃんがあたしに言った。
「ヤシロは困った時にはボクに助けを求める権利がある。前に言っただろう。」
「・・・・・うん、ありがとう。でも今は誰にも言えないよ。」
「・・・・・そうか。」
「あたしの夢が壊されたとしか言えない・・・・」
ーーーそう、あたしは今朝いきなり告られた。
嫌いな男子に。
しかもあたしの夢見ていた大切な大切なファーストキスまで奪われるという悲劇と共に。
あたしはショックで女子トイレに駆け込んだ。
そしてうがいをし、SHRの予鈴がなり終わるまでこもっていた。
教室に戻った時にはみんなもう着席していて、近くの席の人とおしゃべりしながら先生が来るのを待ってるガヤガヤ状態だった。
あたしが自分の席に着席する時、後ろの席のロードくんと目が合った。
ロードくんは何か言いたげだったけど、あたしは余裕が無くてそのまま目をそらした。
後ろ黒板は黒板消しで消しただけで結局まだきちんとクリーンにはされてない。
ロードくんは何か気づいてる?
まさかね。
そうよ・・・・・あんなことロードくんに知られる訳にはいかない。ううん、誰にもだよ。
右斜め前方の業村くんの後ろ姿を見る。
いつもと変わらない態度で前の席の忠岡くんと話してる。
トイレにこもっていたあたしのスマホには、いつの間にかクラス全体グループとは別に、業村くんからあたしだけに個別メッセージが来ていて、昼食後ベランダで二人で話そうって言われた。
もちろんあたしはそんな気はないから即座にお断りのメッセージを返した。
ついでにお付き合いもお断りしておいた。
お弁当の包みを戻していると業村くんが来た。
げっ!何の用なのよ。
もう、お断りしたはずよ?
「いいから、ちょっとベランダに来て。大事な話がある。」
何なのよ!前はベランダに出てたロードくんに注意するだの言って責めてたくせに。
ほんと、ムカつく。このダブルスタンダードめ。
ベランダには5月の爽やかな風が吹いていた。
あたしの心とは裏腹に。
「グラウンドに人が結構いるな。しゃがんで。ヤシロさん。」
あたしたちはしゃがんでベランダの囲いに隠れた。
ここは本当は立ち入り禁止ゾーンってことになっている。
「ねぇ、何で断って来たのかな?僕に何の不足があるの?」
はっ?業村くんは自分のこと完全無欠だと思っているのかしら?
「いきなりあたしにあんなことしておいて何言ってるの?あたしすっごい傷ついたから!」
「・・・・それは謝る。でも、どうしても君の最初になりたかった。ヤシロさんがまだしたことないって知って。」
「ひどいよ、知っててそんなことするなんて悪質。あたしは好きな人とロマンティックなシチュエーションを予定してたのに!」
「だったら、僕のこと好きになったらいいだろ?そしたら同じだ。」
「あたし、業村くんのこと好きってわけじゃないから。」
ロードくんの自己紹介をディスった業村くんと大高くんは最初から好感度マイナスなのよ!
「・・・・・やっぱ賽ノ宮のこと好きなんだ?」
「違うって言ってるでしょ。尊敬してる友だちよ。」
何でみんなそう思うの?
あたし、ロードくんのことそういう風に思ってるんじゃ・・・・・?
素敵な絵を描くロードくんをすごいって思っているだけなんだから・・・・・




