朝早い教室で
次の日の朝。
あたしはいつもより15分だけ早めに家を出た。
朝の内に後ろ黒板をきれいに消しておかなければならない。
そして昼休みに下書きして放課後に仕上げるの。
そんなに時間はかからない。
アートのために使える面積はそんなに大きくはないから。
他のお知らせや予定も書くスペースが半分占めてるし。
いつもより早めに着いた学校。グラウンドでは運動部の朝練の声が響いてる。
あたしは誰もいない階段を3階まで登る。
廊下では数人とすれ違っただけ。あのガヤガヤしたざわめきはどの教室からも聞こえてこない。
ほんの15分早いだけでずいぶんと風景が変わるのね。
2ー2
いつもの教室。
ぼそぼそ声が聞こえる。
「・・・・・・・・ンスだと思っさ・・・・・・・・・・・協力しろ・・・・・・だったら・・・・・」
「・・・・そんなこ・・・・・僕は係の仕事・・・・・・・」
「・・・・・・・・出来ない・・・・・・・ったら覚悟しと・・・・・クラスん中・・・・・・・・・・だな?」
もう、何人か来てるのね。ロードくんも来てるかな。
「おっはー!」
あたしは閉まっていた教室前扉を開けた。
「!」
ロードくんと業村くん。
後ろ黒板を背にしたロードくんがこちらを見た。
ロードくんと相対していたらしき業村くんが笑顔で振り向いた。
「おはよう!ヤシロさん。」
「・・・・・おはよう。」
ロードくんの声が沈んでる。
よりにもよって業村くんと二人きりだったなんて。
「今日はずいぶん早いんだね。ヤシロさんと賽ノ宮。」
「掲示委員の仕事よ。・・・・・ごめんね、あたし遅かった?ロードくん。早速始めよう!」
あたしは自分の荷物を自分の椅子に下ろしながら言った。
先月のクローバーと蜜蜂の絵は黒板消しで上の角だけ中途半端に消されている。
「賽ノ宮は部室に用があるんだってさ。なっ、賽ノ宮。いいから行けよ。僕が代わりに手伝うよ。ヤシロさん。」
「で、でも・・・・・・」
「消すだけだろ?大丈夫だって。僕たち友だちじゃん、賽ノ宮。気にするなよ。行ってこいよ、ほら。」
どういうこと?
「ロードくん、用事なの?」
「あっ、いや・・・・・・・」
もぞもぞしてるロードくん。
あたしに遠慮して用事のこと言えなかったの?
別に言ってくれてよかったのに。
「いいよ?用事があるなら。大丈夫だよ、ロードくん。ごめんね、忙しかったのね。こっちは任せて。」
「でも・・・・・・」
ためらうロードくん。
「ほら、ヤシロさんもいいって言ってるだろ?早く行けっちゅーの。」
業村くんにせかされてロードくんは教室を出て行った。
「ここ、全部消せばいいの?」
黒板消しを持って業村くんがあたしに聞いた。
「うん、ありがとう。あたしチョークの粉を拭く雑巾持ってくるね。」
・・・・仕方がないよ。業村くんとなんて嫌だけど。
すぐ終るし。こんなの。
「完全にきれいにしないとだめなの。」
「了解!」
あたしが雑巾をもってくると業村くんがもう消し終わっていた。
「黒板消しだけじゃ、もやもやが残ってキレイにならないな。」
やだ、業村くんたら・・・・髪から制服のジャケットの肩も袖口も白く粉だらけ。
「上着、着たまま拭いたの?粉だらけよ?髪にも積もってるよ。」
「ほんと?」
そう言って顔をこするからから目の上にも粉が。
目に粉が入ってしまうわ。
「手が汚れてるのに顔を触ったらだめよ!じっとしていて。目を瞑って。」
あたしはまだ使っていないハンカチで目の上をそっと拭ってあげた。
「いいよ。目を開けても。もう大丈夫よ。とりあえず手を洗った方がいいね。その前にベランダで粉、払った方がいいかも。払ってあげるから。」
世話がやけるわね。どーゆー消し方したのかしら?まったくもう。どうやったらこんな粉だらけになれるのよ?
ベランダに出ると空気がちょっとひんやり。
「ほら、頭出して。」
細かく降り積もった粉をさっきのハンカチでぱんぱん払う。
「次、肩。後ろ向いて。」
同じくハンカチでぱんぱんする。
「このハンカチで手を拭って袖口も払っていいよ。」
もう、どうせ汚れてるし。
「ありがとう。優しいんだな。ヤシロさんて。」
爽やかフェイスの微笑み。
だからってあたしは騙されないわ。
初対面のロードくんをディスったのは業村くんと大高くん。
「このハンカチ、洗ってかえすから。」
「いいのよ。このまま返してくれれば。」
あたしは受け取ろうとしたのにさっと自分のポケットに入れてしまった。
「いいってば。」
それ、あたしのお気にのハンカチ。
あたしは業村くんのズボンの右ポケットからはみ出してるあたしのハンカチに手を伸ばした。
「おっと!」
業村くんがとられまいと避けたのであたしはよろけてしまった。
「きゃっ!」
顔が業村くんの肩にぶつかってそのまま抱き止められた。
「大丈夫?」
「う、うん。ごめんね。」
業村くんの顔を見た瞬間。
あたしのくちびるに!
「ヤシロさん。僕は君が好きだ。僕と付き合って欲しい。」
いきなりうばわれたくちびるに茫然としてるあたしに業村くんは言った。




