I've known you since that time 〈ロード〉
向かい合ったテーブルの向こう側。
僕の顔を見ている君の視線を僕は真っ正直から受けとることなど出来やしない。
だって、君は僕にはまぶし過ぎるから。
君は言った。
『・・・・・あたしね、一年生の頃からロードくんの名前は知っていたのよ。どうしてかわかる?』
わかるよ、僕。
知っていたから。
君が僕の絵を見ていてくれたこと。ずっと前から。
君は僕自身のことなど覚えてはいなかった。
あはは、当たり前だよね。僕みたいな冴えない男子のことなんて。
僕と君は一度だけ言葉を交わしたことがあったんだよ。
あれは・・・・・1年の1学期の期末考査で部活動自粛期間に入る日のことだった。
そう、去年の7月頃だね。あれは約一年も前のこと。
僕は前日に部室に忘れ物をしてしまっていた。
追加した新色のコピックが増えてペン入れケースに入りきらなかった分を別のペンケースに分けて入れた。その分をうっかり部室に置いて来てしまっていた。
あれがないと僕は家で描いているイラストに色がつけられない。
2週間もの間あれ無しではキツい。
僕は昼休みに部室の鍵を職員室で借りてきて部室へ向かった。
そこに君がいた。
友だちと二人で部室前の廊下の壁に展示されているイラストの批評をしていた。
僕はちょっと部室に入りづらくなってしまって。
彼女たちから少しだけ離れた所で壁にもたれてケータイをいじる振りをした。
そしてその子たちの様子をさりげなくうかがっていた。
『見て!これとこれとこれ。イラスト超綺麗だよ!』
『どれ?うん、そうだね。』
『もうー!セナちゃんたら、その言い方感動が足りないよ!』
『はいはい。きれいきれい。確かに上手いじゃない。』
『こんな素敵な絵を描く人ってどんな人なんだろ?セナ、この賽ノ宮ロウドって人知ってる?男子かな、女子?』
『さあ?知らなーい。あたしに創作文化部の友だちなんているわけないっしょ。』
『たぶんめっちゃ素敵な人だよ、絶対。』
『ただのヲタでしょ。もう行くよ、ヤシロ。』
『・・・うん。』
昼休みがもうじき終わる。
早く忘れ物を取ってこなければ。僕は職員室に鍵だって返しに行かなければならない。
僕は彼女たちが後ろ姿を見せたのですぐさま部室の戸の鍵を開けにかかった。
時間があまり無い。
僕が戸をガラリと開けた時、彼女は僕の横にいた。
『あのっ、すみません!創作文化部の人ですかっ?』
ちょっと焦り気味な顔で僕の目を見つめる彼女。
僕はその一瞬で彼女の顔が心に焼き付いてしまった。
さっきまではほとんど後ろ姿しか見えてなかったんだ。
真っ正直から僕を見つめるその女の子。
少しくせ毛の長い髪を2つに耳の下で結んでいる。
好奇心に溢れたキラキラした瞳。
ちょっと赤らめたほほ。
犬歯1本だけ、ほんの少しだけ乱れた歯並び。
唇の右下にある小さなほくろ。
少し離れたところで彼女の友だちがこっちを見ている。
僕は彼女の友だちが創作文化部員をヲタとディスってるのを聞いてしまっていた。
『いえ。』
僕はひとことだけ言った。
『あのっ、賽ノ宮ロウドさんって知ってますか?』
彼女はさっき僕のこと、めっちゃ素敵な人だと妄想していた。
僕が僕だと僕は答えることなんかできないよ。
『さあ?』
僕は答えた。
君は僕の答えに明らかに落胆していた。
『そうですか。急にすみませんでした。』
僕は部室に入って戸を閉めた。
急に心臓がドキドキしてしまって。
そっとまた戸を開けて廊下を見た。
彼女と友だちの去ってゆく後ろ姿が見えた。
僕の描いた絵を好きになってくれた女の子。
ヤシロさんって呼ばれてた。
衿に着けたバッジで1年6組だとわかった。僕は1組。
ほとんど接点はない。
でもそれ以来僕の目は、ふと気づけば校内で彼女の姿を無意識のうちに探すようになっていた。
僕の心に焼き付いた君の姿を。




